“見過ごさない”大人たちは、今、世の中をどう見ているのか?

BRUTUSCOPE

No. 884(2018.12.15発行)
危険な読書

佐久間裕美子が1年間記録し続けた日記を書籍化。親友・岡宗秀吾と語る、声を上げる覚悟。

佐久間裕美子 
岡宗さん、日記は読んでくれていたんだよね?
岡宗秀吾 
もちろん。今も「Sakumag」で書き続けているけど、これってどういう気持ちでやっているの?
佐久間 
日記なんてずっと三日坊主でいたんだよね。でも〈NUMABOOKS〉の内沼晋太郎くんに出版の話をもらった時、トランプ時代に生きていて毎日思うことはあるし、腹が立つことも起きるし。政治で起きていることとリアルな日常を伝えようと思って。岡宗さんは『煩悩ウォーク』を書いてみて、自分の中で違和感はなかった?
岡宗 
『煩悩ウォーク』は体験談が中心だから、人を傷つけないように意識はしたよ。でも笑かしたい気持ちは絶対にあるし。自分の話を表に出すことで抱える痛みみたいなものをどれだけ食らえるかは、覚悟だとは思う。
佐久間 
まだ覚悟は決まらないんだよね。
岡宗 
でも文章にも闘志が出るよね。ちゃんとまだ腹を立てているというか。
佐久間 
そうだね、腹は立ってます。でも難しいよね。腹を立てている文章って、人を遠ざける可能性があるじゃない。みんなももっと怒っていいんだよとも思うけど、私も人の文章を読んで、うわっとなることもあるし。一緒に怒ってくれる相手が欲しいわけだからさ。
岡宗 
わかるよ。でもさ「こういうもんだと思うんですけど、どうですか?」って、世の中がどうなってほしいかを指し示すような話は年上がやらなあかんよね。
佐久間 
そうね。気持ちはクソガキでもね。
岡宗 
いまだに青春だもんね。先生許さねぇぞって怒りから、日本ゆるさねぇぞ、アメリカ許さねぇぞ、あの発言許さねぇぞ、みたいなさ。根本的に気づかない人もいるわけじゃない。
佐久間 
うん。でも、私も日本に住んでいたら気づかなかったかもしれない。私は女性だし、たまたまニューヨークで生活しているからマイノリティでもあって。それに日本以上に政治が自分たちの生活にそのままはね返ってくるから、少なくとも自分の周りの人たちは世の中から目を離したらいかん!って気持ちを持ってる。性暴力やセクシズム、人種差別が今も想像以上に存在することにはショックだけど、そういう環境で生活をしていることは自分にとっては幸運で、それを伝えるのが自分の役目なのかなって。
岡宗 
それが日記にも出ているよね。帯の「ぼくらのものでもあるとその声は語り続ける」ってそういうことだもんね。結局なんやねんってことをビシッと言ってる。
佐久間 
そうなの。若林恵さんが書いてくれて、初めて日記を書く理由を客観視できた。自分事と思ってほしいんです。
岡宗 
普段話をしていて、気づかされる瞬間もあるし。
佐久間 
うん、遊んでる時とかね。ニューヨークにはこういう時代だからこその怒りのパワーというか、偉大な音楽やアートが出てくる面白さもある。もちろん社会が前進することの方が大事だけど、音楽やアート、夜遊びのような快楽も大好きだし、すべて政治や社会とつながっている。いい加減にしろと思うようなこともあるから、微妙なさじ加減なんだけどね。
岡宗 
それが当たり前だと思う。でもその複雑さ、多面さごと愛でる感覚を持っていない人もいるじゃない。善意の中に悪があったり、悪意の中に善があったりもするし、起き続けてしまう問題もあるけど、それは声にすることしか方法がないからさ。
佐久間 
根本は他人の痛みに対する想像力の欠如だよね。でも、全く痛みを持たずに生きられる人も少ないわけで。実は、自分に置き換えるとわかるでしょって。
岡宗 
そうだね。ただ、気づいた人が声にした方がいいよね。この本もそうだけど、世の中に向けて声を上げられる人が背負わなければいけない覚悟なんだと思う。そこに対してちゃんとメッセージを伝えているのは、ゆみ姉のやっていることの中でもすごく大事なことだよね。
『My Little New York Times』

2017年7月5日から1年間書き続けた日記を編集し、まとめた一冊。ドナルド・トランプの大統領就任をきっかけに激動するアメリカ日本、世の中の流れへの思いや怒り、その日常を描く。各記事に関連するニュースのQRコードや1年間のキーワードを選出した索引も記載。NUMABOOKS/1,850円。

「Sakumag」

佐久間裕美子のウェブマガジン。『My Little New York Times』に収録されている日記は2018年7月4日以降「Sakumag」に移行され、現在も毎日更新中。また、500部限定で発刊されたZINE『Kings of BKK』や200冊限定の『My Little New York Times』白色カバー版も購入可能。

佐久間裕美子

さくま・ゆみこ/1973年生まれ。ライター。ニューヨーク在住歴20年。政治経済や社会問題からファッション、ライフスタイルまで幅広いトピックスを執筆。著書『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、ウェブメディア「Sakumag」など。

岡宗秀吾

おかむね・しゅうご/1973年生まれ。テレビディレクター。阪神・淡路大震災を機に上京し、『天才・たけしの元気が出るテレビ』でテレビ制作に携わる。代表作に『全日本コール選手権』や『BAZOOKA!!!』など。2017年に著書『煩悩ウォーク』(文藝春秋)を刊行。

photo/
Satoko Imazu
text/
Konomi Sasaki

本記事は雑誌BRUTUS884号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は884号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.884
危険な読書(2018.12.15発行)

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