写真

ブレグジットにより変わりゆくロンドンのフォトドキュメンタリー。

BRUTUSCOPE

No. 894(2019.06.01発行)
愛と欲のスニーカー

写真家・金玖美の写真集『EXIT』が発売。

2016年6月23日に行われた国民投票によって決まったイギリスのEU離脱、いわゆる“ブレグジット”は、いまだ行方がわからないまま英国内外に動揺をもたらし続けている。写真家・金玖美の写真集『EXIT』はEU拡大期の最中である2004年から2006年までと、EU離脱が決まった後の2016年、2017年に撮影した作品が収められている。

BRUTUS 
金さんはもともとうち(マガジンハウス)の社員カメラマンで『an・an』などの雑誌で撮影していましたよね。いつまでいたんでしたっけ?
金玖美 
2004年だから、約7年です。
B 
会社辞めてからすぐロンドンに?
金 
はい、2004年からロンドン芸術大学London College of Communication)のプロ向けの写真コースに入ることにして。もともと、幼少期に読んだ『マザー・グース』がきっかけでイギリスに興味を持ち、その後も音楽やファッションを通じて、向こうのカルチャーに憧れを持っていたんです。それでロンドンに行くことにして最初に家を探すところから始めたんですが、向こうは家賃が高いので若い人は大抵リビングやバスルームを共有して4〜5人で住んでいるんですね。部屋探しの掲示板を見て内見に行くと、ロンドンにはいろいろな国の人が住んでいて、多様な暮らし方をしていることがわかった。それを覗き見できるのが面白くなって写真を撮り始めました。気に入ったらそこに住んでまた撮影して。
B 
それが今回の写真集のベースになったというわけですね。
金 
約2年半で5、6回は引っ越しました。実は家が決まってからも“家探し”は続けて撮影していた(笑)。移民が増えていく時期だったから何ヵ国もの人がいて、人と違うことが当たり前というか。自分も移民のルーツを持つのでそこに居心地のよさは感じていたんだと思います。
B 
それがブレグジットを境に、ロンドンの状況が変わってきたと。
金 
EUだったからこそ、人、モノ、資本が自由に移動できる基盤があったので、(EUからの)学生が安い学費で留学できたりそのまま働いたり。その恩恵で暮らすことができた人が多かったと思います。「ブレグジット国民選挙」で離脱と決まった2016年6月は日本にいましたが、ニュースを見て残留の予想に大きく反しての結果だったので人々がすごく動揺していた。それが気になってしょうがなくなって2017年、2018年に話を聞きがてら写真を撮りに行きました。
B 
最初に憧れがあり、暮らすことで見つけたロンドンの魅力、人々の多様性や都市としての懐の深さが、ブレグジットによって崩れ去ろうとしている。それを私的なドキュメンタリーとしてまとめたのが今回の写真集というわけですね。
金 
移民やトランスジェンダーなどの多様性に寛容なロンドンが好きだった。それがブレグジットによって変わってしまうのだろうか、と憂慮する思いから生まれた作品です。新作を入れることによって、寝かしてしまっていた作品を蘇生させることもできました(笑)。展覧会では写真集とは違う展開にしたくて、写真一つ一つにタイトルをつけました。公園で青年が火遊びしている写真は、ブレグジットの国民選挙が、政治家たちの地位や名声を獲得するための目的で行われた火遊びだったという皮肉になぞらえています。離脱派が多いといわれていたマンチェスターで撮影したグラフィティは、まるでEU残留を望んでいるかのようなサインだったり、ブレグジットの断片をあちこちで拾い上げることができました。知れば知るほどブレグジットの良し悪しを安易に言えなくなりましたが、イギリスはこれまでもパンクなんかもそうですが、不安定な政治への反発としてアートやカルチャーが活性化してきた土壌があるので、悲観ばかりしたくはないですね。

『EXIT』

部屋の内見をしながら、人々の生活を覗き見る。様々なルーツを持つ移民や性差を超えた男女。ブレグジットで揺れるロンドンを写した私的ドキュメンタリー。4,000円。問合せはこちらまで。shashinka0329@gmail.com

金 玖美

きん・くみ/写真家2004年マガジンハウスを退社後、ロンドン芸術大学で学ぶ。帰国後は雑誌、広告などで活躍。7月5日から28日まで浜松のBOOKS&PRINTSで、『EXIT』発売記念の巡回展を予定。http://koomikim.com/

photo/
Koomi Kim

本記事は雑誌BRUTUS894号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は894号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.894
愛と欲のスニーカー(2019.06.01発行)

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