せろ/鶏と野菜 つむぎ

グルマン温故知新

No. 886(2019.02.01発行)
死ぬまでにこの目で見たい日本の絵100

出会いの聖地でキャラ立ちした大人向けカウンター和食。

有楽町から新橋に続く高架下一帯のコリドー街は、今やナンパの新名所(?)。界隈のお盛んムードを横目に、袋小路にひっそり看板を掲げた和食店。一方は、コリドー時代の常連に支えられ新富町に新規オープン。場所柄をわきまえる大人のために推薦したき2軒。

せろ/銀座

メルボルン仕込みのアレンジが冴える新和食。

 思い描いたのは「10席前後の2人でやれる店」。縁あってコリドー街の袋小路に自店を構えるも、店主の伊藤憲二さんは「このエリアで遊ぶような若い人はうちの店には来ないと思って(笑)。当初は看板を出すつもりもなかった」と無欲なマインドの持ち主。海外志向が強く、メルボルンのモダン・オーストラリア料理〈タクシー・ダイニング・ルーム〉で経験を重ね、帰国。人気店〈可不可〉で腕を磨き、オープンに至った次第だ。20代までコテコテの和食で腕を磨いただけに、和に軸足を置きつつ、海の向こうで体得した洋のアレンジがこの店らしい。例えば、新鮮なアイナメの刺し身には、昆布と太白ゴマ油を合わせたソースを。白イカの炊き込みご飯なら、フィッシュストックのだしを効かせて、という具合。その逆で、蝦夷鹿のローストはフレンチのように見えてどこか和テイストだから面白い。ベテランらしい引き出しの多さに深掘りしたくもなる。

白イカの炊き込みご飯

「看板に和食と謳っている以上、締めには炊きたてのご飯と味噌汁をお出ししないと」と、伊藤さん。白イカは肝ソースで炒めてから、コシヒカリと黒米をブレンドした炊きたてのご飯にトッピング。アクセントにたっぷりの大葉を添えて(写真は3人前)。以下、料理はすべて7品7,560円のおまかせから。

アイナメのお刺身

三陸産のアイナメは身が締まって甘味も強い。「醤油以外にもおいしい食べ方がある」と、伊藤さん。太白ゴマ油に刻んだ昆布を1晩漬け込み、和風のソースを仕立てて添える。クレソンとカブの浅漬けが、いい箸休め。

蝦夷鹿のロースト

ロゼに火入れした蝦夷鹿を際立たせるのは、国産のマデラワインとバニラを煮詰めた香り立つソース。付け合わせの野菜は、白ネギのフリットオーガニックのケール。見た目は洋でも和食の素材感と軽さがある肉料理

岐阜県出身。大阪・京都の和食で研鑽を積んだ伊藤さん。

鶏と野菜 つむぎ/新富町

お通し前菜で名物と日本酒をとことんまで。

 屋号に謳うように、強みは鶏と野菜。大山どりと、鹿児島から直送される刺し身でいけるほど鮮度抜群の薩摩知覧鶏。全国の契約農家から仕入れる採れたての有機・無農薬野菜は旬の旨さをシンプルに、といった趣向。メニューはコースをメインにアラカルトも充実。八寸をイメージしたお通し前菜は22時まで「問答無用」で提供中。甘味、酸味、辛味、だしの旨味をバランスよく織り交ぜ、つまみに好都合。締めには炊きたて土鍋御飯も外せない。日本酒は常時30~40種類をラインナップし、「主流は華やかすぎず、味で引っ張る地味な酒。体に楽な燗酒も多いですね。量を飲みたい人も種類を飲みたい人にも応えます」とは、店主の北澤善弘さん。極太の2本柱がありながら、山形牛、ラムや蝦夷鹿の炭火焼きもひそかに人気とか。「4人で800gの塊肉で」なんて強者の胃袋にも難なく応えてくれる。常連の6割はコリドー時代からの付き合いとか。愛されてる。

お通し前菜

上から時計回りに、ひかりレンコンのきんぴら、セリと大山どりの七味和え、聖護院大根のふろふき、かぶのもも助、ひたし豆、やげん軟骨の南蛮漬け、金時にんじんと白菜の松前漬け、バターナッツかぼちゃとりんごのラぺ。一皿で十分満足できる内容。1,500円。22時以降は4品の軽いお通し(800円)も。

あったか鶏豆腐

北澤さんが惚れ込む某大衆割烹の鶏豆腐をお手本に、塩味の優しい味わいにアレンジ。食感が軟らかく旨味のある大山どりを使用。クタッとしながら歯触りの良い白ネギ、味の染みた豆腐の旨さに心まで温まる。980円。

鳥刺し盛り合わせ

左上から時計回りに、砂肝とエンガワ、ササミ、モモ肉のたたき、胸肉の昆布締め、中央は白レバー。日によってレバーやハツ、モモ肉に、漬けなど一手間かけた品も。入荷次第で部位は変更。1,980円(写真は2人前)。

農家とのつながりも太く、蔵元からの信頼も厚い店主の北澤さん。ワインも強い。

せろ

電話:03・3572・5520
営業時間:17時30分〜23時30分。
席数 :カウンター11席、テーブル2席。
価格:アラカルト中心、7,560円のおまかせコース。生ビール756円、日本酒864円~、ワイングラス1,080円~。

東京都中央区銀座7−2−20 銀座第一金井ビル2F A室。日曜・祝日休。交通:東京メトロ銀座駅C2番出口から徒歩3分。

2018年11月19日オープン。メニューは冷菜、温菜、肉、ご飯、チーズのアラカルトがメイン。料理はすべて2人分のポーションで、シェアするスタイル。アラカルトをコース仕立てにしたおまかせ7品7,560円もあり。日本酒のほか、ニューワールドの自然派ワインも充実。

鶏と野菜 つむぎ

電話:03・6280・5211
営業時間:18時〜終了時間はお問い合わせを。
席数 :カウンター7席、テーブル10席。
価格:コース3,800円・5,000円。アラカルトも充実。サ5%。ビール680円、焼酎・果実酒600円、日本酒グラス90㎖490円~。

東京都中央区新富1−9−5。不定休。交通:東京メトロ新富町駅3番出口から徒歩3分。

2018年11月23日オープン。メニューはコース主体にアラカルトで、前菜、鳥刺し、サラダ、炭火焼き、揚げ物、一品、酒の肴、お食事、甘味を用意。レバ刺しなど鳥刺しは数量限定。北澤さんが「あくまで趣味の範囲」と語るワインは、ボトルのみでナチュールが中心。白ワイン6,000円~、赤ワイン8,000円~。

粂 真美子

photo/
Kanako Nakamura

本記事は雑誌BRUTUS886号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は886号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.886
死ぬまでにこの目で見たい日本の絵100(2019.02.01発行)

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