ファッションカルチャー

成り上がりの象徴? 単なるキャラクターの一つ? 芸人にとって、“スニーカー”とはなんなのか?

スニーカー調査ファイル。

No. 894(2019.06.01発行)
愛と欲のスニーカー

オーダーメイドのスーツに、ピカピカの革靴。昭和の芸人が、観客の待つ舞台へ上がるための正装としてあつらえた最大級のお洒落。時は流れて平成、そして令和へ。芸や演目の多様化から、お笑いの場所は劇場を中心としながらもテレビへと広がっていった。そして、芸人のお洒落も、スーツに革靴から、カジュアルなファッションにスニーカーが定番に。テレビ番組『アメトーーク!』の「スニーカー芸人」で、莫大なコレクションとともに、スニーカーへの溢れんばかりの愛情を語ったアントニー、上田歩武、石田たくみ。3人にとってスニーカーとはどんなものだろうか。芸人とスニーカーの関係について考察しながら話を聞いた

アントニー 
僕が芸人を目指し始めた頃には、もうカジュアルな格好でテレビや舞台に出ている先輩がほとんどでした。一番最初に始めたのは誰なんでしょうね。
上田歩武 
90年代ダウンタウンの浜田雅功さんかな。「エア マックス 95」を履き、スカジャンを着られていて。当時、テレビで見ていたけど、あそこまで売れていたからこそオーソドックスなスタイルを脱する説得力があって、すごくカッコよかったなー。要するに売れないとカジュアルな格好なんてできないと勝手に思ってたよ。
石田たくみ 
芸人は人を笑わせる仕事だけど、心はストイックですよね。
上田 
大阪のNSC(吉本総合芸能学院)に通っていたんやけど、先輩から“芸におしゃれは必要ない”とか、“ヘアワックスつけてる暇があったら、おもろいことでも考えろ!”とか言われてて。
アントニー 
そんなこと誰が言い始めたんですか(笑)。
上田 
わからん。謎の硬派なポリシーが受け継がれていたんやな。
アントニー 
浜田さんを筆頭に、多くの芸人がカジュアル方向へ向かったけど、やっぱりスタイリストさんが用意した服や靴を着せられている感が強かった。浜田さんのほかに、本当にファッションが好きな人って誰だったんですか?
上田 
雑誌『Boon』に品川庄司の庄司智春さんが連載を持っていて。それで“あー、芸人もお洒落してええんや!”って思ったね。

スニーカーは芸人の サクセスの証しなのか。

たくみ 
僕らは芸人になる前からスニーカーが好きでしたけど、売れてからプレ値のスニーカーを買う先輩や後輩も増えていますよね。
上田 
まさに、かまいたちの山内(健司)買いやな。スニーカー本来の魅力より、プレ値がついている靴はいいものだという価値観で。
アントニー 
山内さんはファッションに興味がなかったから、昔はヤバい格好してましたけど、最近はすっかりお洒落ですよね。
上田 
みんな、ハイブランドの服やバッグを持つより、ナイキのスニーカーの方が嫌みのないアイテムだと思ってるんとちゃうかな。
たくみ 
世界でめちゃくちゃお洒落とされている人は、イタリア製の服とかにいきますけどね。
上田 
三浦知良さんやジローラモさんみたいな感じやね。
アントニー 
ハイブランドへは恐れ多くて入っていけない芸人も、僕たちみたいなのがいるってのもあって、スニーカーに興味を持つんじゃないかと。
たくみ 
最近、ロケ現場や劇場でスニーカーの話をする機会が増えました。確かに、芸人の中でもスニーカー好きが増えてますよ。
上田 
僕はフットボールアワーの後藤輝基さんと仲良くさせてもらっているんやけど、出会って間もない頃は緊張してうまく話ができず、自分の好きなことしかスラスラ話せなかった。自分がいかにスニーカーが好きか、どんなモデルが人気があるのか、プレゼンのように話していたね。
アントニー 
後藤さんもたくさん持ってますよね。
上田 
好きになってくれたのは嬉しいけど、めちゃめちゃ爆買いをされててびっくりした(笑)。
アントニー 
付き合っている先輩や後輩の影響もありますね。
たくみ 
相方の(竹内)まなぶが、頑張って手に入れたレアなスニーカーを履いていたら、ロケで一緒になったダイノジの大地(洋輔)さんから“それ買えたのか!”と声かけられて盛り上がってました。コミュニケーションを円滑にとるアイテムになっているかも。

