アート

表現せずには生きられない人たち。日本のアウトサイダー・アートの現在を知る。

BRUTUSCOPE

No. 885(2019.01.12発行)
おいしいコーヒーの教科書2019

アウトサイダー・キュレーターの櫛野展正が発掘した知られざる表現者たちが一堂に会する、2つの展覧会が開催。

美術教育を受けていない人の創作を指すアウトサイダー・アートだが、日本では、とかく障害のある人の表現活動として誤解されがちだ。しかし、既存の美術領域の外側には、死刑囚やヤンキー、路上生活者といった周縁の人々から、そういった社会的背景を抜きにしても、どうしても作らずにはいられない表現者たちがいる。その裾野を広げ、障害の有無にかかわらず、全国各地へ足を延ばしてアーティストを発掘、紹介してきたのが、アウトサイダー・キュレーターの櫛野展正だ。

「障害のある人の作品にスポットが当たる割合が多い日本では、障害がアウトサイダー・アートの条件と勘違いしている人も多数です。僕は2000年から福祉施設で知的障害者のサポートをしながら彼らの作品を世に紹介してきた一方で、地域で何か変なものを作っているような人たちが全く評価もされていない、ましてやアートの枠組みにすら入っていないことに違和感を覚え、彼らを訪ね始めました。発表の意志もあまりなく、地位や名誉とも関係ないところで創作活動をする人、人生の大半をかけて一見無駄とも思えることに取り組んでいる人に僕は惹かれてしまう。彼らはなぜ表現するのか。それが知りたくて今も取材を重ねています。だから障害があってコミュニケーションが取れない人にも、なぜ作るのか、その家族や支援者の方に必ず話を聞くようにしています」

そうして2011年末から全国各地で取材したのは、300人以上。昨年秋には、そのなかから135人を収録した書籍を上梓。今年、広島東京で、彼らの作品を紹介する2つの展覧会を開催する。

「僕がアウトサイダー・アーティストとして紹介している人には、戦争、震災、離婚など、人生において逃れることのできない何かしらの苦しみのようなものを経験している人も多くいます。もちろん、そういった辛さが原因で引きこもってしまう場合もありますが、彼らは作ることによって人生を転換させてきた。そこで表現する選択をしたことに、人間としての豊かさを感じます。人生を捧げるほど何かに熱中している彼らの存在が、作品を観る観客である僕らの背中を押してくれることもあると思うんです。何かしらやりたいことを探しているような人も、こういうやり方をすれば自分も自己表現できるかもしれないという、その手段やヒントを得られるかもしれません」

彼は今もさまざまな美術の枠組みを超えて、あるべきフラットな視点で、作らずには生きられない、根源的ともいえるアートを開拓し続けている。活動を通して伝えたいことはほかにもある。

「僕が紹介している人たちは、今現在、一時的に、美術の分野では外側にある、アウトサイダー・アートの枠組みにいます。でも僕は、これこそがアウトサイドではなく、美術の王道ではないかと考えている。それは決して大袈裟なことではなく、こういう人たちの表現を紹介していくことで、美術そのものを変えていきたいなと思っています」

まだまだ知られざるアウトサイダー・アートがある! 展示アーティストのほんの一部をキュレーターの櫛野展正が紹介。

遠藤文裕

「3年以上前から僕の追っかけをしている遠藤さんは、福岡市内のディスカウントストアに勤務するサラリーマン。小学校の学級新聞がきっかけで、彼の生活は僕の観察日記とともに日々ノートにスクラップされています。今回は絵巻物として自らの年表も制作展示。遠藤さんの尋常でない人生を観ていただきたい」

小林一緒

「アルコール性神経炎で歩行困難となり、ベッドの上で生活するなか、18歳以降に食べたものを26歳から記憶とメモを頼りに描いています。彼は元料理人。僕らなら描かずに写真を撮って済ませると思うんですが、食への愛から、重なって見えない具材が一つもないように、すべて真俯瞰の絵にして記録しているんです」

スギノイチヲ

「実は、僕のギャラリーの裏のデザイン会社の常務取締役という偉い人。特殊な家庭環境を経験していますが、ある時に扮装して自撮りをしたことですごい快感を覚えてしまい、Instagramを発表のツールとして承認欲求を満たしています。最近はリクエストに応じて扮装したりも。展覧会では新作を発表してくれます」

創作仮面館

「僕の前著書では、天涯孤独で俗世間から離れた生活をしていて、その正体を誰も知らない謎に満ちた仮面職人として紹介しました。新刊では、昨年の5月に癌で亡くなられたことをきっかけに新しく知り得た彼の秘密を暴露していますが、まだまだ謎に満ちた制作によって、世界的な評価もますます高まると思います」

辻 修平

「彼が東京の竹ノ塚で経営する〈あさくら画廊〉は、祖母の亡き家を勝手にピンクだらけに改装した場所。これまで勤務経験もなく、なぜ描くのか、今後どうするのかもわからず、とにかく描き続けている。家全体を作品として6,000万円で販売中ですが、もちろん売れていません。ただ好きだから描く姿がすごく面白い」

富松義孝

「久留米市民の約7割は知っているであろう、通称"カラフルおじさん"。離婚を機に、10年以上前から古着や自転車に自らカラフルなペイントを施して纏い、街を練り歩いています。街行く人に褒められて、これまでほかの人に寄贈した自転車は7台以上。僕がもらってお披露目の機会がなかった現物も展示されます」

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『アウトサイド・ジャパン展』

近著『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート』(1,800円/イースト・プレス)の刊行を記念した展覧会が開催。〜2月24日、広島県福山市の〈クシノテラス〉で13組の作品を展示するのを皮切りに、4月12日〜5月19日、東京・水道橋の〈Gallery AaMo〉では書籍掲載された大多数の作品を展示予定。イベントも。詳細・最新情報は、http://kushiterra.com/へ。

櫛野展正

くしの・のぶまさ/1976年生まれ。2000年より知的障害者福祉施設で働きながら広島県福山市〈鞆の津ミュージアム〉でキュレーションを担当。16年に独立し〈クシノテラス〉をオープン。都築響一や水道橋博士のメールマガジン、美術手帖で連載中。ほか著書に『アウトサイドで生きている』。

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Asuka Ochi

本記事は雑誌BRUTUS885号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は885号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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