アート

女の偉大さ、そしていま写真集を世に出すことについて。

BRUTUSCOPE

No. 887(2019.02.15発行)
平凡ブルータス
北尾修一(左) 相澤義和(右)

長年勤めた出版社から独立し、ひとり出版社を立ち上げた編集者、北尾修一。百万年書房という名の版元の新刊は、Instagram上で多くの女性たちの支持を集める写真家、相澤義和初の作品集だ。

相澤義和 
初めてお会いしたのは、昨年10月に開いた僕の個展でしたね。
北尾修一 
相澤さんのことを知ったのも、それが初めてでした。たまたま教えてもらって立ち寄ったら、作品が素晴らしいのはもちろん、女性のお客さんがたくさんいるのに驚いた。撮影したのはどんな人かなって話しかけてみたら、相澤さんがキラキラした目をされていて。
相澤 
僕はもともと写真集を作ることに強い執着心がなかったんです。でも、北尾さんからキラキラした目で言われたものだから(笑)。
北尾 
それで、別に機会を設けてお話しさせていただいたのでした。そしたら「写真集を作るとなったら、なるべく僕の世界を壊してほしい」とおっしゃっていただいた。
相澤 
撮影をするときも、僕はできるだけ女の子が行きたいところで撮影するようにしているんです。撮るのも小さなデジカメだけで、自分のエゴを意図的に消していきたい。
北尾 
撮影現場での相澤さんは、どんな感じなんですか?
相澤 
大事にしているのは、会話すること。これまでの恋愛だったり仕事の愚痴やつらかったことだったりを話してコミュニケーションをとっているうちにほぐれていくんでしょうね。その間の心の変化を眺めてただ撮っているだけです。僕は撮ったあとで写真に物語を見つけていくだけだし、写真を見る人も自由に解釈してくれればいい。だから写真集を作るなら、北尾さんやデザイナーさんがごちゃ混ぜにしてくれたら楽しいなって思ったんです。
北尾 
『愛情観察』というタイトルにすら、相澤さんのエゴはありませんでしたね。
相澤 
僕の友人の女性が、いくつかタイトル案を出してくれたんですよね。「相澤さんといえば、こういうことでしょう」って。
北尾 
本を作るときって、タイトルと帯は編集者が考えるもの。でも、今回は、女性の力を最大限借りようって思ったんです。それもまた相澤さんの本らしいというか。
相澤 
特に僕は“女の子ありき”だから。撮影のときも、動きの指示はほぼしません。表紙になった写真は、ラブホテルの鏡の前で撮っているんですけど、僕が撮っているというのに女の子は自分の美しさに酔っちゃってて(笑)。
北尾 
ほんとにいい写真です。
相澤 
まったくこちらを意識していない、女の子の自己陶酔の姿が、好きなんですよね。愛の概念は人それぞれですが、この本をじっくり読み込んでなんとなく一つの愛のあり方を感じてもらえたらいいなと思っています。
北尾 
写真集は売れないって、みんな言うんですが、僕はそれは嘘だと思っているんです。大判でハードカバーで気合を入れないと読めないフォーマットがいまの時代に合っていないだけ。写真はみんな好きだし、この小さなサイズでこのページ数でやれば絶対に売れるって証明したいんです。持ち歩いて読み倒してもらうような写真集になればいいなって。
相澤 
そうですね。
北尾 
実際に売れるかどうかはこれからですが、書店からの評判は高いですね。
相澤 
書店さんも、こういう形の写真集を待っていたんじゃないですかね。
北尾 
いま、内容が風化しない本しか作りたくないんですよ。誰かの人気にぶら下がるのではなく、より普遍的なテーマに棹させば、ひとりでやっている小さな版元ならちゃんと回転するはず。ドカンと売れたりはしないかもしれませんけれど。
相澤 
ドカンは、ないでしょうね(笑)。
北尾 
でも、長く読まれる作品集になったとは思っています。僕の版元から最初に出した『ブッダボウルの本』は、料理の本です。ものを食べない人はいないし、どこの国の家族もご飯は食べるから翻訳すれば世界中で役に立つ。もう一冊はお金の本ですが、お金もそう。『愛情観察』も一緒で、愛の本。老若男女、愛に関係のない人はいない。
相澤 
やっぱり愛、ですね。
北尾 
編集者のエゴとしては、「愛情」ってそのものずばりな言葉を使わずにどう表現できるかって考えていたんですけれど、タイトルを考えてくれた女性からは「こねくり回さなくていいんじゃない」って言われた気がして。参りましたって思いましたよ。
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『愛情観察』

Instagram上で支持されるも、これまで6度アカウントを凍結された写真家相澤義和の初作品集。「なんでこんなにエロくてセクシーなのにちゃんと女の子が可愛いんだろ」「自分は好きじゃないけど相澤さんが撮る私は好き」と、被写体である女性から愛される相澤が撮りためたスナップのうち、この2年間の作品を中心にまとめられている。240ページ、小B6判。百万年書房/1,850円。

きたお・しゅういち

1968年京都府生まれ。24年間在籍した太田出版では、雑誌『Quick JAPAN』『hon-nin』編集長を務めたほか、『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(坂口恭平著)などの書籍を手がける。2017年に独立、個人出版社万年書房を立ち上げた。

あいざわ・よしかず

1971年東京都生まれ。四谷スタジオ(現スタジオD21)でのスタジオアシスタントを経て、2000年からフリーランスカメラマンとして独立。フランスで発行された『Proof of LIFE』をはじめ、海外でのZINE発行はあるものの、写真集としては今作『愛情観察』が初の作品集となる。

photo/
Kaori Oouchi
text/
Sota Toshiyoshi

本記事は雑誌BRUTUS887号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は887号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.887
平凡ブルータス(2019.02.15発行)

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