書籍・読書

笑いの力が、人種差別から抜け出す鍵に。

骨太! 社会派ノンフィクション。

No. 884(2018.12.15発行)
危険な読書
荻上チキ、武田砂鉄
『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?』

近年、本の分野でも注目を集めるノンフィクション。そのなかにはジェンダー、人種差別、移民問題といった社会的な課題を扱うものも多くある。それぞれライターと評論家という立場から、諸問題に発言してきた武田砂鉄さんと荻上チキさんに今読むべき本を聞いた。

荻上 
アメリカで売れているコメディアンは、その日起きたことを政治風刺などの巧みなストーリーテリングにしながら、いかにナイトショーを笑いに変え、ニュースとして伝えるかが、とても重要な役割になっている。『トレバー・ノア』は、ここ数年でその地位を獲得し、2018年のグラミー賞のプレゼンターにもなった黒人コメディアンの著書。「生まれたことが犯罪⁉」という副題の通りに、当時の南アフリカでは人種を超えたセックスが犯罪で、白人でも黒人でもなくカラードという人種に位置づけられた子は「呪われた子供」として、不合理な差別を経験しました。この本では、それを自身の思い出として描きながら、コメディアンとしてアパルトヘイトという人種問題を面白く説明したり、ユーモアを持ってヘイトに打ち勝った背景が描かれる。アパルトヘイトなど繰り返してはいけないという使命感を持った人が笑いこそ暴力への抵抗だという発言をしていることも重要だったりするんですよね。
武田 
2017年、ブラックフェイスが問題視されましたが、社会的な事象をお笑いのスタンダードにすることも、日本では期待できなくなってきている。
荻上 
日本の場合、笑いというものが完全にノーマティビティのなかに押し込められている。でも、そういった虐げられている枠組みのおかしさを、ある意味、脱構築しようとしているものが、笑いだったりするじゃないですか。
武田 
なぜMeTooがテレビであまり流行らなかったかというと、日本の笑いというのが大きなネックになっていると思う。ブス、デブという枠組みでしか女性芸人が振る舞うことを許されないとか、アイドルグループの恋愛禁止のように置かれている状況そのものが人権侵害と考えられる場合もある。そうやって笑い茶化す姿勢に勢いづかない要因があるかもしれませんね。
荻上 
それらを解体して終わりにしようとする人は必ずいる。問題に対してどう向かっていくか、そこにはノンフィクションや評論の力も必要ですよね。それらが脈々と相互に、社会変革の力になっていけばいいなと思います。

『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?』

トレバー・ノア/著 齋藤慎子/訳

世界各国で活躍するコメディアン、トレバー・ノア。アパルトヘイトのもとで生まれた現実のなかで、差別や偏見と向き合い、声を上げ、笑いの力で未来を切り開いてきたコメディアンが歩んだ道のりを書いた自伝。英治出版/1,800円。

荻上 選

Satetsu Takeda

1982年東京都生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年からフリーのライターに。『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。近著に『日本の気配』など。

Chiki Ogiue

1981年兵庫県生まれ。月曜〜金曜22時〜24時、TBSラジオ『荻上チキ Session-22』にパーソナリティとして出演。著書に『災害支援手帖』『いじめを生む教室』などがある。NPO法人〈ストップいじめ!ナビ〉代表理事。

photo/
Shinichiro Fujita
text/
Asuka Ochi

本記事は雑誌BRUTUS884号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は884号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.884
危険な読書(2018.12.15発行)

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