4人のコーヒーエキスパートが語る。いま買いたいコーヒー豆はこれだ!

COFFEE BEANS BOOK

No. 885(2019.01.12発行)
おいしいコーヒーの教科書2019
加藤健宏(PADDLERS COFFEE バリスタ)、大西正紘(SWITCH COFFEE TOKYO ロースター)、石谷貴之(フリーランスバリスタ)、三木隆真(KOFFEE MAMEYA バリスタ)

スペシャルティコーヒーが普及し、全国の至るところでおいしいコーヒーが飲めるようになった今、次なるステージは、家で飲むコーヒーのクオリティを上げること。買える豆の選択肢が増えている中で、何を基準に豆を選び、どう楽しむべきか。4人のプロフェッショナルが伝授します。

加藤健宏 
今の東京はコーヒーに関して言えば、世界の中でも非常に恵まれた都市ですよね。海外の有名ロースターから国内の小規模なロースターのものまで、バラエティ豊かな豆が手に入る。
三木隆真 
たしかに。原料となる生豆のレベルに関してはどうなのかな? これはロースターの大西さんに聞いてみたい。
大西正紘 
世界で最も高品質な豆が入ってきていると思います。コーヒーの町というと、シアトルやオスロなどが思い浮かぶかもしれないけれど、質のいいものを扱っている店は実は一握りで。ただ、生豆はあくまで原料なので、生かすも殺すも扱う側次第なのですが。
石谷貴之 
焙煎技術は上がっていると思います。酸っぱい、あるいは苦くて豆の味が出ていないという場合、抽出が問題なことが多い。
三木 
酸味や苦味の捉えられ方も、スペシャルティコーヒーの広がりとともに変わってますよね。
大西 
そうなんですよ。エチオピアケニアのいい豆に出やすい酸味やフルーティフレーバーが、サードウェーブ以前のアメリカで飲まれていた苦いコーヒーと対比させやすかったせいです。でも「酸味があってフルーティ」イコール必ずしも「高品質」ではない。実際、ブラジルの高品質な豆などは、酸味が比較的穏やかです。
石谷 
浅煎り信仰も行きすぎた感がありますよね。適切な焼き具合は豆によって違うはずなのに。
大西 
北欧に端を発したライトローストが一大トレンドになり、極端な浅煎りが増えましたよね。でも今では、浅煎りでも適度な火入れが必要というのが共通認識。
加藤 
日本は喫茶店で深煎りの文化があったし、僕らがコーヒーの仕事を始めた2000年代初頭はまだシアトルスタイルが主流だったから、浅煎りに対する拒否反応がすごかったですけどね(笑)。結局、「これが正解」みたいな堅苦しい考えから自由になれた方が、コーヒーを飲む人が増える状況につながる。僕が住んでいたバンクーバーやポートランド、メルボルンでは1日3回カフェに行くのが当たり前だったりするわけで。
大西 
日本人は、1日3回は、来てくれないなあ……。
三木 
1杯500円で、3杯だと1500円。ランチか、へたしたら夕飯も食べられる、とかね。
大西 
でも、カフェに行く頻度は、コーヒー文化の成熟度の一側面でしかないと思う。飲まれてきた歴史や生活リズムも違うから。そして日本の愛飲家の多くは、やっぱり「家飲み派」なんですよね。
三木 
たしかに。コーヒーがブームに終わらず定着した感がある今こそ、僕らはそこに寄り添わないといけないよね。

いいロースターの基準はどこで見分ける?

石谷 
ならば、家で飲むコーヒー用の豆をどう選ぶか、というのが本題ですよね。
三木 
うちの店では、8社のロースターと取引をしていますが、扱う豆の条件は、甘味があり、口当たりがいいものが大前提。プラス、豆そのものやロースターにストーリーがあるもの。例えば〈小川珈琲〉のダテーラ ルダは、ワインのような発酵プロセスを取り入れた、今、話題の豆で、エレガントな香りと奥深い味わいがある。
大西 
朝飲む感じじゃないな(笑)。これ、7500円もするの⁉
加藤 
どんな人が買うんですか⁉
三木 
1杯1400円で提供しているんだけど、ふらりと来店された方が飲んで、豆も買われていくケースは少なくない。ほかの豆との味の違いが明確にわかるから。
石谷 
嗜好品だから、商品スペック以上に「記憶に残る体験ができたか」は大事ですよね。
三木 
もちろん観光客や、ギフトの需要も高いんですが。
石谷 
僕もストーリーは大事だと思う。ロースターなら、どんな人が焙煎したのか、信頼の置ける職人か。その視点で、今回は同世代のロースターの豆を中心に選びました。例えば〈ロクメイコーヒー〉ブエナビスタの代表は『ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ』の2018年の優勝者。今、注目のロースターです。
三木 
ブエナビスタは、適切に火が入っていて、スペシャルティ初心者にも安心して薦められる味。さすがです。
大西 
ユーザー目線で何をもって信頼が置けるロースターと判断できるか、という話になると、パッケージに焙煎日が記載されているか否かは、一つの基準になると思う。あと、ジップ式など密閉できる袋を使っているかも、品質に対する姿勢が表れるところ。もちろん、きちんと密封状態で管理し、販売時に紙袋などに入れてお客様に渡す店もありますが。
石谷 
産地や品種、精製方法などに関する情報を、シンプルかつ明確に出しているかもポイントです。
加藤 
僕は家飲みって、基本ラフでいいと思うんですよね。僕ら世代は、〈スターバックス〉パイクプレイスローストでコーヒー好きになった人も少なくないから、パイクプレイスローストがほっと落ち着く味という人もいるはずだし。
三木 
加藤さんはブレンドも多く挙げてますね。
加藤 
うちでは〈スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ〉ヘアー・ベンダーの豆を扱っていますが、ブレンドもかなり売れるんです。住宅地で、遠方からのコーヒー好きより、地元の常連客が多いからですかね。
大西 
本国ポートランドのように「カフェで1日3回」とは行かなくても、地域の人の「いつもの味」になっているんですね。
三木 
ブレンドも、深煎り同様、スペシャルティが普及する過程で評価が分かれたものの一つ。
大西 
僕はずっと作っていますよ。店ではラテに使っています。「おいしかった」と再訪してくれた人に、同じ味を出したいから。「何が入っているかわからない」と否定的に捉える人もいるけれど、フィロソフィを持ってブレンドを作る、扱うことができるかも、店の信頼を測るポイントな気がします。

