人生仕事

お前も侍の子じゃけん、覚悟せい。| 松本零士

TOKYO80s

No. 885(2019.01.12発行)
おいしいコーヒーの教科書2019

松本零士(第一回/全四回)

私は福岡の久留米生まれの小倉育ち。父親は大刀洗の飛行第四戦隊の勤務で、陸軍航空隊の飛行機乗りでした。幼少期に明石に越して、そこに昭和18(1943)年まで。先祖の家が愛媛県の大洲市新谷にあって、19年から疎開しました。連日連夜B29の大編隊が宇和島の方から頭上を通って広島の方へ。原爆機も頭上を通ったはずです。機銃掃射を受けて爆弾を落とされる、空襲警報も味わいました。終戦の日は川で泳いでいて、「戦争が終わったぞ~」と、おっさんがメガホンを持って走っていきました。家に帰ると家中の雨戸が閉め切ってあって。ばあさんが先祖代々の刀、槍、薙刀を置いて、打ち粉を打って磨いてるんですよ。「敵が来たら刺し違えて死ぬのじゃ。お前も侍の子じゃけん、覚悟せい」。私は7歳でした。戦いが終わっても親父が行方不明で、2年半経ったら抑留から帰ってきました。山の上でしばらく炭焼きをして暮らして、親族がいた北九州に移りました。そういう歴史を体験していると、自分にとっては資料になるわけですよ。小倉に行くと進駐軍の管轄で、負けるとどうなるのかを嫌というほど見ました。朝日新聞西部本社の前に住んでたんです。ボロ長屋にね。父親が公職追放されて、GHQに何度も調べられてね。それで極貧に落ちたんですが、小倉は映画館が31館もあれば劇場もある。古本屋もいっぱいあった。(松本)清張さんが行ってる古本屋に行くと、H・G・ウェルズの『生命の科学』や京都産業大学創設者荒木俊馬博士の『大宇宙の旅』という宇宙の総概念を書いた漫画があった。光の女神が少年を連れて宇宙を旅する話で、挿絵とともに宇宙の歴史が書いてある。そういう本に巡り合えた。小学校3、4年の頃ですね。学校の引率で『風と共に去りぬ』や『宮本武蔵』など、映画もいっぱい観ましたね。あと、占領軍がね、アメリカン・コミックスを読んでは捨てていくんです。ディズニーポパイ、スーパーマン、スパイダーマン、バットマン。それをおばちゃんが拾って売ってるんです。5円、10円で。占領軍のものは売ってはならないというので、タイトルをちぎってあるのが5円。「10円のはないね?」と聞くと座ってる箱の下から完全なものが出てくる。それが10円。それをいっぱい買いました。でも読みたいけど英語でしょ、だから辞書との闘いで、英語だけはわかるようになったんですよ。(続く)

まつもと・れいじ/1938年生まれ。漫画家。代表作に『銀河鉄道999』など。

第1回第2回第3回第4回

PHOTO/
SHINGO WAKAGI
TEXT/
KUNICHI NOMURA
EDIT/
HITOSHI MATSUO

本記事は雑誌BRUTUS885号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は885号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.885
おいしいコーヒーの教科書2019(2019.01.12発行)

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