かつて観たオリジナル版『サスペリア』に強い影響を受ける2人のアーティストが対面。
ルカ・グァダニーノ監督による『サスペリア』は、恐ろしさと美しさを併せ持つ、まるで芸術品のようなホラー映画に仕上がった。本作の日本限定イラストポスターを描いた画家・絵本作家のヒグチユウコが、イタリアの鬼才に聞く。
- ヒグチユウコ
- もともとホラー映画が好きで、幼少期に観たオリジナル版の『サスペリア』が、私の描く少女像のベースになっているんです。強く影響を受けた作品なんですね。
- ルカ・グァダニーノ
- ホラー映画が好きなのは私も同じです。幼少期に観て、影響を受けたというのも。
- ヒグチ
- そのリメイクを大好きなグァダニーノ監督が手がけると聞いて、ずっと楽しみにしていました。素晴らしかったところはいくつもあるんですが……まずはあのフック状の凶器。ホラー映画では、どんな凶器を用いるかがとても大事だと思いますが、今回の凶器には美しさがありました。
- グァダニーノ
- おっしゃる通り、ホラー映画において凶器は中心的な存在です。デヴィッド・クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』で、産婦人科医の用いる凶器がクロースアップになる場面がありますが、そのイメージは今も私の脳裏から離れません。今回の凶器を考えるにあたり、あれこれと悩んで、それは恐ろしいだけでなく美しくて芸術的なものであるべきだと思いました。それで著名なジュエリーデザイナーであるテッド・ミューリングにデザインを依頼したんです。今言ったコンセプトを説明したところ、彼は無限性を象徴するような素晴らしいデザイン画を描いてくれて、あの凶器が出来上がりました。
- ヒグチ
- オリジナルの『サスペリア』は赤の洪水を思わせる世界観でしたが、今回の作品では全体的に色使いを抑えて、要所で赤が際立つようになっています。例えば舞踊団が身につけるロープの赤とか。あれはSMの緊縛を想像させる、とても日本的なものですよね。
- グァダニーノ
- ロープは衣装デザインのジュリア・ピエルサンティが、実際にボンデージのウェブサイトから購入したものです。彼女は今回の登場人物の一人にも着物を着せているので、おそらく日本文化からの影響があったのでしょう。考えてみれば、僕が本作の配色でインスピレーションを得ているバルテュスも、日本文化に大きな関心を抱いていた画家です。実は本作には多少なりとも日本文化の影響があったのかもしれません。
- ヒグチ
- グァダニーノ監督の作品ではいつも俳優が魅力的ですが、今回主人公を演じたダコタ・ジョンソンは、純粋さと妖艶さを醸し出して美しかったです。素の彼女より断然映画の中のほうが美しい。
- グァダニーノ
- 演じている時に美しいのが素晴らしい女優の証しですよ。私がキャスティングで重視しているのは、キャラクターに適していること、そして私が感情的に惹かれること。私が恋に落ちるかどうかが大事なんです。
- ヒグチ
- 舞踊団の面々に扮した年配の女優たちもいいですよね。じっと見て笑う、ただそれだけのシーンがすごく怖い。それはほかのホラー映画にはないような怖さだと思います。舞踊団のダンスも素晴らしかった。
- グァダニーノ
- あれはダミアン・ジャレという優れた振付師の仕事です。僕は偉大なアーティストたちと一緒に仕事をすることが好きなんですね。なぜなら、彼らとの仕事が僕自身を高めてくれるから。ヒグチさんとも、もし可能ならいずれコラボレートしてみたいです。今度連絡してもいいですか?
- ヒグチ
- ぜひ 嬉しいです。

『サスペリア』
監督:ルカ・グァダニーノ/出演:ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン/1977年、ベルリン。世界的な舞踊団への入団を夢見て、アメリカからやってきたスージーは、そこで舞踊団に隠された恐ろしい秘密を目撃する。音楽を手がけるのはトム・ヨーク。映像、音楽、衣装、美術……いずれも鮮烈。1月25日、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。© 2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
ルカ・グァダニーノ
- photo/
- Satoko Imazu
- text/
- Yusuke Monma
本記事は雑誌BRUTUS885号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は885号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。