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白石和彌監督と俳優・リリー・フランキーが語り合う、映画『凪待ち』の世界。

BRUTUSCOPE

No. 895(2019.06.14発行)
名古屋の正解

石巻を舞台にクズな男をリアルに描いた白石監督の最新作。主演・香取慎吾の役者魂を感じた撮影エピソードとは?

数多くのアウトローを描いてきた白石和彌監督。香取慎吾主演の『凪待ち』は、ギャンブル依存症の男の喪失と再生の物語。監督自身によるオリジナルストーリーで、「香取さんだから演じてほしい」とぶつけたという。白石作品は3本目の出演にして「初のいい人」を演じたリリー・フランキーは「監督の作品でいちばん好き」と絶賛する。

リリー・フランキー 
色っぽいよね、慎吾ちゃん。
白石和彌 
掛け値なしに素晴らしい俳優ですよね。
リリー 
白石監督の映画って、いままでいろんなクズが出てきましたけど、これまではイキきっちゃってるクズだったじゃないですか。僕もサイコパスを何度かやらせてもらいましたが、ある意味、ポップスターのクズだったと思うんです。でも今回は、いちばんリアルなクズ。"純文クズ"。
白石 
あはははは(笑)。クズというか、ダメな人ですよね。立ち直るきっかけをなかなかつかめない人。
リリー 
世の中、多いと思いますよ、こういう人は。しかも、慎吾ちゃんのイメージがあるじゃないですか、国民的スターとしての。でも、そのイメージがありながらもクズを演じ、説得力を持って伝えられるという。
白石 
そこなんです。いちばんすごいと思ったのは、香取さん(主人公の郁男)がリリーさん(氷屋を営む小野寺)から金を借りるシーン。すごく申し訳なさそうに「ありがとうございます」ってやるんだけど、彼自身は、人生で金を借りた経験なんてないはずなのに、"あの感じ"が実にリアルに出るんですよ。
リリー 
申し訳なさそうなのに、なんの躊躇もなくスッと受け取ってしまう"あの感じ"ね(笑)。
白石 
ギャンブルにハマってる人はどんなことをしても金を作ろうとするんだけど、借金経験のない香取さんがなぜそれをできるんだろうと。たぶん、人の行動をすごく観察してるんだろうなって。
リリー 
地肩が強いんですよ。11歳から場数を踏んでますから。僕は以前、慎吾ちゃんと草彅剛君のラジオ番組の構成作家をやってたんです。ラジオでミニコントを書いたりすると、慎吾ちゃんは初見ですぐできちゃう。それを読みながら演じることができるんです。草彅君もそうだったけど、うわ、やっぱりすごいんだなあって。
白石 
やっぱそうなんだ。
リリー 
彼とこうやって肉体を使ってお芝居を一緒にやるのは今回初めてだけど、色っぽいし、動きに無駄がない。しかも、現場にはフラットな状態で来るのに、始まった瞬間、体に触れると、熱いんです。体温がガーッて上がるから。共演したときに、こんなに温度を感じる人ってなかなかいないなあって。
白石 
僕的には、吉澤健さん、麿赤兒さん、不破万作さんという、1960年代のアンダーグラウンドで活躍していた〈状況劇場〉の人たちが出てくる映画に、スーパーメジャーの香取さんに片足を突っ込んでもらいたかったというのもあって。僕が撮る意味は、そこにあるかなとも思ったんです。
リリー 
本当は、こういう役って、誰も知らないような役者さんがやった方がリアルに見えるものなんですよね。それを、知らない人がいない人が演じて、この空気を伝えられるっていうのがね。
白石 
実はこういう人なのかもと思わせる力があるんです。スーパーアイドル感を消し去って。
リリー 
たぶん、彼は自分と向き合うことの多い人だと思うんです。自分自身の生き方が、この映画に反映されているんじゃないですかね。
白石 
石巻の風景にも溶け込んでいましたから。
リリー 
石巻を舞台にしたのはなぜですか?
白石 
やっぱり、震災が大きなキッカケですよね。みんな、震災直後はドキュメンタリーを撮ったり、復興頑張ろうというドラマを撮ったりしていたけれど、いまは興味をなくしてる。悪い言い方をすればね。でも、あれから時間が経ったからこそ、描ける物語があるんじゃないかなって。いまの石巻の風景を映画に撮るというだけでも意味があるんじゃないかなって。
リリー 
僕、2週間くらい石巻に滞在して、毎日、パチンコとスナックに通ってましたけど、どんなに悲しいことが起こっても、人間の営みは変わらないんだなって。何があろうと朝早くからパチンコに並ぶし、夜になったらカラオケをするしお酒を飲む。あるとき、石巻のスナックの店主が、「見てください、あそこまで水が来たんです」って電柱を指したんです。見れば、とんでもない高さに痕跡があって。それをあっけらかんと言うんです。やっぱり人間はたくましい。悲しみを一生ひきずって生きていくことはできないんです。
白石 
脚本家加藤正人さんとシネハンで回ったとき、ある漁師さんが言ったんです。「津波で海がダメになったんじゃなくて、生き返ったんだ」って。つまり、三陸ってリアス式だから入江が多くて、そこで生け簀を作って魚の養殖をやってたわけだけど、震災前は、生け簀が増えすぎて海の栄養がなくなりやせ細っていたそうなんです。でも、不幸にも津波が来てしまったことで、海が元に戻った。それは映画の台詞としても使わせてもらいました。人間もおそらく、そういう側面があるんだと思うんです。
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『凪待ち』

ギャンブル依存症の郁男(香取慎吾)は、恋人の亜弓(西田尚美)とその娘・美波(恒松祐里)とともに亜弓の故郷・石巻で再出発を決意する。亜弓の父(吉澤健)や世話好きの小野寺(リリー・フランキー)の助けで暮らし始めるが、郁男の"病"が再発してしまう。白石和彌監督によるオリジナルストーリー。脚本は加藤正人。6月28日、全国公開。

白石和彌

しらいし・かずや/1974年北海道生まれ。2010年に長編映画デビュー。以降、『凶悪』(13年)、『孤狼の血』(18年)、『麻雀放浪記2020』(19年)など話題作多数。

リリー・フランキー

1963年福岡県生まれ。イラスト、エッセイ、小説、音楽などマルチな才能を発揮する異色クリエイター。現在は俳優として映画やドラマへの出演も多数。

photo/
Katsumi Omori
text/
Izumi Karashima

本記事は雑誌BRUTUS895号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は895号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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