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アートサイエンスを学ぶための、理想的な校舎とは?

BRUTUSCOPE

No. 884(2018.12.15発行)
危険な読書
建築家・妹島和世とチームラボ・猪子寿之が、学びのための空間のあり方を考える。

日本初のアートサイエンス学科を開設した大阪芸術大学。キャンパスに求められるのは、サイエンスアートが交差するフレキシブルな空間。新校舎を設計した妹島和世と、その校舎でこれから教鞭を執るチームラボ代表の猪子寿之に話を聞いた。

妹島和世 
直接お目にかかるのは初めてですよね。
猪子寿之 
お会いできて光栄です。早速ですが、妹島さんのこの校舎、先ほど初めて足を踏み入れました。こんな表現でいいのかわかりませんが……アスレチックみたいだな、と。
妹島 
確かに(笑)。最初にイメージしたのは「丘」なんです。
猪子 
大阪芸大は一つの山を削って造ったような敷地ですからね。
妹島 
そう。そのカットされた丘をもう一度、思い出すような空間をイメージしました。ただ、この土地にお椀を被せたような建物を建てては、外に対して閉じてしまう。2010年SANAAとして手がけたローザンヌ連邦工科大学ラーニングセンターでは、外部との接点で建築がスパッと切れているのですが、その時から、どうすれば外へと繋がっていく空間になるのか考えていたんです。
猪子 
この新校舎は、その意味では周囲に対して開かれていますよね。
妹島 
そうですね。日本の伝統的空間には縁側という場所があって、内と外を徐々に繋げていく役割があります。この校舎は螺旋状とも言えますが、一つ一つのスラブ(構造床)を縁側とも捉えられる。それが上下に重なり、層になっている空間でもあるんです。
猪子 
それと、この空間は能動的ですよね。スロープも傾斜がかなりある。僕らがお台場に造った〈チームラボ ボーダレス〉という、チームラボの作品群を常設展示する空間でも、「運動の森」というフロアにはほぼ平面の床がないんです。
妹島 
この建築のスロープと同じですね。
猪子 
そうなんです。”立体的な空間”に興味があるんですよね。身体で世界を認知してほしいし、身体で物事を考えてほしいと常々思っています。都市にいると平面ばかりですし。テレビや新聞、雑誌、YouTubeSNS……。今に始まったことじゃないですが、頭だけで知った気になることが多すぎる。だから身体を強制的に使いたいんです。
妹島 
当初はこの建物も、屋上に上がれるように計画していました。実現はできませんでしたが、そのくらい開放していいと思っていたんです。
猪子 
身体を意識しないとケガするような空間とか、面白いですよね。
妹島 
自然の中だとそれが当たり前なんですよね。湖にフェンスなんかないわけだし。水に落ちないよう自分で距離感を測る。今は、どんどん体を使わない世界になっていて、そうした状況が加速すると、人は生物として弱ってしまう。もちろん、バランスを考える必要はありますが、もっと多様なものに触れていかないと。
猪子 
そう思います。二次元と三次元って、言葉通り”次元が違う”。立体的な空間を身体で探っていくことで、世界を高次元で捉えることができるようになると思うんです。高次元と低次元って、知能指数の差とかじゃないんですよ。考え方が根本的に違っている。例えば、会社の組織図。あれはまさに二次元で物事を捉えている証拠ですよね。
妹島 
なるほど(笑)。
猪子 
二次元に囲まれて、平面からだけ情報を摂取していると、考えの次元も下がっていく。その点、ここはすごく高次元な空間です。
妹島 
ありがとうございます(笑)。校舎の1階は他学科にも開放して、いろいろな形で人が出会う場になればと思っているんです。それが新しい表現にも繋がっていく。猪子さんがここでどんな授業を行うのかも楽しみにしています。

妹島和世が設計した、大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎が完成!

2017年大阪芸術大学に開設された新学科、アートサイエンス学科のための新キャンパス。設計は妹島和世。チームラボの猪子寿之が客員教授を務めるほか、MITメディアラボの石井裕やクリエイティブカンパニーNAKED Inc.の村松亮太郎など、第一線で活躍するメディアアートクリエイターや教授らが教鞭を執る。地上2階、地下1階。螺旋状にスロープが延び、内外の境界線が曖昧な、フレキシブルな空間となっている。1階は他学科にも開放され、講演会やインスタレーションの展示ができる、さまざまな人が集まる場に。地下階は光を遮断し、映像やサウンド、デジタルファブリケーションなどの作品制作ができる電子機器を設置。主にアートサイエンス学科のための教室として使用される。●大阪府南河内郡河南町東山469☎0721・93・3781。

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妹島和世

せじま・かずよ/1956年茨城県生まれ。日本女子大学大学院修了後、伊東豊雄建築設計事務所に勤務。87年妹島和世建築設計事務所設立。95年に西沢立衛と共にSANAA設立。2010年SANAAとしてプリツカー賞を受賞する。個人作に〈犬島「家プロジェクト」〉〈すみだ北斎美術館〉など。村野藤吾賞受賞、紫綬褒章授章。

猪子寿之

いのこ・としゆき/1977年徳島県生まれ。東京大学卒業時の2001年に〈チームラボ〉を設立。アートサイエンスのジャンルで画期的プロジェクトを次々と発表。お台場に常設展示を行う〈森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス〉、豊洲に2020年秋まで期間限定で〈チームラボプラネッツ〉がオープン。

photo/
Jun Kozai
text/
Yuka Uchida

本記事は雑誌BRUTUS884号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は884号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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