ライアン・マッギンレーとビルケンシュトックの共通点。

BRUTUSCOPE

No. 883(2018.12.01発行)
Mid-Century in Our Life

“オーセンティック”とは? “パーソナリティ”とは?

インスタグラマー全盛の時代である。誰が何を着て、どんな靴を履いているのか、タグつけ機能によって具体的に可視化されている。この機能は、新たなファッションビジネスの方法論となり、インフルエンサーと呼ばれる言葉を生み、マーケティングのフォーマットを作り出した。SNSへの投稿を条件に、最新の洋服やスニーカーをプレゼントするなんて話はよく聞く。影響力の大きい有名人やブロガーに至っては商品をポストすることでギャラをもらい、それが収入の一つになっているのだ。一部の消費者は、「この人は本当にその服や靴を愛用しているのか?」という疑問を抱き始めているだろう。

では、ビルケンシュトックの2018年秋冬のキャンペーンはどうだろう? パーソナリティ・プロジェクトと題されている。アメリカを代表する写真家ライアン・マッギンレーをはじめ、世界3大バレエ団の一つとされるロイヤル・バレエ団のファーストアーティストを務めるロマニー・パジャック、それにノーベル医学生理学賞を受賞したスタンフォード大学のトーマス・スードフなどを被写体に、英国写真家ジャック・デイヴィソンがフィルムで切り取った。自分らしくいることができる居心地いい場所で撮影されたポートレート写真とビルケンシュトックのサンダルの写真を同じサイズで並列に並べて。

なぜライアン・マッギンレーだったのか? 確かに彼はインフルエンサーである。ライアンの美的感覚や人の本質を問う写真は、国内外問わず後世の写真家に大きな影響を与えたことはまぎれもない事実だ。しかしキャストの名前を見ればわかるように、パーソナリティ・プロジェクトで重要視されているのは、愛用者の個性であり、インスタグラムのフォロワー数ではない。中にはインスタグラムのアカウントを持っていない人もいる。もちろんライアンも生粋の“ビルケンユーザー”の一人だった。

ライアン・マッギンレーが2015年に購入した黒のボストン。撮影は自身が“セカンドホーム”と呼ぶニューヨークのオフィスで。

「初めてビルケンシュトックを履いたのは、中学2年生の頃だった。グレイトフル・デッドのライブに兄と一緒に行った時だったね。鮮明に覚えているよ」

1970年代、ヒッピーたちにとって、ある種ユニフォームだったビルケンシュトック。グレイトフル・デッドのライブでもそのサンダルを履くファンの姿が多く見られた。そしてライアンもそのうちの一人。当時のライアン少年からすれば、まさか自分がビルケンシュトックのキャンペーンに参加するとは予想もしていなかっただろう。

「今回、キャンペーンの出演依頼が来た時、出演するか否かあまり悩むことはなかった。なぜなら幼少の頃から履き続けているものだし、そこに偽りがないから。いつ履いても心地いいもので、自由を象徴するもの。何かといい思い出があるんだ」

“自由”や“オーセンティック”とは、ライアンにとって大切な言葉となっている。2014年の母校パーソンズ美術大学の卒業式で、このような言葉を写真学科を卒業した写真家の卵たちへ贈っていた。

「暇なんてない。常に忙しくしていろ。自分が本当にやりたいことを探して見つけろ。それが何なのかをはっきりさせよう。口で言うのは簡単なこと、今すぐ行動に移してみよう。どんどん磨いていくんだ。磨けるだけ磨き続ける。そして、一方的に見るだけではなく、目線を変えてみよう。次のレベルに達するまでずっと諦めてはいけない。どんな時も両足を揃えることなく、常に動けるように片足は前に出しておけ」

ライアンの言葉に偽りは全くなく、ライアン大学時代に作った伝説的な自費出版物『The Kids Were Alright』から、最新作の『Mirror, Mirror』でも、そのスタイルを変えることなく、ヌードやユースをテーマにした創作を続けている。

「僕が興味あるのは外見ではなく、中身さ。オープンなマインドを持ったエネルギッシュな被写体。そんな彼らの姿を偽りなく写真に収めるんだ。ピュアで人間味に溢れたオーセンティックな姿をね」

1774年にドイツフランクフルトでインソールを開発し、創業したビルケンシュトック。誠実な姿勢でもの作りを続けて、約250年が経つ。そんなオーセンティックなもの作りとエネルギーがライアン・マッギンレーというアーティストの姿勢と作品にリンクする。

photo/
Jack Davison
text/
Takuhito Kawashima

本記事は雑誌BRUTUS883号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は883号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.883
Mid-Century in Our Life(2018.12.01発行)

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