エンターテインメント

ネオ漫画家・横山裕一が、今一番描きたいもの。

BRUTUSCOPE

No. 886(2019.02.01発行)
死ぬまでにこの目で見たい日本の絵100

物語もなくセリフもなく、祝祭の瞬間だけがある。天才が挑んだ新作『プラザ』がついに完成!

アートの世界に身を置き、唯一無二の"ネオ漫画"を生み出し続ける横山裕一さん。3年半をかけた最新作は、喧騒と熱狂が充満し、物語に辿り着くことなく進む二百数十ページ。この漫画で、作家は何を描き、何を表現するのか?

「10年くらい前かな、小学校の横を歩いていたら子供たちが校庭で遊んでいたんです。運動会とかではなくて普通の昼休みで、規則性も何もないまま、砂埃を立ててたくさんの子供が駆け回っている。それを見て、人がいっぱい遊んでいる漫画を描こう、ピーター・ブリューゲルの『子供の遊び』みたいな作品を描こうと思いついたのが最初の最初です。この作品は5部構成の第2部にあたる部分で、なかでも一番描きたかった話です。話とはいってもストーリーもセリフもなく、大勢の人が出てきて"行為"を延々繰り広げていく。そんな内容の漫画です。登場人物たちは旅行にも行かないしキャンプもしない。舞台もずっと同じで、画面の左から右へ、ベルトコンベアーのように動いていく壇上でひたすら演目が続き、観客がそれを見て熱狂している。作品の始まりになるコマも存在しません。これまでに描いた漫画、例えば『トラベル』ならば、48ページの列車を俯瞰したコマがスタート地点で、その前はどうだったか、後がどうなったかという"時間"を描いている。でも『プラザ』では、始まりも終わりもなく、ただただ頭の中にあった全体感を描いています。変な格好をした人たちが踊って歌って、巨大なアイテムがいっぱい出てきて、それを賛美し興奮するブラジルのお祭りみたいなイメージ。あれをなんのためにやってるのか、僕にはわからないんだけど、あのノリを描いてみたかったんです」

熱狂を描きたいと願うその一方で、描かれる絵は"クール"とも"無機質"とも評される、不思議な温度を保っている。これらの絵はどうやって生み出されるのだろうか。

「定規とテンプレートを200本持っていて、それを使い分けて描いています。フリーハンドで描く部分はすごく少ないですね。フリーハンドで描いた線には、よくも悪くもその人らしさが出てしまうので、それを消したいんです。定規とテンプレートを使うことで、絵が、変にクールに、これ本当に人間が描いてるんだろうか? と思われるような冷たいものになっていく。僕はその方が落ち着くんですね。登場人物の顔を描くときは人別帳を使います。1万種類くらいあるのかな、顔をいっぱい描いて溜めてあるものがあって。そこから、さぁどれにしよう? と選んでいくんです。ぴったりくるものがないと場面に合わせて新しく描き加えるので、また人別帳が増えていく。そんなふうに絵を描いています。絵画と違って、漫画を描いている間って喜びは何もないんですよ。でもその代わり、終わりの喜びがある。100ページ描いたら100ページ分の、約束された喜びと達成感と、なんていうのかな、収穫があるんです。僕の本なんて全然売れないですけど、それでも何千人かが見て、世界にも発表できる。本になったものを見てニンマリしたり、読んでる人に"面白い?"と尋ねることもできる。ただね、いったん描き始めると何年もそれにかかりきりになるので、変な方向へ行っちゃうと長い時間を無駄にしちゃうし、本の形にできないなら意味がない。何でもかんでも好きなものを描けるかっていうとそうでもなくて、そもそも試したことがないことを試さなければならないので、次に何を描くべきかについては、どうしても慎重になってしまいます。僕ももう50代なんで、これから好きなことをやれる時間がどれだけ残ってるのかっていう不安感もある。その中で確実なことに時間を使っていかないといけないと思っていて、それが僕にとっては漫画を描くことなんですね」

今後の出版や展覧会の予定は?

「『プラザ』の刊行に合わせて、パールブックショップ&ギャラリーで個展が開催されます。あとは万葉集を漫画にした『ネオ万葉』を描いています。『天才バカボン』や葛飾北斎をオマージュした作品や、小説を漫画にした新作と一緒にして、2〜3年後には本にしたい。それともう一つ、あちこちの漫画で使わなかった絵をコラージュして、別の漫画を作っています。パーツを組み合わせていくと、自分が普通に描いたらこうはならないっていう顔が現れてくるのがすごく面白いんですよ。こっちは絵を描く必要がほとんどないので、数ヵ月後には完成するんじゃないかな。『燃える音』というタイトルで、ハードカバーの絵本みたいにしたいと思っています」

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『プラザ』

フランスをはじめ、欧米各地でも絶大な人気を誇る"ネオ漫画家"の3年ぶりの新作が完成。広場に設置された舞台の上で大勢が舞い、跳ね、観客が熱狂する空間は、ブラジルの祭りからの発案。宇宙の起源、アニミズム、神々、奉納などを思わせる、圧倒的な祝祭の空間を描く。ブックデザインは服部一成、佐藤豊。2月下旬発売予定。888ブックス/2,200円。

「プラザ PLAZA」出版記念 横山裕一展

2月9日〜24日、パールブックショップ&ギャラリー(東京都渋谷区西原2−26−5)で横山裕一展を開催。横山裕一の漫画作品の特徴の一つにして、『プラザ』ではすべてのコマに書き込まれたという"擬音"に着目し、作家が書き溜めてきた擬音の短冊を一挙展示する。その他、シルクスクリーン作品や『ISI PRESS vol.3 Yuichi Yokoyama』関連作品の展示も。『プラザ』の先行販売に加え、初日は作家も在廊する。2月中旬からは、ナディッフアパート(東京都渋谷区恵比寿1−18−4)で「横山裕一×NADiffオリジナルトートバッグ」も発売予定。

横山裕一

よこやま・ゆういち/1967年宮崎県生まれ。武蔵野美術大学で油絵を学ぶ。2000年から漫画作品の制作をスタート。『ニュー土木』『トラベル』『アウトドアー』『ファッションと密室』『アイスランド』などこれまでに国内では10点の漫画作品を発表。フランス、アメリカ、ロシアなどでも刊行が続く。国内外での展覧会も数多い。

photo/
Paul Barbera from Where They Create/Japan book
edit&text/
Hikari Torisawa

本記事は雑誌BRUTUS886号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は886号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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