映画

元シリア兵が見つめる、 創造と破壊、希望と地獄。

みんなの映画 by Takashi Homma

No. 888(2019.03.01発行)
WE LOVE 平成アニメ

『セメントの記憶』

BRUTUS(以下B)
ベイルートは今でこそ、近代建築が立ち並び、中東パリといわれていますが、1975年から90年まで長い内戦が繰り広げられていました。そこで同じく内戦を経験したシリア人移民や難民の労働者たちが、建築ブームに沸く海岸沿いで劣悪な環境で働いています。亡命した元シリア兵の監督(*1)がその事実と向き合ったドキュメンタリーです。
ホンマタカシ(以下H)
日本人はシリアのことやベイルートのことを何も知らないよね。30年前のそれぞれの内戦のことも。この開発のことも。
B 
恥ずかしながら、初めて知りました。
H 
地下で共同生活をして、そのままリフトで階上の建築現場で仕事をする。そして、シリア人労働者たちは19時以降の外出も許されない。
B 
建設中の32階建てオーシャンビューのビルの地下に200人以上の労働者が住んでいるとは……。活況を呈する開発の裏の内戦による難民問題を浮き彫りにしていました。
H 
淡々と映し出されるベイルートの建設現場とシリア内戦の紛争の映像。シリアの戦車の主観カメラと、ベイルートのミキサー車に取り付けられた回転するウェアラブルカメラ。
B 
とても対照的な映像でした。
H 
クール、かつポエティック。ゴダールの『ヒア&ゼア こことよそ』(*2)を彷彿とさせるね。映像でしか提示できないヒリヒリ感が素晴らしいよ。

*1 

1981年シリア生まれの映画監督2010年に政府軍に徴兵されるも、内戦が激化する中13年に亡命。本作の撮影を開始した。

*2 

1976年フランスで発表された政治ドキュメンタリー映画

『セメントの記憶』

監督・脚本:ジアード・クルスーム/撮影監督:タラール・クーリ/音楽:アンツガー・フレーリッヒ/3月23日、渋谷・ユーロスペースほかで全国順次公開。

©2017 Bidayyat for Audiovisual Arts, BASIS BERLIN Filmproduktion/

本記事は雑誌BRUTUS888号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は888号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.888
WE LOVE 平成アニメ(2019.03.01発行)

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