ファッション

ナイキが外部クリエイターと 積極的にコラボする理由。

愛と欲のスニーカー

No. 894(2019.06.01発行)
愛と欲のスニーカー
ネイサン・ジョーブ

Collaborator Nathan Jobe

スポーツ用品ブランドとして世界一の売上高を誇るナイキ。その存在感はスニーカーシーンでも圧倒的だ。とりわけ近年のナイキは、ファッションやアートの分野で活躍する外部のデザイナーやアーティストと積極的コラボレーションを展開。その相手は、オフ−ホワイトのヴァージル・アブロー、アクロニウムのエロルソン・ヒュー、サカイ阿部千登勢、アンダーカバーの高橋盾など、いずれも業界を代表するトップクリエイターばかり。スニーカーマーケットにおいてコラボレーションという手法はもはや珍しくなくなったが、これほど錚々たるクリエイターと手を組むことができるブランドはほかにない。そしてナイキとのコラボレーションによって生まれたスニーカーは発表されるや否やネットなどで大きな話題を呼び、発売日に店頭で行列ができたり、セカンドマーケットにおいて高値で取引されたりすることも少なくない。その中心人物の一人に話を聞いてみたいと思った。

長期的な視野で 関係を築いていく。

当のナイキはどのような基準でコラボレーターを選び、どのようなプロセスを経てプロダクトへと落とし込んでいるのだろうか? そして、外部のクリエイターと手を組む狙いとは?
 
ナイキ本社にてスニーカーのスペシャルプロジェクツを統括するネイサン・ジョーブによると、コラボレーションにおいて最も大切にしているのは「人と人とのつながり」。世界中のナイキ社員が持つさまざまなコネクションをどう生かすかを常に考えながら、コラボレーターをリサーチし、選定しているという。

ナイキには、ニューヨークロサンゼルスパリロンドン東京上海といった世界の主要都市に、現地のファッションやアートなどのカルチャーを牽引するクリエイターたちと密接にコミュニケーションをとる専任のスタッフがいます。その役割は、ユニークな活動をしている現地のクリエイターたちを常日頃からサポートしながら、自然に良好な関係を築いていくこと。特に近年はユースカルチャーに着目し、有名無名を問わず若い世代を取り込むことを意識しています。それがコラボレーションという形で実を結ぶこともあれば、そうならないこともあります。いずれにせよ、私たちはクリエイターとのやりとりにおいて短期的な関係を望んでいませんし、単発で終わってしまうようなコラボレーションにあまり興味はありません。つまり、コラボレーターとともに成長していきたい。たとえすぐに形にならないとしても、長期的な視野で関係を築いていきたい。そう考えています」

ベースとなるモデルは どうやって決まるのか?

通常、コラボレーションスニーカーにはベースとなるモデルがあり、それをもとに外部のクリエイターの感性によってアレンジが加えられる。では、そのモデルはどうやって決まるのだろうか?

「ケースバイケースですが、私たちはプロジェクトを進める際、常に相手との対話を通して物事を決めていきます。昔の名作の思い出話などノスタルジックな話題から始まることも多いですね。また、コラボレーターの嗜好や思いをなによりも尊重します。例えばリカルド・ティッシとのコラボレーションの場合、彼は以前から無類の「エア フォース 1」好きとして知られ、ジバンシィクリエイティブディレクターを務めていたときにコレクションのショーのモデルにも履かせていたほど。また私たちも彼こそがこのスニーカーの魅力を最もよく知るファッションデザイナーであるという思いがあったので、ベースのモデルは自然な流れで決まりました。エロルソン・ヒューとのコラボレーションの場合、彼がナイキのオフィスを訪れた際、たまたまデスクの上にあった「エア プレスト」のプロトタイプを見て興味を持ち、好奇心が刺激されたようで、“ぜひこのスニーカーをアレンジしたい”とリクエストを受け、私たちも快諾しました。ヴァージル・アブローとのコラボレーションに関しては、もともとはマーク・パーカー(米ナイキCEO)から私たちのチームに“ナイキ歴代の最もアイコニックな10足をベースにして、なにか面白いことができないか”というミッションが与えられ、“それならばぜひヴァージルと一緒にやってみたい”というところから本人に声をかけ、プロジェクトがスタートしました」
 
そもそも、アスリートの活動をサポートするスポーツブランドであるナイキが、なぜ、ファッションデザイナーやアーティストといった外部のクリエイターと組むのか。メリットはどこにあるのか

外部のクリエイターと 手を組む意義。

ジョーブは「コラボレーションを通じてまったく新しいインサイトが得られ、私たちのもの作りに新しい視点や刺激を与えてくれるから」とその意義を語る。

「新しいテクノロジーやイノベーションを生み出すこと、そしてオリジナリティを非常に重要視するナイキは、良くも悪くも物事を複雑に捉える傾向があり、考え方が凝り固まってしまいがちです。一方で、例えばヴァージル・アブローは、さまざまな物事をいったんブレイクダウンし、よりシンプルでわかりやすいものへと再構築していくことを得意としています。そのように、自分たちとは異なるアプローチでもの作りに取り組む外部のクリエイターと手を組むことで、物事をまったく違う見方で捉えることができるようになる。それこそが、彼らと組む意義として最も重要なことであると私たちは考えています」

コレクター垂涎! 最近の話題作たち。

Designer Virgil Abloh

ヴァージル・アブローとのコラボレーションコレクション「THE TEN」。写真の3モデルを含むナイキアイコニックな名作10モデルがピックアップされ、ヴァージルらしいユニークなアレンジが加えられた。2017年発売。

Designer Errolson Hugh

エロルソン・ヒューが手がけるアクロニウムとのコラボレーション。「エア プレスト」の履き口をジッパー付きのミッドカット仕様にアレンジ。2018年発売。

Designer Riccardo Tisci

リカルド・ティッシとのコラボレーションモデル。「エア フォース 1」がブーツライクな超ハイカット仕様にアレンジされている。2014年発売。

ネイサン・ジョーブ

ナイキ社シニアデザインディレクター。コラボレーションをはじめとするスニーカーのスペシャルプロジェクトを統括。カリフォルニア州ベンチュラ出身。カリフォルニア大学サンタバーバラ校ではアートを専攻。コンバースのデザイナーを経てナイキへ。

photo/
David Alvarado (portrait)
text/
Issey Enomoto

本記事は雑誌BRUTUS894号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は894号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.894
愛と欲のスニーカー(2019.06.01発行)

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