映画書籍・読書

フランケンの花嫁、 ランチェスター自伝。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 885(2019.01.12発行)
おいしいコーヒーの教科書2019
『Herself』(Chicago Review Press/2018)

エル・ファニング主演の『メアリーの総て』は、『フランケンシュタイン』を書いたメアリー・シェリーの文化周辺をくまなくさぐり脚本に生かした、まさに邦題通りの映画となっていた。特に父親が経営していた、当時の文化センター=書店の山積みされた書籍のたたずまいにはうっとりするばかりだ。

200年経っても舞台化、映画化を含め、いろいろな試みがなされているが、ブームの思わぬ余波が一人の女優の自伝の復刊にも及び、そのことがなにより嬉しい。何かというと、エルザ・ランチェスター『Herself』(Chicago Review Press/2018)である。

ランチェスターは、古典的傑作『フランケンシュタインの花嫁』(1935)で、メアリー・シェリー自身を演じ、次に怪物ご所望の花嫁を演じた女優である。花嫁のメイク、特にエレクトリック・ヘアのデザインが、彼女を、そして映画を不滅にした。それにしても、作者メアリーと彼女が産み出したフランケンシュタインの怪物のその花嫁を同じ女優に演じさせるという大胆な試みは、深く心理的であり、監督のジェームズ・ホエールのインテリジェンスと上質の変態性が感じられる。

ランチェスターを有名にしたのは、この映画ばかりではない。夫で超名優のチャールズ・ロートン(監督作として『狩人の夜』が有名)との偽装結婚(ロートンはゲイで……)が、死後いろいろとりざたされたことにもよる。しかし、自伝を読むと2人は完璧にクリエイティブなパートナーであり、彼女はまさしく、20世紀が生んだ〈新しい女性〉そのものであったことがわかるのである。

驚くのは、幼いころから、彼女は当時、イギリスを席巻していた女権運動のデモに連れられて参加し、デモ隊が受ける暴力そのほかを目の当たりにしている。彼女は極めて明敏、なかでもすぐれたダンス能力を認められて、パリのイサドラ・ダンカン・スクールに選抜され、遊学する。12歳だ。裸足で踊る、フリー・フォーム・ダンサーのイサドラの生徒という境遇がランチェスターを自由にしたことは事実であろう。有名人が彼女の周辺にはあふれ、その記述にもセンスがある。

たきもと・まこと/東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS885号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は885号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.885
おいしいコーヒーの教科書2019(2019.01.12発行)

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