ファッション

ジャケットとネクタイと時計|ハリー杉山

Treasures from my father. 価値あるものを譲り受けて。

No. 889(2019.03.15発行)
服があるのに、着たいものがない?
父がいつも仕事で着ていたジャケット、学生時代にいつも着けていたネクタイ、そして祖父から代々受け継いでいる時計を着用。「イギリス人ならジャケットはマスト」と語るだけに、数十年前のジャケットもうまく着こなす。

父と祖父からの贈り物が教えてくれた、 ファッションがもたらす本当の価値。

ニューヨーク・タイムズの東京支局長も務めたイギリス人ジャーナリストの父を持つハリー杉山さん。11~18歳の思春期イギリスで過ごし、イギリスで一番古い全寮制の学校ウィンチェスター・カレッジを卒業。1382年から続く名門校に、祖父、そして父と代々が通っている。寮に入った13歳の時から英国でジャケットを着てきただけに、フォーマルへのこだわりはかなりのもの。50枚は所有しているというジャケットの中でも、父から譲り受けたものには特に強い思い入れを持っている。

「リサイズしていないんですよ、親子を感じますよね。父はいつもこのジャケットを着ていました。内ポケットにペンを差していたからインクがにじんでいるんです。いつ買ったものなのかは知りませんが、50年以上世界を取材してきた人が着ていたジャケットだから、いろんな場面を共にして見てきたと思いますよ」
 
また、襟に光るバッジは日本外国特派員協会(日本にいる世界のジャーナリストのために運営されている会員制クラブ)のもの。このクラブの会員も、親子2代にわたっている。
「ずっと尊敬していますが、幼い頃は父親のものを着るっていうのがちょっと嫌だったんです。友達から、“そんなにお父さんのこと好きなの”みたいな目をされそうじゃないですか? もちろん今では父のものを受け継ぐ、ということの価値を理解しています」
 
子供の頃とは違い、今のハリーさんにとって、父のジャケットは勝負服。大事な場面で力を借りるために着るという言葉から、敬意の念が窺えた。
「女性に告白する時にも着たいですね。そういえば、ファーストキスの時は祖父のディナージャケットを着ていました。寮生活をしていた15歳の時で、年に1度のダンスパーティ。ちゃんとしたディナージャケットを、と母が用意してくれていたものでしたね」

写真で父が着用しているのが同じジャケットと時計。「いつも“やりたいことをやれ”と、僕の背中を押してくれた。もし自分に子供ができたら同じように教え、継承したい」とハリーさん。

父に限らず、尊敬している気持ちは祖父に対しても持っている。
「校内で最も優秀な生徒が集まる寮に祖父はいました。グラストンベリーの市長を務められていたし、すごく誇りに思っています。この腕時計は3世代にわたり受け継がれているオメガのシーマスター。彼は第一次、第二次世界大戦を経験しているから、当時身に着けていたドッグタグも僕の手元にあるんですよ。ちょっと重みがありすぎて着けるのは躊躇してしまいますけど(笑)」
 
ハリーさんが着けているネクタイは、祖父と父も通ったウィンチェスター・カレッジのもの。父から譲り受けたこの制服のネクタイに、彼は特別な価値を見出している。ただ、それは名の通った名門校であることだけが理由ではない。
「ジャケットとネクタイなら服装は自由な学校だったので、僕は在学中にウィンチェスターのネクタイを買わずにほかのものを使っていたんです。子供の時は別のもので友達に差をつけたいって思いがちでしたから……。大人になってスクールネクタイの価値に気づき、父に譲ってもらいました。10年ほど前、父が神谷町の駅でこれを着けて歩いていると、30歳以上年下の卒業生から声をかけられたと言っていて、その人とは後にいろいろと交流も生まれていました」
 
全寮制の学校は家族と離れる寂しさがあるけど、友達との絆を深めることができる。何年も会っていなかったのに、一通のメールで仕事が生まれたりすることも。スクールネクタイには、人と人を結ぶ力が備わっているそうだ。
「父がファッションに関心を持っていたかどうかはわかりませんが、この前ビートルズ風のヘアで会いに行くと“That will not do……(それはよろしくない)”って言われました(笑)。最近、父の友人に会うことが増えたんです。このジャケットを着ていくと、“そのジャケット懐かしいね”って言ってもらえたりもします。僕はこのジャケットのブランドを知りません。タグには1733年って書いてあるから老舗だと思いますが……。どんなものだろうと父から譲ってもらったものは、僕に力を与えてくれる特別なものなんです」

祖父から代々受け継いでいるオメガ シーマスター。父が毎日着けていたからベルトがボロボロだったのを、母が付け替えて譲ってくれたのだという。今でもよく身に着ける宝物の一つ。

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Harry Sugiyama

ハリー・すぎやま/フジテレビ『ノンストップ!』やJ−WAVE『POP OF THE WORLD』などで活躍するタレント。3月にはNHK連続テレビ小説『まんぷく』や他番組で役者活動も。

photo/
Koh Akazawa
edit&text/
Naoto Matsumura

本記事は雑誌BRUTUS889号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は889号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.889
服があるのに、着たいものがない?(2019.03.15発行)

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