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人生は不安に決まってるじゃないですか。| 養老孟司

TOKYO80s

No. 896(2019.07.01発行)
新・珍奇植物

養老孟司(最終回/全四回)

 解剖学の研究をしているうちに、物事を解剖して考えるようになりました。方法には必ず目的がありますからね。今の人って、「やってるのは自分だろ」っていうのを忘れるんですよね。特に科学はそうですよ。客観的な事実というけれど、お前が見てるんだろ? ってね。客観的な事実ってどこにあるんですか? 実はそれは神様目線ですよ。一神教の世界ではあり得るけれど、人にはそんなものはないですよ。人は一生、ほかの人と同じものを見ることができないって気がついてます? 同じテレビ番組を見ていても、見ている角度が違いますよね。そういうことを外に発表するようになったのは退官後ですね。学会は一種の業界で、その前提に外れることは言わないことになってますから。退官するまでは辛抱して、それで研究の世界は辞めました。地位とか安定を捨てることに不安はなかったかって? 人生は不安に決まってるじゃないですか。そういうふうに聞く人って、本当の意味で不安に対処したことがないんじゃないかな。不安に対処しないと人生ってやりにくいよね。「そんなことでは不安です」と言う人、よくいるじゃない。冗談じゃねぇよ、不安じゃねえやつと虫捕りに行けるかよってね(笑)。熱帯のジャングルに行ったら、どこから蛇が出てくるかわかんないですからね。今だって不安ですよ。これからどうなるかってね。『バカの壁』を書いた時は、あそこまで受け入れられるとは思っていませんでした。一番好きなのが虫捕りでしょ。一般性はないし、解剖なんてもっとひどい。書いて話題になった時は、多分、色々誤解してるんだろうなって(笑)。僕はね、書く時の一番モチベーションは、世間とのズレというか違和感なんです。「これ、どうなってるんだ?」というね。『遺言』
では人間の特徴がどうして違うのかを指摘したんですけどね。その反応はまだないですね。これからは虫ですよ。この虫とあの虫は同じ種類かというね。これ、大の大人が喧嘩するぐらい大変なんですよ。みなさんにね、いつも怒るんですよ。虫ってね、とても一生の間に見切れるものじゃないんです。何しろ3000万種いますから。一番見たいのは、見たことのない虫です。まだたくさんありますよ。人生を一言で振り返るとね、意外に普通じゃないかなと。変わった人生はたくさんあるわけだし、27年国家公務員をやってたわけだからね、一応(笑)。(了)

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ようろう・たけし

1937年生まれ。医学博士、解剖学者。『バカの壁』など著書も多数執筆。

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PHOTO/
SHINGO WAKAGI
TEXT/
KUNICHI NOMURA
EDIT/
HITOSHI MATSUO

本記事は雑誌BRUTUS896号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は896号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.896
新・珍奇植物(2019.07.01発行)

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