ファッション

スニーカー株式市場の生みの親Josh Luberが語る、“スニーカー投資”の世界。

愛と欲のスニーカー

No. 894(2019.06.01発行)
愛と欲のスニーカー
アメリカ・デトロイト本社の社内スタジオに並べられた社のコレクション。スニーカー熱を代表するレアなものばかりだ。このスタジオではオンラインで発信する、スニーカーやストリートウェアに関するコンテンツの製作も行う。

何千ドルという高値がつくレアなスニーカーは、もはや“資産”ともいえるのでは? アメリカで急成長中の〈ストックX〉を訪ね、転売市場の実態について話を聞いてきた。

従来のマーケットプレイスと違うのは、一つの商品のリスティングが1ヵ所にまとめられているところ。レアな商品だけでなく、古いシーズンの商品なども簡単に検索できる。

〈ストックX〉は転売市場に 透明性と公正さをもたらした。

証券コードのような数字が流れる電光掲示板、そして高値がつくレアなスニーカーたち
  
史上初の「スニーカーの株式市場」といわれる〈ストックX〉の社内スタジオの光景である。この掲示板には「スニーカーヘッズ」と呼ばれるマニアたちが、〈ストックX〉上でスニーカーを売買する価格をもとに算定された今日の「相場」が映し出される。そして今、このプラットフォームでは2万6000足ものスニーカーが売買されている。
 
1985年の「エア ジョーダン」発売以来、レアなスニーカーに高値がつくという現象はいくつかの転換点を通りながら、確実に過熱の一途を辿ってきた。スポーツ選手やアーティストとのコラボレーション、限定商品が、市場に放出されるたびに小売店の外に列ができて、時にはファンたちが路上で夜を明かすこともある。人気の商品はだいたい発売日に一瞬で売り切れ、オンライン内外の非公式な取引を通じて転売される。ナイキアディダスといったブランドがつける小売価格の2倍、3倍といった高値がつくことも珍しくない。そして価値の高いスニーカーをめぐって、暴力事件や詐欺が起きることも稀ではない。
 
そんな状況に目をつけたのが〈ストックX〉のCEO、ジョシュ・ルーバーである。
 
自他共に認めるスニーカーヘッズの一人だったジョシュは、ハイテク企業の戦略コンサルタントとしてデータの世界に生きてきた。趣味の延長でeBayのようなオンラインのマーケットプレイスで売買されるスニーカーの価格を収集し、ユーザーたちが買い物の参考にするプライスガイドを作るプロジェクトを開始した。「当時、スニーカーのリセール市場はたくさんあったけど、実際の相場を示す場所がなかった。データを収集することができれば相場がわかる。相場をもとに自分の持つスニーカーのポートフォリオを作ることができる。そしてスニーカーヘッズは自分のコレクションの“価値”を知ることができるようになる」
 
そうやって生まれたのが〈ストックX〉の前身となったプライスガイドだった。2015年、ジョシュは、まったく規制されていないのをいいことに、総じて見ると巨額な資金がやりとりされているスニーカー市場に透明性をもたらそうというプレゼンをTEDトークで行った。これが有名投資家の目に留まり、生まれたのが〈ストックX〉だ。
 
そもそもなぜスニーカーが投資の対象になるほど成長したのだろうか。ジョシュがスニーカー投資の歴史的経緯を解説してくれた。「需要と供給のインバランス、それだけだ。欲しいと思う人の数より少ない数で商品を作れば“不足”という状態を作り出すことができる。1985年に、ナイキが発売した『エア ジョーダン』がバカ売れして、正規取引店の外で行われる転売に高値がつく状態が偶発的に起きた。ここからナイキは市場を盛り上げてフィーバーを作り出す方法を学んだ。1995年にeBayが登場して、サブカル的なスニーカー熱がオンラインを通じて世界に広がった。2011年頃からインスタグラムによって、スニーカー熱がメインストリームに飛び火したんだ」

〈ストックX〉の試算によると現在、スニーカーのリセール市場の規模は推定20億ドル、世界規模では60億~70億ドル。中にはロレックスやルイ・ヴィトンのバッグより高い値段がつくスニーカーもある。当然ブラック・マーケットが登場し、偽物商売が過熱する。市場の原理を考えると自然なことだ。
 
