エンターテインメント

演出について、キャラクターについて。師弟だからこそ話せること。

BRUTUSCOPE

No. 885(2019.01.12発行)
おいしいコーヒーの教科書2019
広瀬奈々子(左)西川美和(右)

是枝裕和、西川美和らが中心の制作者集団〈分福〉から輩出する新人監督、その第1作が公開。

是枝裕和や西川美和の映画作りに、最も間近なところで関わってきた広瀬奈々子の長編初監督作『夜明け』。新人監督がそこで、主演の柳楽優弥らとの間に築いた信頼関係とは? “師弟”が語った。

西川美和 
音楽がとてもよかったね。寡黙ながらも、この映画世界観をよく表していて。
広瀬奈々子 
ありがとうございます。主人公はネガティブなキャラクターなんですけど、タラ・ジェイン・オニールさんの音楽がそれを肯定するような役割を果たしてくれて、すごく救われました。
西川 
音楽の効果もあって、少し無国籍なテイストがあるでしょう? 撮影は、奈々ちゃんが好きな監督として挙げていたダルデンヌ兄弟みたいに、自然光をうまく使ってるよね。住宅とか木工所とか、なんてことのない建物の中が湿っぽかったり、色っぽかったりして、味わい深く撮れているなと思った。演出に関しては何が大変だった?
広瀬 
大勢のシーンだと全員を見ることができなくて、もちろんキャストを信じればいいんでしょうけど、そういう時、安心してお芝居してもらうためにはどうすればいいんだろうって。あれ、西川さんは現場でどうしてたかなって思いました。いつも丁寧に、言葉を尽くして演出されてるじゃないですか。
西川 
私はあの手この手でしゃべるけど、奈々ちゃんは時間をかけながら、その人間性をスタッフやキャストに信頼していってもらったんじゃないかな。みんなが助け船を出してくれたでしょう?
広瀬 
ほんとそうなんです。みんながいろいろアイデアを出してくださって、一緒に作っていったような気がします。
西川
愛すべき不器用さというか、そこを自然と汲んでくれたんでしょうね。そういった点はこの主人公そのものなんですよ。一つ一つが奈々ちゃんに本当に似ていて。言われるんじゃない?
広瀬 
私をよく知ってる人には、「あの表情はお前だ」とか言われます(笑)。
西川 
柳楽くん、すごいよね。まるで生き写しだもん(笑)。この主人公はつかみどころのないキャラクターで、彼が何をしたいのか、なぜそういう行動をとるのか、なかなか見えてこないんです。そこはシナリオの段階から、私や是枝さんが突っ込んでいたところで。でも奈々ちゃんは、何がしたいのか自分でもわからなくてもがいているキャラクターなんだって言って、それを貫いたんですよね。
広瀬 
おっしゃるようにいつも受け身で、人に何か言われてもそのまま吸収してしまうようなキャラクターなので、私も初めはつかみどころがなかったんです。でも柳楽さんをキャスティングしたことによって動きだして。この不安定なキャラクターをどうすればもっとリアルなものにできるのか、一対一で話した結果、柳楽さんにはリアクションに徹してもらうことにして、まわりの登場人物を動かして圧をかけて、そこからお芝居をしてもらうことにしました。それで立体的になっていって。
西川 
監督がその不明瞭さを守り抜いて、俳優もそのうやむやさを演じ切った。それがこの作品で2人の行き着いた場所なんだろうな。自分でも思わなかったところに俳優のおかげで行き着くことができて、それが自分でも納得できるものだったらいちばんいいよね。
広瀬 
そうですよね。例えば主人公が携帯電話をぶち壊すシーンがあるんですけど、柳楽さんから全然圧が足りないって言われたので、じゃあもっと揺さぶりをかけようって。そういうやり方が今回はうまくはまったなと思います。
西川 
面白いね。違和感があっても、それは言ったらいけないと思ってるのか、俳優は案外言ってくれないじゃない? でも言ってくれる人がいると、演出がよりよくなるんだ。いい俳優だね。
広瀬 
何でも言ってくださいとは言ったんですけど、柳楽さんが私を信頼してくれて、裸になってやってくれたんです。
西川
普通は現場にそういった緊張感があると、監督は苦しいものなんです。それなのに奈々ちゃんは、毎晩みんなで飲み歩いてたんだよね?
広瀬 
毎晩じゃないですよ(笑)。
西川 
いや、ほぼ毎晩だって聞いた(笑)。あり得ない。心臓に毛が生えてるんじゃないかと思ったよ。
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『夜明け』

監督:広瀬奈々子/出演:柳楽優弥、小林薫/地方都市で木工所を営む男(小林)と、彼に助けられた謎の青年(柳楽)。過去に挫折し、苦悩を抱えた2人が少しずつ前へ進んでいく姿を、広瀬監督がオリジナル脚本によって嘘なく誠実に描き出す。主演の柳楽をはじめ、YOUNG DAISらのキャスティングもいい。1月18日、新宿ピカデリーほかで全国公開。©2019「夜明け」製作委員会

にしかわ・みわ

1974年広島県生まれ。2002年『蛇イチゴ』で監督デビュー。監督として『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』『永い言い訳』を手がける。また小説『きのうの神さま』『永い言い訳』が直木賞候補となった。エッセイ集『遠きにありて』が現在発売中。

ひろせ・ななこ

1987年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、2011年から制作者集団〈分福〉に所属。是枝裕和監督のもとで監督助手を務め、『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』、西川美和監督作『永い言い訳』などに参加。本作で映画監督デビュー。

photo/
Tomoo Ogawa
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS885号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は885号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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おいしいコーヒーの教科書2019(2019.01.12発行)

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