【水天宮・人形町編1】300年の歴史ある繁華街をそぞろ歩き。

細野晴臣 × 中沢新一「東京天国」

No. 880(2018.10.15発行)
洋菓子好き。
日本橋七福神の一つで、大国主を祀る松島神社を参詣。ビル1階の奥まった場所に鎮座する姿が珍しい。
運慶作と伝えられる「弁財天」が祀られる水天宮。
人形町周辺には今も戦前の花街の面影を残す建築がわずかに残る。
こちらも戦前と思しき建物のオートバイ店。
吉原(元吉原)の氏神様として信仰を集めた末廣神社。毘沙門天を祀る。
末廣神社の脇にはお稲荷さんと百度石(百度参りをする際の標識として設けられた石)。
老舗〈人形町今半〉のすき焼きコロッケを買い食い中。
末廣神社の授与所の中に猫が!
日本橋人形町3丁目にある、幕府医師の岡本玄冶の屋敷跡「玄冶店」の碑石。
馴染みの街、人形町を歩く細野さんと中沢さん。
老舗洋食屋〈小春軒〉横のビルの壁にある、谷崎潤一郎生誕の地碑。
細野晴臣 × 中沢新一「東京天国」
音楽家と人類学者の時空を超えたぶらり旅。今回は人形町編。2016年に建て替え工事が完了した水天宮で女難除けを祈願し(?)、日本橋七福神巡りへ。奇跡的に空襲を免れた貴重な町並みを眺めつつ、繁華街としての長い歴史を持つエリアをそぞろ歩く。
芝居小屋と茶屋が立ち並んだ、江戸きっての歓楽街。
人気の神社の変貌を嘆き、変わらぬ店に安堵する。
中沢新一 人形町ツアーは水天宮から。もともとは九州の久留米水天宮を赤羽橋の有馬公の屋敷内に勧請したもので、これは源平の戦いの頃、平家の女官が筑後川のあたりに安徳天皇や建礼門院を祀った祠を建てたのが起源。明治4(1871)年に赤坂、翌5年に日本橋蛎殻町に移転して現在に至っています。「情け有馬の水天宮」なんて地口もあるくらい庶民に人気だった神社で、周辺の小網神社や松島神社などと並ぶ「日本橋七福神」の一つでもあります。
細野晴臣 今でも安産祈願で有名だよね。腹帯をもらうんでしょう。
中沢 ただしもともとは安徳天皇の水難除けと、建礼門院の女難除け。ちゃんとお参りしとかないとね(笑)。
細野 だけど、久しぶりに来てびっくりしたよ。水天宮が建て替えられたのは聞いてたけど、下階にあった駄菓子屋がなくなっちゃってたのがすごいショックで。あのソースせんべい、旨かったのに……。
中沢 社殿もまさかあんな近代的なビルと一体化しちゃうとはね。
細野 そう。色々理由はあるんだろうけど、やっぱりおかしいよ。もし伊勢神宮がビルになっちゃったら、みんな行きたくならないでしょ。そういう、人間が感じる手触りみたいなものをもう少し考えてもらいたいね。例えば築地市場だって、なぜあんなにたくさんの人が集まるのか、考えてみればわかることだと思う。
中沢 そうですねえ。今になって、若い人が古い町並みを探して写真撮ったりしてますけどね。この周辺は奇跡的に空襲を免れたので、まだ明治大正頃の古い建物なんかもかろうじて残ってますから。
細野 人形町はいつ栄え始めたの?
中沢 江戸初期、今の人形町通りの東側に吉原(元吉原)があったんです。1657(明暦3)年の明暦の大火で焼失して浅草に移転しました。当時このあたりは芳町と呼ばれていて、その後も芝居小屋や茶屋が並ぶ、武士や羽振りの良い町人の遊び場になっていました。そういう場所には陰間茶屋(男娼の遊郭)なんかもあった。で、明治に入って水天宮が移転してきてからはさらに栄えて、東京市有数の繁華街になったと。細野さんはこのあたりはわりと馴染みがあるんでしょう?
細野 馴染んでるよ。10年くらい前、月島に住んでいた頃は、近いからしょっちゅうこのへんに来てたんだ。おいしい店がたくさんあって、ぶらぶらするだけでも楽しいから。
中沢 最近は来ていないんですか。
細野 通っていた店がなくなったり、代替わりして味が変わっちゃったりするんだよ。このあたりに、当時、好きだった店があってね。年配の美人姉妹が切り盛りする洋食屋で、さすがにもうないだろうなあ……おおっ、まだある! 
中沢 〈来福亭〉、店の佇まいがまたいい味ですねえ。
細野 お母さんたちもまだ健在なんて、嬉しいね。ここのハンバーグが大好きなんだ。今夜はここで食べることにしようよ。

HARUOMI HOSONO
1947年東京都生まれ。音楽家。69年にエイプリル・フールでデビュー後、はっぴいえんど、ソロ、ティン・パン・アレー、YMOなどで活動。2017年、2枚組アルバム『Vu Jà Dé (ヴジャデ)』発表。

SHINICHI NAKAZAWA
1950年山梨県生まれ。人類学者。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治大学野生の科学研究所所長。『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)ほか著書多数。近著に『アースダイバー 東京の聖地』(講談社)。

photo/
Yurie Nagashima
text/
Kousuke Ide
edit/
Naoko Yoshida

本記事は雑誌BRUTUS880号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は880号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.880
洋菓子好き。(2018.10.15発行)

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