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戦後でナチの教育を受けたのは俺たちだけだよ。|養老孟司

TOKYO80s

No. 894(2019.06.01発行)
愛と欲のスニーカー

養老孟司(第二回/全四回)

 小学2年生で終戦になって、中学高校は栄光学園に通いました。子供の教育について親が考えたんでしょうね。当時の栄光学園は特に進学校でもなかったですよ。できて4期目で6年一貫教育だから、卒業生はまだいませんでした。1期の先輩は高1になったばっかり。当時としては信じられない教育でした。今でも信じられないでしょうけどね。だって、とにかくキチッと全部が決まっているんです。3日遅刻したら1日欠席をつけられる。欠席日数が何日になったら落第。試験は予告なしでやるんですよ、何回も。その日までに教室で習ったことが消化できてなきゃ、次をやっても意味がないっていうことでね。科目によっては1学期に10回くらい試験があって、その平均点を出すんです。それと期末試験。普段の平均点に2をかけて、期末試験の成績を足して3で割るんですよ。普段の成績が悪いとダメになっちゃうの。それで、17科目のどれかが60点以下だったら落第。毎月落第する生徒がいました。元首相の細川護熙さんが、落第して弟と同じ学年になっちゃったから転校したりね(笑)。朝、学校に行くでしょ、天気が良かったら外にいなきゃいけないんですよ。野球やボール遊びなんかをしてね。始業ベルが鳴るとその場で気をつけ。ベルが鳴り終わったら駆け足で校舎の前に集合。背の順に全員が並んだら校舎に入って、沈黙。おしゃべりがバレた時の罰則は1週間のトイレ掃除。だからトイレはいつもピカピカでした。それで席に座ったら瞑想です。教師が入ってきて「良し」と言ってから授業が始まる、そういう学校です。2時間目の終わりの休みがちょっと長くてね。上半身裸で外へ出て、夏だろうが冬だろうが校庭を行進。全校生徒が出てきたら今度はラジオ体操です。それは今でもやってるみたい。OB会の人たちがやめさせないんだって(笑)。単なる意地悪ですよ。校長も副校長もドイツ人でしたから、年代を考えたら、全部ヒットラー派じゃないかってね。戦後でナチの教育を受けたのは俺たちだけだよって、いつも言ってるんです。楽しい思い出なんてないですよ。だから虫捕りです。これが面白くてね。生物部に虫捕りの偉い先生が2人いたんです。その一人は井上寛さんという蛾の世界で非常に有名な人。先生の標本は全部、ロンドンの自然史博物館に入ってますからね。そういう意味ではいい教育だったんですよね。(続く)

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ようろう・たけし

1937年生まれ。医学博士、解剖学者。『バカの壁』など著書も多数執筆。

第1回第2回第3回第4回

PHOTO/
SHINGO WAKAGI
TEXT/
KUNICHI NOMURA
EDIT/
HITOSHI MATSUO

本記事は雑誌BRUTUS894号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は894号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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愛と欲のスニーカー(2019.06.01発行)

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