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フィールドを超えて惹かれ合う、2人の音楽家、文筆家が再会。

BRUTUSCOPE

No. 896(2019.07.01発行)
新・珍奇植物

小西康陽が10年ぶりに上梓したバラエティブックを、Struggle For Pride 今里が読み解く。

今里 
『わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム 1992−2019』出版、おめでとうございます。小西さんのエッセイは教科書のように読ませてもらっているんです。
小西康陽 
ありがとうございます。
今里 
レコードや本に関してはもちろんですけど、特に映画に関してはどこから観ていいかわからなくて。そんな時に『これは恋ではない 小西康陽のコラム1‌9‌
8‌4−1996』と出会った。映画について書かれている文章など、まずタイトルから興味をそそられるので、観てみようという気持ちで読み進められるんです。『わたくしのビートルズ』では、勝新太郎主演の『顔役』(1971年)を取り上げていらして、嬉しくなりました。
小西 
未ソフト化の作品ですね。
今里 
10年以上前に、観たことがあるんです。勝新太郎さんの生誕80周年のお祝いに、西麻布にあった〈Space Lab Yellow〉で、PAYBACK BOYSなどのバンドを招聘したイベントの一環として上映したんです。
小西 
え⁉ 知らなかった!
今里 
『顔役』のオープニングテーマが大好きなんですけど、サウンドトラックがレコードになっているかご存じですか?
小西 
村井邦彦さんがスコアを書かれていますよね?
今里 
そうなんです。どうも『The Melody Maker〜村井邦彦の世界〜』というボックスセットに入っているみたいなんですけど、レコードで欲しくて。
小西 
見たことないな。とにかく今里さんが『顔役』をご覧になったイベントが羨ましい!
今里 
それから、女優の麻生れい子さんについての記述もありますね。僕の母と仲が良かったんです。
小西 
そうなんですか!
今里 
僕が子供の頃にお会いした時には引退されて、農家へ嫁がれていて。車が1台しか通れないような山の中で生活をされていて、何度か伺ったんです。その後、僕の母が亡くなった時に、電話をいただきました。
小西 
しかし、今里さんとお話しする時は、いつも意外な名前が出てくるんですよね。共通の物事を知っていても、見方や聴き方が違うので、僕にとってはすごく新鮮です。ちなみに、大阪のミニコミ雑誌『ニューヒロバ画報』に書かれている文章を読ませていただいているんだけど、本当に素晴らしい。いつか文章もまとまった形で読ませてほしいと思います。僕も昨年参加させていただいたStruggle For Prideの楽曲「全ての価値はおまえの前を通り過ぎる」で読ませていただいたテキストも面白かったけど。
今里 
そう言っていただけると嬉しいです。『ニューヒロバ画報』は〈JAZZBO RECORD−MART〉の店長だった横山さんという方が関わっている冊子なんですけど。他誌で連載させていただいていた「私の人生、人生の夏」を『ニューヒロバ画報』で続けているんです。『わたくしのビートルズ』に話を戻します。トラックメーカーの三浦信さんの作品を紹介する文章で、艶のある女性を連れたレコードディーラーの話が出てきますが、実在する人物なんですか?
小西 
半分本当だけど、半分は嘘っぱち(笑)。『ぼくは散歩と雑学が好きだった。小西康陽のコラム 1993−2008』を出した後、今里さんから「本を読んでパリへ行きました」というメールをいただいたんですけど。パリの文章が全部嘘のパートだったらどうしようかと心配しました(笑)。
今里 
小西さんの旅行記を読むと、場所やお店の名前も具体的で、その土地の空気を肌で感じることができる。嘘か本当かは重要じゃないと思います。
小西 
それならよかった。先日、出版記念のトークショーで対談した漫画家の川勝徳重さんから、僕の文章の特徴は、不愉快な時、怒りを感じた時の記述が強烈だと言われて。自分では気づかなかったんですけど、確かにそうなんですよね。そういう意味では、全然大人じゃないんだよなぁ。
今里 
エッセイにしてリベンジするという手もあるのかと、勉強になりました。
小西 
そんな物騒なつもりはないけど。
今里 
私的な事柄も書かれていて、ご自身の記録でもあると思うんです。ファンにとっては、小西さんが今何を考えられているのか、わかるのが嬉しいという。
小西 
昔の話だけど、苦手なインタビュアーから「歌詞は体験を基に書かれているんですか?」と聞かれたことがあって。「歌詞は日記じゃない。全部嘘です」と答えた。もう正直言うけど全部日記なんだよね。バレてきちゃいました。
今里 
正直な告白です(笑)。

『わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム 1992−2019』

『これは恋ではない』(1996年)、『ぼくは散歩と雑学が好きだった。』(2008年)に続く、10年ぶり3冊目のバラエティブック。日常の気分を書いた日記から、レコードに関する記述はもちろん、年間600本を観賞したという映画リストまで。全415ページ。朝日新聞出版/3,300円。

photo/
Naoto Date
text/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS896号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は896号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.896
新・珍奇植物(2019.07.01発行)

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