ここで力を発揮するのが〈ストックX〉独特の真贋鑑定プロセスである。買い手はサイトで自分の欲しいスニーカーを注文する。売り手は商品を〈ストックX〉に送る。そのスニーカーは、〈ストックX〉がデトロイトに持つ真贋鑑定施設で訓練を受けたスタッフによって鑑定される。スニーカーが本物であること、梱包材やタグなども含めて状態が良好であることが確認されると、〈ストックX〉のタグがついたスニーカーが買い手のもとに送られる。

本社の外に構えられた真贋鑑定施設では、トレーニングを受けた鑑定人たちが一足一足、秘密のメソッドを使って本物であること、ダメージがないことを細かく確認する。

本物であることが確認されると、商品の情報が内蔵のチップに埋め込まれた緑色のタグが付く。すでにこのタグの偽物商品がインターネットで売買されるようになっているという。

スニーカーへのアクセスを 簡単に、フェアにする。

「2011年頃、レアなスニーカーを買うには、eBayに散らばる大量の情報を見分ける作業をするか、発売日の3日前から店舗の外でキャンプをするしかなかった。〈ストックX〉の存在意義の本質は、スニーカーへのアクセスを簡単に平等にすることなんだ」
 
ジョシュは、〈ストックX〉のようなプラットフォームができたことが、市場(つまりユーザー)とブランドに“透明性”や“公正さ”をもたらすと説明する。「これまでブランドは、店の外のリセールマーケットを自分たちには関係のないこととして扱ってきた。外でどれだけ高値がつこうが自分たちの売り上げは変わらないからね。一方で、同時に、詐欺や暴力といったネガティブな現象が起きるようになっていた。〈ストックX〉には安全でフェアな市場を提供する役割もあるんだ」
 
今、〈ストックX〉を利用するのは、レア商品を求めるスニーカーヘッズばかりではない。一般ユーザーや売り手の参加が増え、そのへんの小売店より多くの在庫を持つ市場に成長したからだ。そして今度はブランドが混乱を避け、安全性を担保できる〈ストックX〉を通じて、新商品をリリースする、というような新たな現象が起きるようになった。〈ストックX〉を通じてリリースされる限定商品に、購入希望者が入札することで初めて値段がつく。文字通りスニーカーの「IPO(株式公開)」である。「すでにこうやって、小売市場とリセール市場の境目が曖昧になっていく現象が起きているんだ」
 
この現象は、すでにスポーツの試合やコンサートなどの市場では起きている。「10年前、スポーツの世界では転売は罪だった。スポーツのリーグやチームは転売をシャットアウトしようとしていた。けど今は、〈StubHub〉のようなチケット販売アプリを使えば、球場やチームが売るチケットも転売のチケットも同じ場所で売買できるようになっている。ユーザーにとっては、自分が欲しいものが安全に手に入れば、誰から買おうが関係ない。市場が統一化され、フラットになっているんだ」
 
現在も250足のコレクションを持つというジョシュ。転売を目的とせず、スニーカーは実際に履くというタイプのスニーカーヘッズだ。彼はスニーカー投資について次のように語った。「ゴムと接着剤でできているスニーカーは、長い時間が経てば状態は確実に悪化する。だから本当の意味での“投資”には向かないと思う。短期的に稼ぐ余地はあるけれど」
 
最後に〈ストックX〉の今後の展望を聞いてみた。「近い将来、日本で〈ストックX〉をローンチするための準備を進めている。日本はストリートウェアとスニーカーの文化が混じり合って独特のカルチャーが生まれている場所。〈ストックX〉にとって、きっと重要な市場になるよ」

Josh Luber〈Stock X〉CEO

ジョシュ・ルーバー/子供の頃から生粋のスニーカーヘッズ。テック系のスタートアップを3社経験し、IBMでコンサルタントを務めたあと、スニーカー市場のデータ会社〈キャンプレス〉を起業。2015年に〈ストックX〉を立ち上げた。
ウェブサイト

photo/
Naoko Maeda
text/
Yumiko Sakuma

本記事は雑誌BRUTUS894号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は894号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.894
愛と欲のスニーカー(2019.06.01発行)

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