大竹・稲垣・ともさか・段田×KERA。13年ぶりに豪華メンバーが集い、フランスの気鋭作家の舞台に挑む。
愚かしくも滑稽。人間の悲喜こもごもを絶妙な筆致で描く劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチことKERAさん。チェーホフ等、海外戯曲も細やかな演出で、時代や国の違いを超えて、観る者にリアルに迫る芝居に仕立て上げる。最新舞台は、フランスのヤスミナ・レザ作の『LIFE LIFE LIFE 〜人生の3つのヴァージョン〜』。13年前に好評を博した『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』の出演陣、大竹しのぶ、稲垣吾郎、ともさかりえ、段田安則が再集結することになった。これまで幾度もタッグを組んだ、KERAさんとともさかりえさんが舞台作りの裏側を語る。
- ともさかりえ
- KERAさんの作品は、観客として観ても純粋に面白いと思えます。そんな大好きな舞台にまた呼んでいただけて嬉しいです。
- KERA
- ともさかとは、僕が初監督した映画『1980』に出てもらったのが一番最初。あのとき、22歳くらい?
- KERA
- その間、人生が激変したね(笑)。かっこいいよ
- ともさか
- そうなるつもりはなかったのですが、すみません(笑)。
- KERA
- あの頃から、大人びて落ち着いていたよね。クレバーなお芝居をするので、ともさかには、能天気な役はあまり浮かばなくて、どこか陰があったり、本人の気づいてないところにちょっと異常さがある役にしたくなる(笑)。
- ともさか
- かわいそうな役が多い気がします(笑)。私は、KERAさんの扱われる言葉が好きなんです。言葉を好きになれるかどうかは、私のなかで大きな問題で、翻訳ものはなかなか難しいです。日本人には理解しづらい情緒もありますし。『LIFE LIFE LIFE』も、KERAさんの手の入った上演台本をいただいて、やっと腑に落ちました。語尾の加減やちょっとしたニュアンスで、台本の手触りがこんなに変わるんですね。
- KERA
- 少しは整理されたかな? 翻訳劇は、相手の言葉に対して相槌がなかったり、台詞だけを見ると、気持ちの流れが唐突だったりして、戸惑うことがあるよね。
- ともさか
- はい。あれ、どうなったの? というようなことが(笑)。
- KERA
- 自分で書いたホンなら、明快に答えられるけど、翻訳劇は作家の意図のわからない部分も出てきてしまう。役者と一緒に探りながら作っていく感じだね。その意味でも、出演者が面白がってくれるかが大事。多少、突っ込みどころがあるにせよ、「これは世界一面白い戯曲なんだ」と思ってやらないといけない。
- ともさか
- 大竹さんも段田さんも大先輩ですし、出演者は4人だけ。13年前の『ヴァージニア〜』は、私にとってとてもハードルが高くて、とにかく恐ろしくて、1ミリも楽しむ余裕はありませんでした。息子がまだ授乳中だったので、目まぐるしくて稽古の記憶もあまりないんです。
- KERA
- 僕もあれが初めての翻訳劇の演出だったから、緊張してましたよ。あれ以来、北村プロデューサーにはチェーホフの演出など幾度となく試練を与えられた(笑)。でも、その修業を乗り越えることで、意識するしないにかかわらず、自分の作品にフィードバックできたと思う。
- ともさか
- そうだったんですね。
- KERA
- 新劇の方が翻訳ものを稽古するときは、最初の数週間をホン読みにあてて、歴史的背景やその国の文化を勉強するのが通例。でも僕は、人を描くうえで、必ずしもそれは必要ないんじゃないかと、チェーホフを演出するときもやらなかった。今回もフランス人がアメリカ人を揶揄するセリフは、日本人が演じてもリアリティがないので調整しました。
- ともさか
- KERAさんの演出ではセリフの「音」も大切にされますよね?
- KERA
- うん。いま聞こえている空調の「ブォー」という音の高さがわからないとダメ。音痴には厳しいね。
- KERA
- それで落ち込んだり、浮かれたりするの? 僕はあまり考えないな。「あのときこうすれば」と思っても、そうしたことで死んでいたかもしれないじゃない? いまこうして芝居を作れていることがよかったと思うようにしていますね。ただ、人生「いいことばかりじゃありゃしない」から(笑)、良いことがあると、このしっぺ返しはいつか来るぞ、と覚悟しています。

世田谷パブリックシアター+KERA・MAP #009 『キネマと恋人』
ともさかりえ
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
ともさか
ベスト62,000円(ルーム エイト ブラック/ビームス ハウス 丸の内☎03・5220・8686)、トップス4,900円、デニム16,000円(共にノーク バイ ザ ライン/ノーク☎03・3669・5205)、イヤーカフ 右 88,000円、左 48,000円(ヒロタカ/ショールーム セッション☎03・5464・9975)、リング44,000円(マリア ブラック/ショールーム セッション)
- styling/
- Kumi Saito (Tomosaka)
- hair&make/
- Ichiki Kita
- photo/
- Aya Kawachi
- text/
- Tomoko Kurose
本記事は雑誌BRUTUS890号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は890号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。