てのしま/荒木町 きんつぎ

グルマン温故知新

No. 880(2018.10.15発行)
洋菓子好き。
四谷・杉大門通りを入ってすぐのビル地下に位置する。

荒木町 きんつぎ

●四谷三丁目

ご飯で飲ませる、日本酒好きのための和食。

 料理担当の北村徳康さん、調理兼サービス担当の佐藤正規さんは共に学芸大学〈件〉の出身。OBも数多く輩出するおでんと日本酒の名店で経験を積み、タッグを組んだ2人が酒場激戦区の四谷で「食べて飲んで1人1万円。お釣りが出れば理想的」な和食をオープンした。
 おまかせコースの1品目は、修業先や人との繋がり、次の皿に思いを「継ぐ」だし。胃袋を温め、カツオと昆布の旨味で食欲をかき立てた後は、前菜を。飲む酒や食べるペースに合わせ、豆皿の小料理や旬魚の握り、刺し身をちょっとずつ。「寿司屋のスタイルで、つけ皿におつまみをポンポンとテンポよくお出しします」と北村さん。さすが、元寿司職人ならではの発想だ。
 締めくくりは「せいろ蒸しごはん」。熱々の湯気と木の香りが立ち上るご飯は酒をそそり、来店した蔵元も絶賛したほど。
「〆まで日本酒をとことん堪能してほしい」という、2人の思惑にはまること請け合いだ。

ご飯と麺がこの店“らしさ”。これからの通える和食。

片や日本各地の郷土料理をわかりやすく再構築する和食。片や予算1万円で食べて飲めるご飯と日本酒好きのための和食。スタイルは違えど、いずれも素材にこだわり、手間暇かけた料理と「麺と飯」で決め打ちする。糖質オンで気持ちも上がる、注目店が登場です。

てのしま寿司 上から時計回りに、おいなりさん、秋刀魚と穴子の棒寿司。赤酢と白酢を使い分け、3種それぞれに酢飯を仕立てる。この日のいなり寿司の具は焼きキノコ。マツタケ、丹波シメジ、マイタケで季節感のある味わいに。穴子にはチョコレートのように濃厚な煮詰めを添えて。料理はすべて10,000円のコースから。

いりこだしにゅうめん 小豆島〈船波製麺所〉の半生にゅうめんを使用。「引くくらいおいしい」と林さんも絶賛。いりこだしと九条ネギ、ユズ、黒七味でシンプルに。最後の一滴まで飲み干したくなるほど。大中小とサイズが選べるのもうれしい。

牛 朴葉味噌焼き 一般的には流通していない、稀少な愛媛県産「はなが牛」を使った主菜。表面はサクッと、中はロゼに仕上げる火入れも完璧。下には焼きナス、銀杏、手島の親類が栽培するという幻の本鷹唐辛子をアクセントに。

海外経験も豊富な林さん。

〈SUPPOSE DESIGN OFFICE〉が手がけた「土間のある台所」がコンセプトの意匠も見どころ。

てのしま

●青山一丁目

日本料理を身近に。“みんなの和食”あらわる!

 店主の林亮平さんは京都の老舗料亭〈菊乃井〉出身。本格的な日本料理=懐石料理、懐石料理=高級。そんな世間のイメージを払拭しようと1万円のコースで目指すのは、ハレとケの間にちょうどいい身近な和食店だ。
 9品からなるコースは、前菜、お椀、お造り、魚料理、満足度を高める肉料理もあり。決めの一手は、てのしま寿司だ。季節感のある三角のいなり寿司に、締め加減も抜群な棒寿司2種の3点盛りでインパクトは絶大。シャリは江戸好み、仕立ては京都。そのセンスが林さんらしい。
 〆のにゅうめんは「お吸い物」の位置づけ。ハレの食材である昆布でなく、ケのいりこだしを使用。修業時代、伝説の料理長に学んだ「お椀のルール」に則り、味が一番わかるという料理の寸法(口中体積)と器の大きさも考慮し、旨味たっぷりのだしでシンプルに食べさせる。
 現代的に表現した日本料理を「肩肘張らず、カジュアルに」と林さん。願ったり叶ったり。

前菜5点盛り 左上から時計回りに、シャインマスカットの白和え、プラチナかぼちゃのすり流し、青大豆の浸し豆、戻りがつおの握り、鴨ロース煮とイチヂク。通常は一品ずつ提供。シャンパンを飲む客には白和えを、熱燗の客には握りからという具合に、臨機応変に提供する。料理はすべて4,800円のコースから。

タコと新生姜のせいろ蒸しごはん 甘辛く炊き上げた2種のタコをご飯に盛り込み、小さなせいろで蒸し上げた締めの一品。真ダコのほか、「旨味の塊」という水ダコの吸盤は食感も楽しい。シラスとイクラといった組み合わせもあり、日本酒とも相性抜群。

沖縄産皮付き豚バラ肉と乳酸キャベツの炊き合わせ 「フレンチ好き」の北村さんが物件探し中に働いたという、西麻布〈ル ブトン〉で着想した肉料理。イメージしたのは「シュークルート」。適度な塩気が酒を進ませる。豚バラ肉の脂を洗い流す、熱燗とのペアリングが正解。

手前から佐藤さん、北村さん。「酒飲みの自分たちが行きたい店」を実現。

photo/
Yoichiro Kikuchi
text/
粂 真美子

本記事は雑誌BRUTUS880号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は880号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.880
洋菓子好き。(2018.10.15発行)

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