書籍・読書

古市憲寿『平成くん、さようなら』の平成くん

星野概念「登場人物を精神医学で診る 本の診断室」

No. 887(2019.02.15発行)
平凡ブルータス

主治医:星野概念

名前:古市憲寿『平成くん、さようなら』の平成くん

症状:平成が終わった瞬間から、僕は間違いなく古い人間になってしまう。(中略)時代を背負った人間は、必ず古くなっちゃうんだよ。

備考:平成の終わりとともに安楽死を望む主人公と、それを受け入れられない恋人。2人の関係を通して、生きること、死ぬことの意味を問う。文藝春秋/1,400円。

診断結果:生と死を、選び取ることの難しさ。

日本に安楽死法があり、安楽死先進国であるという設定。平成の始まりの日に生まれた平成は、東日本大震災後、時代を投影した卒業論文で注目され、文化人となり平成(へいせい)くんと呼ばれます。彼は合理主義者で、性行為も好みませんが、それを承知で同棲する瀬戸愛にある日、安楽死を考えていると告げます。愛はそれを受容できず、理由を追及し、決意を変えさせようと行動します。平成くんが死にたい理由は、平成の終焉とともに自分が古くなるから、でしたが、話が進むにつれ、別の理由も明らかになります。作品の語り手である愛は、様々なエピソードを通して死について考え、読者も次第に自分の死生観と向き合うでしょう。平成くんは、自分の未来を予測し、生き続けることに価値はないと冷静に考え、致死性の薬物を投与される「積極的安楽死」を望んでいます。これは生物として自然な流れではなく、現実の日本では容認され難い選択ですが、大きな意思決定です。そしてそれをどう受け止めるか、止めるか、流すか。これは近親者の意思決定です。医療現場では、どんな検査や治療をするか、利点や欠点を説明したうえで患者さん側が意思決定するのが常識的です。でも現場にいると、意思決定することの難しさ、怖さを痛感します。いつか来るその日に備えて、死のことを考えるのは重要なことだと改めて感じました。

ほしの・がいねん

精神科医。音楽活動もさまざまに行う。いとうせいこうとの共著『ラブという薬』が発売中。

編集/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS887号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は887号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.887
平凡ブルータス(2019.02.15発行)

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