エンターテインメント

面白い舞台は、リアリティの追求から。ケラリーノ・サンドロヴィッチの新たな挑戦。

BRUTUSCOPE

No. 890(2019.04.01発行)
花と花束。
ともさかりえ(左) ケラリーノ・サンドロヴィッチ(右)

大竹・稲垣・ともさか・段田×KERA。13年ぶりに豪華メンバーが集い、フランスの気鋭作家の舞台に挑む。

愚かしくも滑稽。人間の悲喜こもごもを絶妙な筆致で描く劇作家演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチことKERAさん。チェーホフ等、海外戯曲も細やかな演出で、時代や国の違いを超えて、観る者にリアルに迫る芝居に仕立て上げる。最新舞台は、フランスのヤスミナ・レザ作の『LIFE LIFE LIFE 〜人生の3つのヴァージョン〜』。13年前に好評を博した『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』の出演陣、大竹しのぶ、稲垣吾郎、ともさかりえ、段田安則が再集結することになった。これまで幾度もタッグを組んだ、KERAさんとともさかりえさんが舞台作りの裏側を語る。

KERA
今年は『LIFE LIFE LIFE』と『キネマと恋人』の再演と一緒の舞台が続くね。
ともさかりえ
KERAさんの作品は、観客として観ても純粋に面白いと思えます。そんな大好きな舞台にまた呼んでいただけて嬉しいです。
KERA
ともさかとは、僕が初監督した映画『1980』に出てもらったのが一番最初。あのとき、22歳くらい?
ともさか
22か23くらい、撮影中に誕生日を祝っていただきました。そして、今年で40歳になります。
KERA
その間、人生が激変したね(笑)。かっこいいよ
ともさか
そうなるつもりはなかったのですが、すみません(笑)。
KERA
あの頃から、大人びて落ち着いていたよね。クレバーなお芝居をするので、ともさかには、能天気な役はあまり浮かばなくて、どこか陰があったり、本人の気づいてないところにちょっと異常さがある役にしたくなる(笑)。
ともさか
かわいそうな役が多い気がします(笑)。私は、KERAさんの扱われる言葉が好きなんです。言葉を好きになれるかどうかは、私のなかで大きな問題で、翻訳ものはなかなか難しいです。日本人には理解しづらい情緒もありますし。『LIFE LIFE LIFE』も、KERAさんの手の入った上演台本をいただいて、やっと腑に落ちました。語尾の加減やちょっとしたニュアンスで、台本の手触りがこんなに変わるんですね。
KERA
少しは整理されたかな? 翻訳劇は、相手の言葉に対して相槌がなかったり、台詞だけを見ると、気持ちの流れが唐突だったりして、戸惑うことがあるよね。
ともさか
はい。あれ、どうなったの? というようなことが(笑)。
KERA
自分で書いたホンなら、明快に答えられるけど、翻訳劇は作家の意図のわからない部分も出てきてしまう。役者と一緒に探りながら作っていく感じだね。その意味でも、出演者が面白がってくれるかが大事。多少、突っ込みどころがあるにせよ、「これは世界一面白い戯曲なんだ」と思ってやらないといけない。
ともさか
大竹さんも段田さんも大先輩ですし、出演者は4人だけ。13年前の『ヴァージニア〜』は、私にとってとてもハードルが高くて、とにかく恐ろしくて、1ミリも楽しむ余裕はありませんでした。息子がまだ授乳中だったので、目まぐるしくて稽古の記憶もあまりないんです。
KERA
僕もあれが初めての翻訳劇の演出だったから、緊張してましたよ。あれ以来、北村プロデューサーにはチェーホフの演出など幾度となく試練を与えられた(笑)。でも、その修業を乗り越えることで、意識するしないにかかわらず、自分の作品にフィードバックできたと思う。
ともさか
そうだったんですね。
KERA
新劇の方が翻訳ものを稽古するときは、最初の数週間をホン読みにあてて、歴史的背景やその国の文化を勉強するのが通例。でも僕は、人を描くうえで、必ずしもそれは必要ないんじゃないかと、チェーホフを演出するときもやらなかった。今回もフランス人アメリカ人を揶揄するセリフは、日本人が演じてもリアリティがないので調整しました。
ともさか
KERAさんの演出ではセリフの「音」も大切にされますよね?
KERA
うん。いま聞こえている空調の「ブォー」という音の高さがわからないとダメ。音痴には厳しいね。
ともさか
LIFE LIFE LIFE』では、人生の3つのヴァージョンが描かれていますが、私は、実人生でもよく「あのとき、○○してたら」としょっちゅう考えます。
KERA
それで落ち込んだり、浮かれたりするの?  僕はあまり考えないな。「あのときこうすれば」と思っても、そうしたことで死んでいたかもしれないじゃない? いまこうして芝居を作れていることがよかったと思うようにしていますね。ただ、人生「いいことばかりじゃありゃしない」から(笑)、良いことがあると、このしっぺ返しはいつか来るぞ、と覚悟しています。
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LIFE LIFE LIFE〜人生の3つのヴァージョン〜』

作:ヤスミナ・レザ/上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/出演:大竹しのぶ、稲垣吾郎、ともさかりえ、段田安則/ある夜、天体物理学者のアンリ(稲垣吾郎)と妻のソニア(ともさかりえ)の家に、上司ユベール(段田安則)とイネス(大竹しのぶ)が訪れる。ディナーは翌日のはず……。最悪の事態から展開する3つの物語。4月6日〜30日、Bunkamura シアターコクーンで上演。●問合せ/シス・カンパニー☎03・5423・5906。http://www.siscompany.com/life/

世田谷パブリックシアター+KERA・MAP #009 『キネマと恋人』

台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/出演:妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえほか/昭和11年、日本の架空のさびれた港町。映画が人生のすべてのようなハルコ(緒川たまき)のもとに、映画の中から寅蔵(妻夫木聡)が飛び出した 架空の方言が愛らしくてたまらない、ロマンティックコメディ。3年ぶりの再演。6月8日〜23日、世田谷パブリックシアターで上演。●問合せ/世田谷パブリックシアターチケットセンター☎03・5432・1515。https://setagaya-pt.jp

ともさかりえ

1979年東京都生まれ。女優。92年デビュー。最近の主な出演ドラマに『アシガール』(2017年、18年/NHK)、『ぬけまいる〜女三人伊勢参り』(18年/NHK)、映画に『PとJK』(17年)、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18年)、5月24日に『貞子』が公開。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

1963年東京都生まれ。劇作家演出家映画監督、音楽家。劇団〈健康〉を経て、93年に〈ナイロン100℃〉を結成。読売演劇大賞ほか、受賞多数。昨年秋には紫綬褒章を受章した。5月にソロアルバム『LANDSCAPE』をリリース。ともさかりえも参加。

ともさか

ベスト62,000円(ルーム エイト ブラック/ビームス ハウス 丸の内☎03・5220・8686)、トップス4,900円、デニム16,000円(共にノーク バイ ザ ライン/ノーク☎03・3669・5205)、イヤーカフ 右 88,000円、左 48,000円(ヒロタカ/ショールーム セッション☎03・5464・9975)、リング44,000円(マリア ブラック/ショールーム セッション)

styling/
Kumi Saito (Tomosaka)
hair&make/
Ichiki Kita
photo/
Aya Kawachi
text/
Tomoko Kurose

本記事は雑誌BRUTUS890号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は890号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.890
花と花束。(2019.04.01発行)

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