映画

是枝監督総合監修、日本社会の問題点を見つめたオムニバス映画が公開。

BRUTUSCOPE

No. 881(2018.11.01発行)
札幌の正解
石川 慶

次の世代に渡す「バトン」。自分の意志を持って、仕事をしているか。

香港で社会現象となったオムニバス映画『十年』。10年後の香港を舞台に自国が抱える問題点を取り上げた作品は、中国では国営メディアに批判され上映禁止になるほどの話題を呼んだ。新たに日本、タイ、台湾の国際共同プロジェクトが始動。日本版のエグゼクティブ・プロデューサーには是枝裕和監督を迎え、10年後の日本を舞台に多様な問題意識を出発点に5人の映画監督が創作した。その一人、『美しい国』石川慶監督に話を伺った。

作品は公募により決定。『愚行録』など人間の内面に焦点を当ててきた石川監督は初めに、「香港版の原動力である“怒り”のような強く、切実なトピックを日本で見つけるのは難しい」と感じたという。「日本で映画を作っていると、半径5m以内のものを組み合わせて題材にしていると思います。それもいいですが、俯瞰して世界の映画と対峙した時に、もっと強度の強いものを『十年』では作るべきだと思いました」。“10年後の日本”というお題を受け、初めに想起したキーワードが、東京2020オリンピック。TVやCMなどクライアントワークも多い監督は、東京オリンピックを機に企画やメッセージ、現場に流れる空気感の変化を感じた。「誰かが声を大にして言ったわけでなく、“日本ってすごいよね”という空気感がなんとなくあるんです。これが別のもの、例えば徴兵制や戦争だったらどうなるのか。深く考えずに引き受けた仕事が知らず知らずのうちに何かに加担している可能性があると最近特に感じていました。作り手として、自覚してもの作りをしているのかという自戒の意味も込めています」

監督の題材は「徴兵制」。10年後、83歳以下の人は誰も戦争を知らない時代がやってくる、起こっていてもおかしくないギリギリの出来事としてモチーフに選んだ。徴兵制の広告を担当する渡邊とデザイナーの天達の物語。実在する女性ベテラン人形アニメーターが天達のモデル、そして渡邊は監督自身だ。彼女は自身が面白いと思うものを提案し、コンテと違うことはよくあったという。「多少目をつぶることがあっても、自分が何をやっているのかわかっている人とわからずに右から左に仕事を流す人とでは、結果が全然違うと思います。今の時代、その人形アニメーターのように自分の意志をきちんと提示して、仕事をしている人がいるのだろうかと。言われるがままではない力強さや骨太さは、年上の人から受け継ぐべきことだと思いました」。いま、私たちは重要な転換期にいると監督は言う。「戦争を知っている人たちから実体験を聞くことで、“必ず一度立ち止まって考えましょう”というバトンを僕たちは受け取り、それが戦争に対する歯止めになっていました。しかし僕たちは、次世代に渡せるバトンを落としてしまっている可能性もあるのではないかと」。悪に対して人はすぐに正義を振りかざそうとする。しかし、正義よりも前に「自覚すること」の重要性を映画で説く。

是枝監督やスタッフからの注文は、「社会的な問題を扱うのを恐れないでください」と一言。ポーランドで映画を学んだ石川監督は、日本映画はなぜ社会や政治を扱わないのかよく聞かれたという。「旧共産圏であったポーランドは、歴史的に映画が社会を変えていった実績があるため社会問題を扱うことは普通です。日本はそういった映画にお金が集まらないのでなかなか作られない。実は日本映画のジャンルは狭く、自由度は低いように思います。社会問題は眉間にシワをよせて話さなくても、楽しみ考えるエンタメ作品にもできます。今回も5人とも堅苦しくなく、純粋に近未来SF的なワクワク感や個人の息苦しさ、喜びを表現しているので、誰でも共感できる10年が観られるはず。それぞれ1時間議論できるだけの要素が詰め込まれているので、ぜひ上映後は語り合ってほしいですね」

作品を作り終え、監督自身も是枝監督からバトンをもらったような気がする、と話す。「ポーランドのような旧社会主義圏では、かつてはプロパガンダのように、思考させないように感情移入させて、国民をコントロールしていた部分があります。映画はそういう力を持つもの。僕自身も自覚してもの作りをしようと改めて思いました」。10年後の日本を想像しながら、自身が願う10年後の社会、自身の姿を心の中で問いかけたくなるだろう。

『美しい国』

監督:石川 慶/徴兵制が施行された日本広告代理店の社員・渡邊(太賀)は、徴兵制の公示キャンペーンを担当していた。ある日、ポスターデザインの一新を、ベテランデザイナーの天達(木野花)に伝える役目を任される。なかなか話が進められない中、渡邊は天達のデザインに込められた思いを知ることになり、自らが置かれている状況、そして担っている責任に問いを向ける。

新鋭監督5人が見つめた日本社会の10年後。

『PLAN75』

監督:早川千絵/主演:川口覚/75歳以上の高齢者に安楽死を推奨する制度が開始した日本。貧しい老人相手に死のプランを勧誘する夫、認知症の母と格闘する妻。命の価値を問う物語。

『いたずら同盟』

監督:木下雄介/主演:國村隼/AIによる道徳教育に管理されたIT特区の小学校、AIシステムに従っていた子供たちだったが、クラスメイト3人組がある“いたずら”を画策する。

『DATA』

監督:津野愛/主演:杉咲花/母の生前のデータが入ったデジタル遺産を父に内緒で手に入れた娘。母の実像を思い起こすことに喜びを感じていたが、知られざる一面を見つけてしまう。

『その空気は見えない』

監督:藤村明世/主演:池脇千鶴/大気汚染によって地下への移住を強いられた日本。地下で育った少女は、友人が突然姿を消したことをきっかけに、まだ見ぬ地上の世界に夢を抱く。

石川 慶

いしかわ・けい/1977年生まれ。東北大学物理学科卒業後、ポーランド国立大学で演出を学ぶ。短編作品を中心に、テレビドラマ『イノセント・デイズ』(2018年)、ドキュメンタリー、CMなどを手がけ『愚行録』(17年)で長編監督デビュー。現在2作目を準備中。

『十年 Ten Years Japan』

10年後の日本を舞台に、高齢化、AI教育、原発など自国の抱える問題点を軸に5人の監督が描いたオムニバス作品。エグゼクティブ・プロデューサーの是枝裕和監督は、プロットのオリジナリティなどを重要視し、公募で選び、製作にも細かく関わった。台湾、タイでも製作され、タイ版は第71回カンヌ国際映画祭に選出された。
©2018 “Ten Years JAPAN” Film Partners

photo/
Chihiro Oshima
text/
Yoko Hasada

本記事は雑誌BRUTUS881号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は881号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.881
札幌の正解(2018.11.01発行)

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