仕事熱心だから起こった 切ないスニーカーとの別れ。

上田 
テレビのロケの時なんかは1軍のスニーカーを履いていく?
アントニー 
最近はドッキリが多くて何が起こるかわからないので、いいものを履くのが怖いんですよ。この前はいきなりヤンキー50人に襲われるというドッキリがあって、飴細工でできているガラスが割れて履いていたマーベルとヴァンズのコラボスニーカーがベトベトになりました。
上田 
そんなの聞いたら、もう売れんでええわ(笑)。テレビ局は弁償してくれないの?
アントニー 
僕がもっと売れていればね……。売れている芸人さんだったら弁償すると思いますよ。僕の身よりスニーカーを心配してほしいですよ!
たくみ 
随分前ですけど、劇場でコントをやっている時、「エア マックス 95」で思いっきりネズミ捕り用のトリモチを踏んじゃったんですよ……。その時は余分な靴がなかったので、本番の時に一張羅の「エア マックス 95」を履いて舞台に上がっちゃった。それでトリモチが“ベチョ~”っとソールについて離れないので、仕方ないから帰りに泣く泣く捨てました。
上田 
俺が相方やったら、まず“なに95履いてんねん!”とツッコむわ。
たくみ 
さすがに相方のまなぶから、本番終わりで「なんかほかの靴があっただろう!」と。
アントニー 
上田さんは?
上田 
何年か前にスニーカー好き芸人の集まったライブがあって。ダイノジの大地さんやレイザーラモンRGさん、アントニーなど、錚々たるメンツが並び、自分の知名度が一番低かったから、どうやったら目立てるんやろうと考えた。そこで、お客さんにもサービスをしようと思い、94年に復刻された黒×赤の「エア ジョーダン 1」を、じゃんけん大会で勝った人へプレゼントしちゃった。
アントニー 
レアでマニアックな靴ですけど、お客さんの大半は女の子ですからね(笑)。
上田 
ソールが黄色がかっていて、マニアには響いたけど、若い子にはただの汚いスニーカーにしか見えなかったみたいで。
たくみ 
女の子はきれいでかわいい靴の方が好きでしょ?
上田 
そう。惰性でじゃんけんに参加して、なんとなく勝っちゃった女の子が仕方なくもらっていった感じで……。
アントニー 
なんとなくスベってましたし(笑)。本当にハイリスク&ノーリターンでしたね。

お笑い芸人にとって、 スニーカーとは何なのか。

上田 
それほど売れてないから、ドッキリや舞台でスニーカーをダメにしたことはなく、買ったらできるだけきれいに履いているけど、昔みたいに雑に履く気持ちを取り戻したいと思わない?
たくみ 
わかります!
上田 
昔は一足しか持っていなくて、大事に履きつぶしていたはずだよね。それくらいしないとスニーカーに失礼かなと思う。
たくみ 
確かに、たくさんの靴に囲まれるのは幸せだけど、気を使って新品同様のまま眠らせているのはもったいないですよね。
上田 
高くてレアなスニーカーを履いていても、ドッキリでぐちゃぐちゃにする。その方が芸人としてカッコいいと思う。
アントニー 
完全に視聴者側の意見じゃないですか(笑)。
上田 
そう! だから、それは2人に任せた!
たくみ 
それはズルいです(笑)。しかし、スニーカーに興味がなくなる日は来るんですかね?
上田 
多分、死ぬ時やな。
アントニー 
憧れのファッションアイコンが「革靴の方が似合うから、スニーカーやめなよ」と言ってきたら、どうします?
上田 
「どういうことですか? もう一回言ってください!」と言い返すと思うよ。
アントニー 
ホントですか⁉
上田 
それなら聞くけど、お前にとってスニーカーとは?
アントニー 
眠っていたアメリカ人としての心を蘇らせてくれるものです!
上田 
それはズルいわ(笑)。

アントニー(マテンロウ)

1990年東京都北区生まれ。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれる。高校在学中に現在の相方・大トニーとコンビを結成。ちなみに英語はほとんど話せない。

NIKE×Supreme/Jordan 5 Retro Black
「僕はジョーダン5が発売された1990年生まれだから、愛着があるんですよね。2015年に発売されたシュプリームとのダブルネームは、今でも大切に履いています」

上田歩武(グッドウォーキン)

1980年滋賀県生まれ。20歳の時、大阪NSCに入学。2015年に同期の良平とコンビを結成。現在は劇場出演のほか、刺繍キャップブランド〈goodwalkin〉も運営。

CONVERSE×J.W.ANDERSON/Run Star Hike
「海外のサイトで狙っていたんですけど、オークションで探し、プレ値で買いました。こういうボリューミーなスニーカーが好きだし、今の気分にぴったりですね」

石田たくみ(カミナリ)

1988年茨城県生まれ。2011年に鉾田市の幼馴染みの竹内まなぶとコンビ結成。デビュー前にスニーカーショップ〈CHAPTER〉でアルバイトしていたことでも知られる。

New Balance/1530
「今年、発売から30周年を迎えた人気モデルの1500。それを記念して1530が出ました。僕も30歳なんで、同期ですね。オリンピックイヤーに発売される1300も楽しみ」

photo/
Atsushi Ishihara

本記事は雑誌BRUTUS894号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は894号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.894
愛と欲のスニーカー(2019.06.01発行)

関連記事