カフェ

焙煎、ネルドリップ、器、 そしてチョコレート。 一杯に集約する世界観。

ネルドリップ新世代。

No. 885(2019.01.12発行)
おいしいコーヒーの教科書2019
ドリップ中の蕪木さん。1杯に15〜25gの豆を使用。

蕪木(東京・浅草橋)| 店主・蕪木祐介

日本の喫茶文化を受け継ぐ次世代として、コーヒーファンの間で熱を持って語られる〈蕪木〉。コーヒーの焙煎士であり、チョコレート技師である蕪木祐介さんが、2016年秋に開いた店だ。

本日はブレンド・羚羊(かもしか)を。700円。深煎りのエチオピア・ナチュラルの力強さに、インドネシアが重低音を加える。チョコレートはビターな「かもがや」が合う。3片200円。

メニューの軸はコーヒーと自家製チョコレート。深煎りの豆をネルドリップで一滴一滴、丹念に抽出し、名だたる喫茶店が愛用する〈大倉陶園〉のカップ&ソーサーで出す。この器を使うのは、本人いわく「独特の青白い肌がコーヒーを最も美しく見せてくれるから」。苦味の奥に甘さが芽生え、まろやかでいて澄んだ飲み口はネルならではの醍醐味。チョコレートを合わせさらなる味の広がりを堪能するのが、店の流儀だ。

蕪木さんがネルに辿り着いたのは、福岡の〈珈琲美美〉をはじめ自身が影響を受けた店がネルドリップだったから。だが理由はそれだけではない。「ハレの日だけでなく、むしろ沈んだ気分の日に寄り添うコーヒーを出したい」という思いからだ。理想はお客の様々な感情に共鳴する、染み込むような滋味深いコーヒー。それにはペーパーで淹れたクリアな味よりも、ネルによる油分を含んだ艶やかな味わいがふさわしい。

ハンドピックは生豆、焙煎後、抽出前の3度行う。 ブレンドはオリザ(中深煎り)、珀(深煎り)、羚羊(深煎り)。100g 800円〜。

また深煎りを追求する蕪木さんにとって、昨今の“良い豆は浅煎り&ストレートで”という風潮に少し違和感があるという。
「決して浅煎りを否定するわけではないですが、香りのポテンシャルを最大限に楽しむのが浅煎りの良さであれば、深煎りにして初めて出るカラメルのような甘味や旨味、そして彩度の低い落ち着いた印象がある。僕は焙煎でそんな表現をしたいんです」

そしてブレンドにも深い思い入れがある。良質な豆同士を合わせることで、さらに複雑さや奥行きが表現できるという。
「シングルオリジンとブレンドは、いわばソロとトリオの違い。それぞれに良さがあります。ブレンドは、その店が大切にしている意識や思いが見えるものだと思う」

採光を抑えたほの暗い店内に、装飾は安齋賢太氏の花器に活けた花だけ。独特の緊張感が茶室を思わせる。

栗の一枚板のカウンターや重厚感のあるヴィンテージのチェア、ギリギリまで採光を絞ったほの暗さ。すべては目の前の一杯を味わうために店主が熟考し、用意したものだ。世の中には気分がアップする店もあれば、〈蕪木〉のように「お客が息を整える場所」があっていい。ここにはやはり、じんわり染みるネルの味わいが似合うのだ。

かぶき/東京都台東区鳥越1−15−7☎03・5809・3918。13時〜19時30分LO(土・日11時〜)。水曜休。9席。2016年11月オープン。浅草橋駅から徒歩7分。ストレート(モカ2種類)650円〜、ホットチョコレート900円なども。

photo/
Kiyoko Eto
edit&text/
Yoko Fujimori

本記事は雑誌BRUTUS885号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は885号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.885
おいしいコーヒーの教科書2019(2019.01.12発行)

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