時代背景、演出の妙、 エログロ独逸ノワール。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 895(2019.06.14発行)
名古屋の正解

 スターリン・ロシアからベルリンに向けて、貨車が運行されてくる。途中、ロシア国内でトロツキスト集団の襲撃があって、彼らによって謎の貨車が連結される。この貨車の積荷はなにか? ドイツ国境を越えたところで列車は停止命令で車庫に留め置かれる。積荷のミステリー、それに絡む多くのベルリン在住ロシア人、そしてドイツ軍部の将軍たちがもくろむ政治的な不穏がドイツのTVシリーズ『バビロン・ベルリン』のシーズン1、シーズン2を通奏する。

〈通奏〉と書いたが、文字通り、この在独ロシア人の政治集団は、キャバレー他で演奏する楽器奏者でもあって、彼らの最大の売りは、電子音楽テルミン奏者にして、男装の麗人歌手だ。男装の麗人といえば、ワイマール期のベルリンの代名詞のようなものだが、その通りで、『バビロン・ベルリン』の背景は1929年なのだ。彼女が歌うキャバレーのフロアーは派手に着飾った男と女=フラッパーの激しいダンス&ダンスであふれかえる。フロアー・ダンサーは、客からの肉体指名待ちの女でもある。そんなガールズの一人、シャルロッテ・リッターは大家族を自分一人の収入で支える鋭敏な頭脳の女性で、その夢はというと警察で捜査仕事に従事することだった。手始めにバイト採用、それはバラバラ死体写真の整理係 であった。

 署内でぶつかり、お互いが持つ写真の山を床にぶちまけたことで、彼女は刑事ゲレオン・ラスと知り合う。恐喝事件を引き起こしたブルー・フィルムの出どころを捜査するために、ゲレオンはケルンからやってきたばかりであった。彼が手にしたエロ写真群とシャルロッテが運ぶ死体写真群が床で混ざり合う。この場面におけるエロ×グロの交錯演出のこまやかさがすばらしい。エロとグロが時代を象徴するからだ。この1929年にナチはまだチンピラ扱いで警察に警棒で追われる存在でしかなかった。しかし、その支配まで秒読み段階という歴史の事実が、シリーズの全画面を緊張させている。

 待ちきれずに購入したPAL盤は、〈R18〉に加えて〈ストロング・セックス〉と印字されていた。こんな警告に思わず笑ってしまった。たしかに描写は容赦なしの大作である。

たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

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No.895
名古屋の正解(2019.06.14発行)

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