丁々発止。日本イタリア料理界のレジェンド3人。
イタめしブームのはしりは、1985年にオープンしたニューヨークスタイルの劇場型店舗〈バスタ・パスタ〉だった。シェフを務めたのは山田宏巳。華やかで軽やか。堅苦しいマナー不要の、まさに新時代の幕開けだった。
あれからン十年。日本のイタリア料理は激しく多様化が進んでいる。今も現役であり続ける、歴史の証人3人が怪気炎を上げる。
- 落合務
- 僕は最初、フランス料理から入ったの。フランスに行ったはいいけど、なかなか働かせてもらえなくて、途中で3日ぐらいイタリアに行ったのよ。そのとき、やっぱり料理はフランスだなと思った。帰国したら、今度はイタリアに行けというので、図書館で調べてみたら、フランス料理の元はイタリアにあるって書いてあるじゃない。こりゃあラッキーだと思った。合点がいった。で、イタリアへ行ったの。それが70年代の終わり頃。行かせる方も行く方も気軽だったよね。
- 落合
- イタリア料理は山ちゃんが一番古いんじゃない?
- 山田宏巳
- 新潟の〈イタリア軒〉に入ったのが16歳。その頃は給料が1万8000円、飛行機代が40万円。一生行けないと思ってた。イタリア軒って名前だけど、イタリアに行ったことある人はいなかった。19歳で東京に出てきて初めてアルデンテを知った(笑)。
- 落合
- ホテルでもゆで置きだったもんね。それを炒めてた。
- 片岡
- 僕は母が外交官の家に勤めていた関係で、カルボナーラを知り、高校の頃から作ってたよ。
- 山田
- 僕は〈バスタ・パスタ〉のオーナーに、初めてイタリアに行かせてもらったの。
- 片岡
- あの頃は時代が良かった。
- 片岡
- 今、イタリアに行ってる子たちの中には、技術的にはもう学ぶことがないという子もいる。
- 落合
- 僕らの時代は日本で教えてくれる人がいなかったからね。
- 山田
- 昔はよくイタリア人シェフが来日してイベントやってたけど、今はないもんね。
- 片岡
- 昔は日本に20軒ぐらいしかなかったのにね。
- 片岡
- なんで、こんなに増えたかっていうと、店にいた子が独立して、またそこから独立してっていうふうに弟子が弟子を生んでった。イタリアから帰ってくる人間も多くて、今や過当競争になってる。
- 落合
- うちの子たちは全都道府県にいる。
- 片岡
- 山ちゃんから出た子が一番多いんじゃない?
- 落合
- 昔、ライターさんに「フレンチの方々とイタリアンのやつら」って言われたことがある。
- 片岡
- でも、パスタはできない。日本とイタリアの共通点は、地理的なことにある。南北に細長く、四季がある。海に囲まれてるから食材が似ている。一番大切なのは麺ですよ。麺つながりで、イタリア料理はポピュラーになったと思う。素材を生かした調理法というのも似てるしね。
- 落合
- 今は随分変わってきたよね。
- 山田
- そうじゃなきゃダメだった。
- 落合
- 最初は何だってコピーでしょ。日本人はモノマネと言われてきたけど、料理も同じだと思う。
- 片岡
- 僕なんか、和食を踏まえた小皿料理だったから、当時は邪道といわれた。でも今は個性の時代。コピーを超えた創造性のある料理をみんながやってる。いろんな人が自分ならではの料理を表現したらいい。みんなそれぞれのスタイルがある。それがイタリア料理。
- 落合
- 自動車と似てるよね。もともと日本のものじゃないけど、西欧から学んで、今や世界一になった。東京のイタリアンも、それぞれのシェフが努力を重ねて、世界の人からおいしいと言ってもらえるようになってる。昔はイタリア料理といえば一つだったけど、今はトスカーナだシチリアだと、20州全部の店が日本にある。そして、どの店も繁盛してるって素晴らしくない? 今はお客様の方が僕たちよりイタリアに行ってるもの。
- 山田
- お客様の知識が半端ない。
- 落合
- せっかくここまで来たのだから、ずっと栄えてほしいね。
- 全員
- では、イタリア料理バンザイ! ってことで(笑)。
前菜
ホワイトアスパラのみょうがドレッシング 蒸した鮑とブルターニュ産オマール海老、香草サラダを添えて。「なぁに、片岡さんのが一番豪華じゃない」と落合さん。
パスタ
アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ・フレスコ。パンチェッタを炒め、その脂をつなぎに、パスタをさっと和える。ピリッと辛口。「トリュフかけてもいいよ」
メイン


- photo/
- Norio Kidera
- text/
- Michiko Watanabe
本記事は雑誌BRUTUS893号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は893号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。