映画

描かれるのは、少年から大人への瑞々しい成長と心の機微。

BRUTUSCOPE

No. 893(2019.05.15発行)
新・日本のイタリアン。

この春から夏にかけて続々公開。「カミング・オブ・エイジ・ムービー」を見逃すな

 日本では、ティーンエイジャーを描いた映画といえば、「壁ドン」や「顎クイ」といった言葉に象徴される「胸キュン恋愛映画」が主流だが、アメリカでは、そうした少年少女が、ある出来事や事件を通して、子供から大人へと成長するイニシエーション(通過儀礼)を描いたものが多い。日本ではまだ馴染みがないが、そうした映画をアメリカでは「カミング・オブ・エイジ・ムービー」と呼んでいる。『スタンド・バイ・ミー』や『あの頃ペニー・レインと』、最近なら『6才のボクが、大人になるまで。』のような映画のことだ。

 そうした「カミング・オブ・エイジ・ムービー」の、とりわけ男の子たちの通過儀礼を描いたアメリカ映画の秀作が、この春から夏にかけて、日本でも続々と公開されている。そして、その映画の主役を担うのは、ほとんどこの2人に集約されると言っていい。それが、ティモシー・シャラメとルーカス・ヘッジズだ。

 シャラメは、昨年公開された『君の名前で僕を呼んで』で日本でも爆発的な人気を得たのも記憶に新しいと思うが、ヘッジズは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でケイシー・アフレックの甥っ子役だったと言えばわかるだろうか。

 実は、この2人が揃って共演した映画がある。それも「カミング・オブ・エイジ・ムービー」の一本だが、グレタ・ガーウィグの高校時代を描いた『レディ・バード』である。ガーウィグ役を演じたのは、シアーシャ・ローナンだったが、彼女が映画の中で付き合う2人の男の子が、まさにシャラメとヘッジズだった。

 この2人は、年齢がほぼ同じだということもあり、まさに良きライバルと言えるのだが、2人が因縁浅からぬ関係にあるなと思うのは、前述の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の甥っ子役も、2人がオーディションで競った結果、ヘッジズが勝ち取った役だったりするからだ。

『レディ・バード』でヘッジズが演じたのは、女の子と付き合いながら、実はゲイだったという男の子の役だったが、現在公開中の『ある少年の告白』でヘッジズは、ゲイであることを「矯正する」施設に入れられる男の子の役を演じているのだ。思えば、シャラメの出世作となった『君の名前で僕を呼んで』は、まさにゲイの男の子の切ない恋愛感情を繊細に描いた映画だった。

 一方、『ある少年の告白』とほぼ同時期に公開された『ビューティフル・ボーイ』に出演中のシャラメだが、これはドラッグ中毒からの矯正、というか更生施設に入れられた少年の話だ。そして興味深いことに、ヘッジズの次の公開作である『ベン・イズ・バック』も、同じくドラッグの更生施設に入れられたヘッジズ演じるベンが、家族の元に戻ってくる(バック)話なのだ。さらに言えば、シャラメの次の公開作『ホット・サマー・ナイツ』では、同じドラッグを扱った映画ながら、今度はドラッグの中毒の方ではなく、売人になった男の子をシャラメが演じている。

 この2人が、「ゲイ」「ドラッグ」をテーマにした「カミング・オブ・エイジ・ムービー」に引っ張りだこなのは、もちろん今のアメリカの社会的な背景もあるとは思うが、こうした難しい役をこなせるだけの演技力が彼らにあるからに違いない。確かにシャラメは美形だし、ヘッジズのストイックな雰囲気も魅力だが、彼らは、何よりもその類い稀なる演技力で台頭してきた実力派なのだ。

 そして、さらなる才能が、この「カミング・オブ・エイジ・ムービー」シーンに現れた。やはり、現在公開中の『荒野にて』で主演を務めているチャーリー・プラマーである。シャラメやヘッジズは、ティーンエイジャーを演じながらも、実年齢ではすでに20歳を超えているが、プラマーは、彼らより3~4歳若いリアル10代なのだ。彼らより演技経験が乏しい分、まだフレッシュでナイーブな魅力に溢れているとも言える。

 プラマーは、昨年公開の『ゲティ家の身代金』の誘拐される男の子の役で注目を集めたが、後に彼の代表作(ヴェネチア映画祭で新人俳優賞を受賞)であり、テン年代の「カミング・オブ・エイジ・ムービー」の名作とも言われるようになるであろう映画が、孤独な少年の心のうちを描いた、アンドリュー・ヘイ監督の『荒野にて』である。映画の冒頭とラストでの彼の走る姿をぜひ見比べてほしい。まさに、彼がこの映画を通して成長(カミング・オブ・エイジ)したさまを感じ取ってもらうことができるはずだから。

「カミング・オブ・エイジ・ムービー」シーンを率いるのは、3人のフレッシュな俳優たち。公開作と合わせて注目したい。

『ビューティフル・ボーイ』 ©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel

ティモシー・シャラメ

1995年ニューヨークマンハッタン生まれ。『インターステラー』の主人公の息子役で注目され、『君の名前で僕を呼んで』のエリオ役で大ブレイクし、アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされる。最新主演作の『ビューティフル・ボーイ』は現在公開中。続いて、『ホット・サマー・ナイツ』は、8月16日、新宿ピカデリーほかで公開予定。

『荒野にて』 ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017

チャーリー・プラマー

1999年ニューヨーク州ポキプシー生まれ。日本未公開だが、初主演作『キング・ジャック』で注目される。そして、『ゲティ家の身代金』の出演のあと、2度目の主演作『荒野にて』の演技で、見事ヴェネチア映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した。『荒野にて』は、現在公開中。

ルーカス・ヘッジズ

1996年ニューヨークブルックリン・ハイツ生まれ。ウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』のレッドフォード役で注目される。その後、『とらわれて夏』などに出演し、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレック演じるリーの甥のパトリック役で、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされる。昨年も、『レディ・バード』『スリー・ビルボード』と、アカデミー賞でも話題になった作品に出演し、今年は現在公開中の『ある少年の告白』と、まもなく公開される、ジュリア・ロバーツと共演した『ベン・イズ・バック』と2本の主演作の公開が続く。『ベン・イズ・バック』は、5月24日、TOHOシネマズシャンテほかで公開予定。

text/
Mikado Koyanagi

本記事は雑誌BRUTUS893号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は893号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.893
新・日本のイタリアン。(2019.05.15発行)

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