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珍奇植物栽培マニュアル 基本編

BIZARRE PLANTS SURVIVAL MANUAL

No. 896(2019.07.01発行)
新・珍奇植物
世界の果てからやってきて、ユニークな姿と生態で人々を魅了する珍奇植物。それをマンションのベランダなどで育てるコツを、その道のプロに尋ねた虎の巻。自生地の厳しい自然環境が生んだ珍奇な姿を、本来の魅力ある姿のままで育てるために。

そもそも、珍奇植物とはなにか。

広辞苑で「珍奇」と引くと「めずらしく、奇妙なこと」とある。つまり珍奇植物とは、科や属などの分類的な垣根を越えて、珍しく奇妙な植物をおおまかにくくる場合の呼び方だ。自然が生んだ形に驚き、それを愛でてきた先人が、古くから言い習わしてきた呼称でもある。
「一地方でしか発見されない珍しい植物」「どこにでも分布する種であっても、形や生態が珍奇なもの」とは、かつて荒俣宏氏が博物学的花図鑑『花の王国』の第4巻で「珍奇植物」をテーマにした際、冒頭で掲げた選択基準。明確な定義のない「珍奇くくり」の植物を、端的に言えばこうなるというお手本だ。
 
ちなみに英語における一般的な通称は、「奇妙・奇怪な植物」を意味するビザールプランツ。洋の東西を問わず、人の目を釘づけにする、珍なる植物の育て方。まずはその心構えと基本のいろはをその筋の専門家、スピーシーズ ナーサリーの藤川史雄さんに聞く。

まずは自生地を想像すること。

「栽培の手引きを作る前に、最初に言っておきたいのは、すべてに当てはまるマニュアルはないということです」
 
藤川さんはそう言って、あらかじめ念を押す。大体同じグループとして分けた中でも、高山性の種類もあれば、低地に生えるものもある。暑いところに生えるものがある一方で、寒いところの植物もあるからだ。

「だから自分でもその植物が自生する環境を調べ、想像してみるといいですね。珍奇なものは、自然条件の過酷な場所や、人があまり入っていかない環境に生えていることも多い。そしてそんな場所で生き残ってこられた植物は、その形になんらかの意味があるんです」

例えば葉を筒状に生長させて、その中に水を溜め、吸水をするタンクブロメリアは、ほかの植物が生えないカラカラに乾いた岩の上にも進出できる。多肉植物が持つ貯水機能も、自生地の乾期をやり過ごすのに役立つものだ。
「そんなことを想像しつつ、世界の果てにいた植物を目の前に置き、現地での姿同様に株が間延びしないようコントロールするのが、珍奇植物栽培の楽しみです。もちろん自生地とは環境が異なるわけだから、うまく育つかどうかはわからない。でもそんなドキドキ感も醍醐味の一つだと思います。時々失敗しても、そこから、次のために学べることもあるはずです」

植物を育てる権利を買う。

「植物を買う前に知っておいてほしいのは、買って集めて終わりではないということ。植物は飾っておけば済むというものではないから、育てる場所に合ったものを選ぶのが大前提です」
 
例えば終日、日が当たらない場所で日差しを好む多肉植物を育てたいと思っても、それはやはり無理がある。
「植物を買うということは、モノを買うのとは違って、植物を育てる権利を手に入れること。例えば犬を飼う場合、育てながらいろいろな楽しい経験をしますよね? 植物もそれと同じです。飾るより、育てて楽しむことを第一に考えるといいですね。植物を本来の魅力ある姿に育てられるようになれば面白くなるはずです。ゲームでレベルが上がっていくのに近い感覚で、自分のスキルが上がっていくのも楽しいですよ」
 
達人が説く植物育成の心構えは、目からポロリと鱗が落ちる箴言でもある。

簡単なものから始める。

入手困難な珍しい植物がウェブサイトなどでも入手しやすくなった一方で、初心者がいきなり栽培難度の高いものに手を出して枯らしてしまうケースもままあるのが、この世界。一般的な園芸植物とは育て方の概念が異なる場合も多いため、慣れないうちは難度の低いものから始めてみるのもお勧めだ。
「好きなものを選ぶのが大前提ですが、簡単なものから始めて、経験を積むのも、面白いですよ。長く育ててみて、初めてわかる植物の生態もありますし」
 
