生活・スポーツ映画

花と映画と男と女。

花と花束。

No. 890(2019.04.01発行)
花と花束。

自意識が邪魔をして女性に花束をスマートに渡せそうもない、そもそも花をどう扱っていいかわからない。そんなシャイな御仁のために、花の扱いに長けた男たちが登場する映画の名シーンを紹介しよう。

「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」。川端康成の掌編「花」はこんな言葉で結ばれている。では、どんな花を男に教えたらいいのかというと、これはどんな花でもいいのである。なぜなら多くの男は花の名前一つ知らない“花音痴”なのだから。男は花とどう付き合うべきか? 映画には数々の男と花にまつわる名シーンが登場する。

『ブロークン・フラワーズ』の主人公は、匿名のピンクの封筒が送られてきたことをきっかけに、かつての恋人たちを尋ね歩くことになる。その際、目印としてピンクの花束を持っていくことにするのだが、刮目すべきは主演のビル・マーレーに意外にもそのかわいらしい花束が似合ったことである。この映画は花束と中年のおじさんという組み合わせが、案外悪くないことを教えてくれる。
 
花束を片手に腕を広げて女性を待ち受ける、そんな典型的な優男を演じてみたいなら当然『プリティ・ウーマン』がお手本だ。ちょっとしたボタンの掛け違いから生じた不和をバラの花束を携えて解消するラスト。または『ビッグ・フィッシュ』の彼女の部屋から見える庭一面に水仙を植える名シーン。これらから学ぶべきは臆することのないロマンティックな精神だ。いずれも花は女性のこわばった顔をほころばせるのに一役買った点を見逃してはならない。
 
窓辺で寂しげに佇む女性にアプローチをするといえば『ロミオとジュリエット』だが、舞台が80年代ブルックリンとなると少し趣が違ってくる。スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』では飲んだくれの老人がアパートの窓際に佇んでいる女性にバラの花束を渡すシーンがある。老人はあり金をはたいて食料品店の店先の花を買うが、この時の女店主の、お前が花を? という訝しげな視線に負けてはならない。買った花を空き瓶に入れ女性のもとに届けるが、なんとこちらも塩対応。話しかけても素知らぬふりだが老人が去った後に残された花に視線を落とす。言葉は交わさずとも思う気持ちは置いてこられたのだ。
 
いきなり花束を贈るのはハードルが高いという向きには『街のあかり』を薦めたい。主人公は恋する女を初めて家に招く際、殺風景な部屋を2輪の花で飾る。無口な彼にとってはこれが精いっぱいの愛情表現なわけだが、花があるとないでは大違い。自分が無口な分、その気持ちを花に託したというわけだ。
 
最後は男女を結ぶ花ではないが、北野武監督の『3−4x10月』を紹介したい。沖縄でチンピラとして暮らす上原(ビートたけし)は、敵対組織に殴り込みをかける際、ストレリチア(極楽鳥花)だけで仕立てた変わった花束の中に機関銃を隠す。真似する機会はなさそうだが、花をかわいらしいものとしてではなく描いたところが見どころ。以上のような映画のアレコレを脳内にインストールすれば、花もこれまで以上に身近な存在に……なっただろうか?

『ビッグ・フィッシュ』(2003年/米)

花束じゃ足りない思いは花畑で。


監督:ティム・バートン/出演:ユアン・マクレガー/エドワード・ブルームはたまたま見物したサーカスで一人の女性客に一目惚れする。彼女を知るサーカス団長の下で3年働き、ようやく居どころを教えてもらう。晴れて2度目の対面のとき。彼女の部屋の窓から見える一帯に、彼は彼女が好きな水仙を植えて愛を告白するのだった。

『街のあかり』(2006年/フィンランド)

口べたな男の愛情表現としての花。

監督:アキ・カウリスマキ/出演:ヤンネ・フーティアイネン/主人公のコイスティネンはある日、一人の女性と恋に落ちる。花を飾った部屋で彼女をもてなすのだが、実は女は強盗団によって送り込まれたハニートラップだった。カウリスマキ監督は、本作以外にもしばしば花を取り入れた印象深い演出をしている。

『ブロークン・フラワーズ』(2005年/米)

男から女への手土産は花に限る。

監督:ジム・ジャームッシュ/出演:ビル・マーレイ/ある日、中年男のドンのもとに匿名のピンク色の封筒が届く。そこには「実はあなたとの間に19歳の息子がいます」と綴られた手紙が入っていた。かくして、ドンは送り主である可能性のありそうな4人の元恋人たちを訪ねることに。その際、目印として持つのが、封筒の色と同じピンク色の花束だ。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年/米)

飄々と『ロミオとジュリエット』。

監督:スパイク・リー/出演:ダニー・アイエロ/ニューヨークブルックリンで繰り広げられる社会派群像劇。飲んだくれ老人メイヤーは、思い立ったようにバラの花束を商店で買い、アパートの窓辺に憮然と座るマザー・シスターにプレゼントする。メイヤーが彼女に“花の香り”について語りかけるあたりも含め、『ロミオとジュリエット』を想起させる。

『プリティ・ウーマン』(1990年/米)

男女関係を修復するにはバラの花束を。

監督:ゲイリー・マーシャル/出演:リチャード・ギア/コールガールのビビアンは、実業家のエドワードと「6日間だけの恋人契約」を結ぶ。そして6日目。彼は彼女を引き続き金銭的に支援し続けたいと言いだす。恋人になれると思っていた彼女は激怒。エドワードはバラの花束を抱え、リムジンで彼女を迎えに行くのだった。

『3−4x10月』(1990年/日)

“花はかっこいい”というコペルニクス的転回。

監督:北野武/出演:小野昌彦/職場でのトラブルが原因でヤクザと抗争するハメになった雅樹は、拳銃を入手するために沖縄へと向かい、チンピラの上原と知り合う。彼もまた地元ヤクザと抗争中だった。上原がストレリチアの花畑で花冠をかぶっている自分の姿を幻視した後、花で隠した機関銃を手に敵地に乗り込む流れは衝撃的。

illustration/
Yoshimi Hatori
text/
Keisuke Kagiwada

本記事は雑誌BRUTUS890号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は890号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.890
花と花束。(2019.04.01発行)

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