エンターテインメント

一期一会の劇場体験。もぎり経験者が語る、映画館でしか味わえないこと。

BRUTUSCOPE

No. 896(2019.07.01発行)
新・珍奇植物
片桐はいり(左)、伊勢志摩(右)

本編の前のお通し感覚。映画館愛をふんだんに盛り込んだ、片桐はいりの主演映画『もぎりさん session2』が公開。

18歳から7年間、銀座映画館で「もぎり」のアルバイトをし、今も地元のキネカ大森でときどきもぎりをしている片桐はいりさん。街の小さな映画館を応援したいと、昨年、キネカ大森の先付けショートムービー『もぎりさん』に出演。今夏、第2弾が公開される。俳優仲間で、もぎり経験者の伊勢志摩さんと映画館愛を語ってもらった。

片桐はいり 
伊勢さんとは「あれ、観ました?」と会うたび必ず観た映画について話してますね。それはお互い「もぎり出身」だからかな。現場派?というか。シネフィルのコアな感じとは違う。
伊勢志摩 
蓮實重彥さんが絶対に観ないようなものも観ますもんね(笑)。
片桐 
私なんかキネカ大森に行っても、「今、何なの?」というのが口癖になっていて、流行っているものとか、最近何が良かったかという現場の声を聞きたくなるんです。伊勢さんは、いつ頃もぎりをしてたんですっけ?
伊勢 
25歳の頃に恵比寿の映画館でヘルプみたいに入っていて、その後30歳の時に歌舞伎町の映画館に。すでに大人計画で役者もやってました。『もぎりさん session2』に映写室が出てくるのを見て、私も映写技師さんと仲良くしていたら、入れてもらえたのかな? と思いました。一度も入ったことがなかったので。
片桐 
映写室は聖域でしたよね。私も、銀座でもぎりをしていた頃は入れませんでした。出札(チケット販売)もやらせてもらえず、もぎりオンリー。でも、今ではもぎりが売店もやるし、キネカでは映写もやってますよ。2013年頃からデジタル化が進んでますけど、フィルム映写機をフィーチャーしたくて、『もぎりさん』に盛り込んでもらいました。
伊勢 
私がもぎりをやっていた頃は、入れ替え制じゃなかったので、平日の昼間、お客さんが数人しか入っていないと暇で、控え室にいるのも退屈だから、客席にいたんですよ。
片桐 
私も客席が休憩室代わりだった(笑)。
伊勢 
土日は忙しいけど、平日は1日3回、約1ヵ月間、同じ作品を観続けるという体験をした。自発的に観たい作品じゃないというのがポイントなんですけど(笑)。でも、繰り返し観ても飽きないんです。『ワイルド・スピード』とか『リトル☆ニッキー』とか、何十回観ても面白かった。
片桐 
名作と言われてはいないけど、実は面白いという作品を見つけるのも、「現場派」ならではですよね(笑)。
伊勢 
DVDだったら寝ちゃうのかもしれないけど、劇場だと面白い。同じ映像でも、映画館で観るのと家で観るのとは全然違いますよね?
片桐 
別物です! ルールの違う競技といっていいくらい、まったく違うと思う。私はDVDで観たものは映画を観た勘定には入れてないです。
伊勢 
その時もう一つ発見したのは、同じ映画館の同じ作品でも、毎回客席の反応が違うということ。どっかんどっかんウケる回もあれば、全然反応しない回も。率先して笑う人がいるかどうかが少し関係しているかもしれないけど、はっきりした要因はわからない。
片桐 
観客の座る位置とか、その時の気温とか、その日その回でのみ、そのハコのなかで熟成される空気が確実にあるんです。
伊勢 
芝居で笑いをやって、ウケない日があると、演者は責任を感じてしまう。でも、「喜劇役者たちよ、ウケなくても自分のせいと思うな」と言いたい(笑)。
片桐 
私も一人芝居をした時、舞台上は1人だけど、お客さんが150人なら、151人で作っている感覚でした。客席の様子でどうとでも変わる。どんな観客が来てどんな空気になるのか、当たり外れも含めて映画館の楽しみ。ぜひ、劇場体験をしていただきたいです。ただ、それをノスタルジーに捉えられるのはイヤなんです。先日も、若いタレントさんを相手に「ぜひ、映画館で!」と話していたら、ポカンとされてしまった。完全に私、昭和の遺物になっていました(笑)。
伊勢 
ええ? そこまで?
片桐 
映画館体験は、人間の根源的欲求と信じたいんですけど。いずれにせよ、映画館離れが進んでいるので、子供に劇場で映画を観せる努力をしないとですよ! 最近、暗闇を怖がる子が多いらしいです。伊勢さんのお子さんはどうですか?
伊勢 
大丈夫です。この間、『名探偵コナン』と『翔んで埼玉』を観て喜んでましたから(笑)。
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『もぎりさん session2』

監督・脚本:鈴木太一(第7話〜第9話)、瀬田なつき(第10話〜第12話)/出演:片桐はいり、佐津川愛美、川瀬陽太ほか/本編上映前に流れる、1本約2分の先付けショートムービーの第2弾。藻霧さん(片桐はいり)を中心に、映画館スタッフと観客が繰り広げる、くすりと笑える映画館エピソード。7月12日、キネカ大森で先行上映後、テアトル系劇場で公開予定。
キネカ大森

片桐はいり

かたぎり・はいり/1963年東京都生まれ。俳優として舞台、映画、テレビで活躍。著書に『もぎりよ今夜も有難う』(幻冬舎文庫)など。7月20日〜8月12日、本多劇場で舞台『二度目の夏』(岩松了作・演出)に出演。地方公演あり。

伊勢志摩

いせ・しま/1969年岩手県生まれ。91年より大人計画に参加。昨年、大九明子監督の『もぎりさん』第1話にも登場した。12月から、松尾スズキ作・演出の舞台『キレイ─神様と待ち合わせした女─』に出演する。

photo/
Aya Kawachi
text/
Tomoko Kurose

本記事は雑誌BRUTUS896号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は896号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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