映画

本国を代表する、新進気鋭のドイツ人俳優が、日本人演出家と再会。

BRUTUSCOPE

No. 891(2019.04.15発行)
曜変天目 宇宙でござる!?

ドイツ新世代の才能が集った、孤独な男の日々を優しく見つめる映画『希望の灯り』公開。

本作『希望の灯り』や『未来を乗り換えた男』など、国際的に高い評価を得るドイツ映画に続けて主演し、一躍注目を集める実力派、フランツ・ロゴフスキ。どこかアキ・カウリスマキ作品を彷彿させる今回の映画では、寡黙で謎めいた男を抑制的に、確かな演技プランのもと演じている。2018年にミュンヘンで上演された、彼の出演舞台『NO SEX』の作・演出家、岡田利規と東京で再会した。

岡田利規 
やはり知人だから、どうしてもフランツばかり見てしまうんだけど、強い人間でも正しい人間でもない、内気なキャラクターを彼が魅力的に演じていて、そこから目が離せなかったです。僕自身はここまで内気な人にドイツで出会ったことはないけど。
フランツ・ロゴフスキ 
(笑)。
岡田
日本人にとって親近感を抱きやすいキャラクターですよね。でも一筋縄ではいかなくて、女性への思いの寄せ方とかその後に取る行動とか、優しいんだけど同時にヤバいヤバいやつだと思う半面、こういうやついるよねってすんなり思えてしまうんです。
ロゴフスキ
刑務所を出所したばかりの今回のキャラクターを演じるに当たってフィジカルな部分では、ベトナム帰還兵が社会に復帰する瞬間を意識しました。仕事中は腕を真っすぐ下ろしているけど、プライベートでは腕が体から離れ、いかつく見える。その強弱を意識的につけています。エモーショナルな部分では、彼は社会に戻って、人々と繋がりたいという思いを持っています。彼は傷ついた動物なんですね。その傷が人々と出会い、彼らへの愛や思いやりを通じて和らいでいく。少しずつ心を開いていくことによって、彼という人物が見えてくるのが、この作品の特徴だと思います。
岡田
これだけの寂しさ、個であるという感覚は、日本で作られた作品ではよく見るものですよね。でもそれを海外の作品で見ると不思議な気持ちになります。舞台となるスーパーマーケットの空間が、多くのことを伝えている気がしました。モノはたくさんあるけれど、ある意味でエンプティな空間でもある。観終わって、その感覚が自分に残っています。
ロゴフスキ
トーマス・ステューバー監督の映画作りが素晴らしいのは、演技と映像、音楽の各レイヤーを、きちんとそれぞれの方法で用いているところです。役者にはもちろん台詞があるけれど、言葉で状況を説明するわけではなく、描かれている情景やイメージも、状況をはっきり物語っているわけではない。音楽も観客に心理的に訴える働きをするのではなく、音楽そのものとして用いられています。そうすることで、3つのレイヤーの間に空白ができて、レイヤー同士が相互に作用するんです。作品に空白を残して、観客に想像力を発揮してもらうような演出法は、岡田さんとすごく似ている気がしますが。
岡田
今、話を聞きながら、僕も似ているなと思いました(笑)。
ロゴフスキ
台詞やイメージが状況を物語ったり、音楽が感情的にすべてを伝えたりする映画が多い中、余白を残すステューバーの演出は素晴らしいと思います。
岡田
その通りですね。スーパーマーケットで主人公がフォークリフトを要領悪く、へたくそに動かす場面がありますが、あのやきもきする時間は非常に面白い時間でした。
ロゴフスキ
スーパーマーケットの棚にきれいに陳列されている商品は、人間に孤独を感じさせます。劇中には棚が倒れて、商品が床にちらばってしまう場面もありますが、あの瞬間、商品から人間的な生きている感じを受けました。普段は整理されている商品が、倒れてぐちゃぐちゃになった瞬間、美しく見えるんです。
岡田
確かにスーパーマーケットという場所では、商品がきれいに並んでいなければなりません。それは人間がいろいろな意味で抑圧されていて、決まりを守らなければならないのと同じですね。だけど何かの弾みでそれが壊れたり乱れたりすると、起きるべきでないことが起きてしまったという気持ちと、抑圧されていたものが解放されたような快さと、その両方を感じます。この映画には終始、その緊張感がありました。
ロゴフスキ
スーパーマーケットでは商品が完成品として陳列されています。それに対して人間は、まだ完成に至る過程にいるにすぎません。完成へ至るためには、この作品が描いたように、自分にぴったりと合う相手と出会うことが必要じゃないかと感じています。

『希望の灯り』
監督:トーマス・ステューバー/出演:フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー/巨大スーパーで働き始めた寡黙なクリスティアン。年上の女性と出会い、周囲の人々に支えられ、過去の傷を癒やしていく彼の姿を、静謐な映像と優美な音楽の中に描く。背景には東西統一後のドイツが抱える社会問題が。Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開中。
©2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

photo/
Natsumi Kakuto
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS891号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は891号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.891
曜変天目 宇宙でござる!?(2019.04.15発行)

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