サボテンに目覚めたのが小学生時代だという、早熟な藤川さん。当時、目当ての帝玉を求めて専門店を訪ねたところ、店主から「坊主、お前にはまだ無理だ」と諭されて、入門的な多肉植物のコノフィツムを薦められたという。
「それもごく一般的な品種だったから、最初は全然面白くないと思いましたけど、コノフィツムは休眠期、皮を被って翌年複数に分球する性質があるんです。それを知ってからは、育てるのが一気に楽しくなりました」
 
以後、幾星霜の月日を重ね、現在の藤川さんがあるというわけだ。できるだけ育てやすいものから始めることは、植物と長く付き合う秘訣でもある。

現地のごとく、鍛えて育てる。

買った当初は美しく引き締まっていた株が、育てるうちにみるみる徒長し、姿形が悪くなる。揚げ句の果てには、愛情を注げなくなってしまう。そんな悩みを抱える人は、多いのではなかろうか。その植物本来の、魅力的な姿を保つには、どうしたらよいのだろうか。
「ここで取り上げるような植物を、自生地に生えている時のような姿形に保つには、盆栽的にできるだけ伸ばさない感覚が必要です。コーデックスなんかも現地ではごくゆっくりしか育ちませんし、サボテンのコピアポアの場合、温室の中でも最も暑い梁の上に置き、年に数回しか水をやらない人もいる。でも自生地は、それに近い環境なんです。
 
タンクブロメリアは水苔に植えた方がよく育つけど、わざとバークチップに植えて育ちにくい環境を再現したりもします。そして葉焼けしないギリギリの光と風を探す。僕はそれを“鍛える”と言っていますが、やたらと大きく育てるだけが園芸ではない。コントロールするという意識を持つことが大切です」

置き場をイメージしておく。

ここで取り上げる珍奇植物の類いには、熱帯原産のものも多いため、霜の降りるような日本の厳冬期は、室内で管理することも多くなる。
 
いざその時になって、室内に置くスペースがなくて困らないよう、植物を買う時には、冬の置き場にも思いを巡らせておくとよい。また、冬に室内の日当たりを確認してから、植物を買いに行くのも一つの手だ。

西日はダメか?

植物を西日に当てるのはあまりよくない、というのはよく聞く話。しかし、それがすべての植物に当てはまるわけではないと、藤川さんは言う。
「午前の光は植物の生長を促すけれど、西日のジリジリとした日差しは、植物を弱らせることもあるというのが通説ですよね。でも高温になる地域が原産の多肉植物の場合、西日に当てておくと、葉焼けもせずに本当にきれいに詰まった株が作れます。ほかの植物にとってはあまり良くない西日も、多肉植物に限っては少し事情が異なってくる、というのが、実際にいろいろと試してみたうえでの感覚です」
 
午前に比べ高温で乾燥しがちな、午後遅めの時間帯。そのひとときに、正午よりは弱い光が多肉植物の栽培で功を奏することもある。ゆえに植物の世界は奥深い。

意外と知らない、風の効用。

植物は風通しの悪いところに置かれると、しばしば弱る。特に無風状態の室内などでは土が乾きにくくなり、根腐れを起こす危険性も高くなる。また、風に当てることにより、カビやキノコが生える確率を下げることもできる。日当たりに比べると軽視されがちな風ではあるが、植物が健康的に育つには、重要な役割を果たしているのだ。
 
と、ここまでは風通しの大切さを説く一般論。これに加えて藤川さんは、風が植物の姿形を作るのにも大きな役割を果たすと語る。
「通風は、植物を間延びさせないためにも必要なんです。植物は風に当たるとストレスを感じて、さほど伸びないようになりますから。よく風が当たる場所でどんどん伸びると、植物だって倒れちゃうでしょ? 植物の栽培にまつわる本では、風についてあまり書かれていないことが多いですけど、自生地で生えている時のように短く詰まった株を作りたいなら、風当たりが重要であることを覚えておくといいですよ。それと、風当たりが良くなると植物の表面温度が下がりますから、葉焼けの防止などにもつながります。植物が葉焼けする場合、日差しの強さより表面温度の高さが原因となることが多いんです。だから植物をより美しい姿に育てたいなら、なるべく風に当たる環境に置くことが必要ですね」
 
ことほどさように、風というファクターは植物に影響を与えているのだ。

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監修

藤川史雄(スピーシーズ ナーサリー)

illustration/
Shinji Abe
text/
Hideo Seo
cooperation/
Nakato Orchids, Hana-uchu, NEPETHICA, Exotic Plants, Border Break!!

本記事は雑誌BRUTUS896号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は896号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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新・珍奇植物(2019.07.01発行)

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