「こだわりすぎない」が今の時代の家飲みの極意。

加藤 
ワイン好きな人は、普段のおかずと合わせてゴクゴク飲みたいものと、ちょっとゆっくり味わいたいものを上手に分けて家で楽しんでいるじゃないですか。コーヒーもそうなればいいですよね。
三木 
ですね。冒頭に加藤さんが言ったように、今、日本国内で本当にいろんな豆が楽しめますから。
大西 
買い付けのクオリティでいえば〈丸山珈琲〉(50llbs ECP エクター・ポニージャゲイシャ イエローハニーエスプレッソブレンド 中深煎り)は世界トップレベル。味がわかって、ちゃんとした値段で買ってくれて、価値をきちんと伝えてくれるから、生産者からの信頼が厚い。
加藤 
ドニー発の〈シングルオー〉(ムカングAAウン レガロ デ ディオスエル コンキスタドール)やカリフォルニア発の〈ヴァーヴ コーヒー ロースターズ〉(ヤサール、The 1950)など海外発の新しいブランドも新たにできたし。
大西 
〈シングルオー〉は、国内焙煎だけれど、ちゃんとシドニーの味。「身近なオーストラリア気分」で行って満足できる(笑)。
一同 
ははは。たしかに!
大西 
僕は福岡〈ハニー珈琲〉で修業したので、福岡のロースターを何軒か挙げています。日本の中では東京に次ぐコーヒー先進都市。博多っ子は皆、贔屓のコーヒー店を持っています。
石谷 
続くのは仙台ですかね。先日、三木さんと一緒にセミナーを行ったのですが、熱心なバリスタがたくさん集まってくれた。
三木 
うん。熱を感じたよね。
大西 
〈カフェ バル ミュゼット〉ラス・ハラスがリーダー的役割を担っていますね。
石谷 
産地に目を転じれば、栽培や精製の技術革新は目覚ましく、先のダテーラ ルダのような豆が時差なく国内にも紹介されている。
三木 
品種の研究も進んでいて、例えばこれまで在来種をミックスしたコーヒーが「エチオピア」として売られていたものが、DNA鑑定の結果、品種が特定され、さらに産地、農園ごとの特性も解明されつつある。
石谷 
LA Cabra Coffee Roasters〉のエリアス・ミグはまさにその好例。
大西 
様々なことの根拠が明らかになるということは、どういうことかというと、誰でもおいしいコーヒーが淹れやすくなる。
加藤 
豆そのもののクオリティも上がっているわけで。これはいい流れですよね。
大西 
昔の喫茶店って、マスターが独自のテクニックで究極の一杯、みたいな感じあったじゃない。
三木 
絶対に聞けないやつね(笑)。
大西 
そこで自家焙煎の豆を買って帰って、家で淹れても「やっぱりマスターと同じ味にならないや」で、丸く収まるあの感じ(笑)。
石谷 
それを今は理論で、ある程度まで導けるようになった、と。
大西 
そう。だから通販の場合は別だけれど、店で豆を買ったときには、どう飲むかは店の人に聞くのが一番。それを明快に説明できて、押しつけがましくない(笑)のが、僕が思ういいコーヒー職人。
三木 
あとは飲み切るペースにもよるけれど、できれば豆は店で挽いてあげたい。
大西 
抽出はお好みでいいけれど、グラインダーはある程度の性能のものを持ってないなら、店で挽かせて、って僕も頼んじゃう。味がまったく変わるから。
加藤 
僕は自分が家で飲むのも、店で挽いて帰りますよ(笑)。
三木 
何が悲しいって、張り切って豆を買ったのに、面倒になって飲み切れず捨てられてしまうこと。
大西 
きちんとした豆なら、どう淹れてもおいしい、くらい気楽に構えて、家でいろんな豆を楽しんでほしいです。

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おおにし・まさひろ

メルボルン〈The Premises〉、福岡〈ハニー珈琲〉勤務を経て2013年独立。目黒、代々木で2店を経営。18年『JAPAN Roaster Competition』優勝。

いしたに・たかゆき

2012年よりフリーで活動。バリスタトレーニング、コンサルタント、セミナー等を行う。17年『ジャパンバリスタ チャンピオンシップ』優勝。

みき・たかまさ

コーヒーショップ勤務を経て、2012年〈嗜好品研究所〉に入社。〈OMOTESANDO KOFFEE〉等のヘッドバリスタを務め、2017年より現職。

かとう・たけひろ

国内外でのバリスタを経て、2013年〈STUMPTOWN COFFEE ROASTERS〉の日本唯一の正規取扱店である現店を共同代表の松島大介と開業。

photo/
Keiko Nakajima
text/
Mutsumi Hidaka, Junko Nakahama, Kei Sasaki, Mimi Otahara

本記事は雑誌BRUTUS885号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は885号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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