人生仕事

自分の作品は全部ね、まだ終わっていないんです。|松本零士

TOKYO80s

No. 888(2019.03.01発行)
WE LOVE 平成アニメ

松本零士(最終回/全四回)

本当にインキンタムシが助けてくれたんですよ。漫画を描くときの目的意識をはっきりさせてくれました。それ以来、ずっと描いています。自由業ですからね、退職金もない、最後まで働かなきゃいけない。けれどガキの時から宇宙を飛ぶことが切なる思いですから。この地球を見てからあの世に行きたい。今までは残念ながら1万6000mまでしか行ったことがないんです。コンコルドを操縦させてもらいましてね、パリからリオデジャネイロに飛ぶときに「お前、やるか⁉」って。ほかのお客さんがいるのに墜落実験をやろうと言いだして、6000mまで垂直に急降下。一瞬無重力になるんです。客席に戻って、一緒にいた、ちばてつやに「揺れたろ? 俺がやったんだ」と言ったら、「二度とトイレに行かせん」。そういう自由が昔はあった。ジャンボもYS−11も操縦しました。無免許でね。今なら御用ですよ。ナイアガラの滝やナスカの地上絵の上も軽飛行機を操縦して飛びました。アフリカに行った時はケニアのサバンナでライオンと決闘しようと思って、間違えてタンザニア領に入ってしまいましたがね。アマゾン川も泳いで、ピラニアを刺し身にして食ったりね。自由にどこにでも入れたわけです。我々はそういうことができた最後の世代で、この体験がものを言う。スケール感がわかるでしょ。写真は単眼レンズだけど、人間は両目で見るので距離感や広がり方がわかる。だから現地に行ったことがある人間が描く絵と、写真資料で描く絵は違う。すぐにバレてしまうんです。とにかくいろんな場所に行って暴れ回るのが好きで、それが健康のもと。お医者さんには「あんた、おかしい」と言われます。この年になると何か問題があるはずなのに何もないってね。自分の人生を一言で言うと、あの時、汽車に乗らなかったら自分の人生は終わっていた。「俺は死んでも帰らん」と東京に旅立ったのが、大事な、大事な旅立ちの瞬間。あとは漫画の歴史を最後に描きたい。亡くなった人たちのあらゆる漫画を持っていて、これを整理して描きたいんです。実は自分の作品は『宇宙海賊キャプテンハーロック』『クイーン・エメラルダス』『銀河鉄道999』、何もかもね、一つの物語なんです。それを全部合わせて描くと終わりが来る。しかし終わりを描いたら死にそうなんで、まだ描きたくないですね。だからまだ終着駅には行かないですよ。(了)

まつもと・れいじ

1938年生まれ。漫画家。代表作に『銀河鉄道999』など。

第1回第2回第3回第4回

PHOTO/
SHINGO WAKAGI
TEXT/
KUNICHI NOMURA
EDIT/
HITOSHI MATSUO

本記事は雑誌BRUTUS888号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は888号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.888
WE LOVE 平成アニメ(2019.03.01発行)

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