音楽・ラジオ

親愛なるセルジオ・メンデスに、東京でモーニングコーヒーを!

BRUTUSCOPE

No. 892(2019.05.01発行)
居住空間学2019
セルジオ・メンデス(左) 堀内隆志(右)

堀内隆志さんが長年抱えていた疑問から、驚愕の真実が発覚。そして気になる新作の行方。

コンピレーションの選曲や執筆など、ブラジル音楽に造詣の深い〈カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ〉の堀内隆志さん。長年憧れだったというセルジオ・メンデス御大が日本滞在中ということで念願の初対面。熱い思いを抱きながら、渾身のコーヒーを淹れることに。用意したのはブラジル・フルッタメルカドンというフルーティなコーヒー。目の前で豆を挽き、ドリップをしてインタビューが始まった。

堀内隆志
今日は僕が焙煎したコーヒーを飲んでいただきながらお話を伺っていこうと思います。
セルジオ・メンデス
おー! 嬉しいね! コーヒーにはたくさんの思い出があるんだ。まずコーヒーの香りを嗅ぐと、子供時代を思い出すんだよね。いまだに懐かしい香りだ。一日の始まりに飲むもので、朝、目を覚ます時に飲むものなんだ。
堀内
コーヒーのお好みはあるんですか?
セルジオ
私はカプチーノが好きで、イタリア製のマシンが自宅にあるんだ。豆はブラジル、コロンビア、コスタリカ産をブレンドしている。
堀内
セルジオさんの音楽を初めて聴いたのは、全日本プロレスの世界最強タッグのテーマ曲「オリンピア」でした。ジャイアント馬場さんが創設した団体の。
セルジオ
おお! ミスター・ババ! 彼のことはよく覚えているよ! 彼は赤坂のキャピトル東急にあったオリガミコーヒーショップでいつもコーヒーを飲んでいたね。あそこのホテルは僕の定宿でもあったから、よく見かけたんだ。
堀内
セルジオさんが初来日された時、1963年だから、今から56年前。その時、ナラ・レオンと一緒に来日されましたね? その時のエピソードで覚えていらっしゃることは?
セルジオ
ロディアというフランスのアパレル会社の仕事で世界中を旅して、それで日本へも来たんだ。ナラ・レオンはまだちょうどキャリアをスタートさせたばかりで。
堀内
当時、彼女はサンバとかも歌っていたかと思うのですが。
セルジオ
いろいろな曲を歌っていたけど、ブラジルではボサノヴァが流行っていた時期。アントニオ・カルロス・ジョビンやカルロス・リラなど、ほかの作曲家の曲も。彼女はサンバのゼー・ケチの曲も歌っていた。その頃、僕は「マシュ・ケ・ナダ」をもうやっていたね。
堀内
レコーディングする前に、もうステージでは演奏されていたんですね。
セルジオ
そうだね。ジョルジュ・ベンの曲なんだけど。
堀内
どうしても聞いておきたかった質問をさせてください。10年以上前になりますが、ブラジル音楽のカタログをリイシューするという仕事をしていて、何度リクエストしても許諾の下りなかったセルジオさんのアルバムがありました。それはなぜだったのでしょうか? まだ世界中でもCD化されていない1963年の『Quiet Nights』という作品です。(カ
バンから取り出し)これです。
セルジオ
(手に取り)このアルバム? いや、覚えてないなぁ。……これは私自身がレコーディングしたものではないかもしれないな。(ジャケット盤面を読みながら)アブラッソ・ア・セルジオ(「Abraco A Sergio」)。うーん、本当に知ら
ないな。多分、私ではない。
堀内
ということは、フェイク?
セルジオ
アッハハハ(爆笑)。実際に演奏した記憶のある曲もあるけど、『Quiet Nights』かぁ。本当に知らない。
堀内
では気を取り直して、制作中のニューアルバムについて教えてください。
セルジオ
LAで制作したり、リオでパーカッションを録音したりしてね。3曲ほど、私の人生に欠かせない音楽家と一緒に曲を作ったんだ。天才エルメート・パスコアールは82歳。「This IS It」という曲でラップを披露している。そして、もう一人、ジョアン・ドナートとは「ムガンガ」というパーティを意味する曲を書いたんだ。セレブレーション、ジョイ、ハッピーというイメージでね。3人目はギンガ。ギンガ・イズ・シブイ!
堀内
シブイ!
セルジオ
それに、83年に僕の作品「Never Gonna Let YOU Go」を歌ってくれた古い友達でもあるシンガーのジョー・ピズーロの娘であるソフィアも歌手になって「Samba in Heaven」に参加してくれた。天国のサンバ。美しい仕事だった。国や年代を問わずに、ユニークで、情熱を持った音楽家と仕事をすることは私にとってすごく刺激になる。今回のアルバムは共作もあるけど、初めてほぼ全曲自分で作曲したんだ。
堀内
レジェンド世代から若手まで才能あるアーティストたちとのコラボ作品ですね。完成をすごく楽しみにしています。

ほりうち・たかし

25周年を迎えた鎌倉〈cafe vivement dimanche〉のマスター兼ロースター。毎週日曜FMヨコハマ『BY the Sea,COFFEE & MUSIC』にレギュラー出演中。ブラジル音楽の執筆、音源のコンパイルも手がける。

セルジオ・メンデス

1941年リオデジャネイロ近郊ニテロイ生まれ。66年にセルジオ・メンデス&ブラジル66「マシュ・ケ・ナダ」が大ヒット。ブラック・アイド・ピーズらと共演した『タイムレス』(2005年)も記憶に新しい。現在、新作の制作中。

photo/
Shinichiro Fujita
text/
Takashi Horiuchi
edit/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS892号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は892号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.892
居住空間学2019(2019.05.01発行)

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