スタインベック『ハツカネズミと人間』のレニー

星野概念「登場人物を精神医学で診る 本の診断室」

No. 880(2018.10.15発行)
洋菓子好き。

主治医:星野概念

名前:スタインベック『ハツカネズミと人間』のレニー

病状:「ハツカネズミって、とってもちっちぇんだ(中略)かわいがってると、すぐにおらの指をかむんだ。それで、ちょっと首をひねると、もう死んじまう。とってもちっちぇからなんだよ」

備考:体形も知恵も対照的なレニージョージカリフォルニアの農場を転々とする、2人の渡り労働者の友情と哀歓、夢と悲劇を描く。大浦暁生訳。新潮文庫/430円。

診断結果:わかろうとすることが、悲しみを変革するかもしれない。

 少し頭が弱い大柄のレニーと、腐れ縁で彼の面倒もみる小柄なジョージ。2人は新たな雇い先の農場に向かいます。道中、レニーはポケットにハツカネズミを入れて可愛がりますが、怪力で殺してしまい、ジョージに放り捨てられます。それでも川にまで入って拾いに行き、また見つかって怒られる。レニーはいろいろ可愛がるのが好きで、夢はジョージと一緒に農場を持ってウサギを世話すること。また、前の農場のクビの原因は、女性のドレスを可愛がろうと触り、女性の叫び声でレニーがパニックに陥ったことでした。ジョージレニーのそんな特徴を理解し、色々な警告をしますが、レニーはすぐ忘れてしまいます。新しい農場でも、可愛がった仔犬が死んだり、さらなる悲劇が起こります。最後にはとても切ない結末を迎えますが、一貫してレニーに悪意はありません。ただ状況が読めず、素直さだけが浮き出る形で悲劇に繋がりました。仮に、皆がレニーの抱える足りなさについて理解があれば、結末は違っていたでしょう。「障害」を抱える人は社会的に少数派で、簡単には社会に馴染めません。多数派の方から理解をしないと、思いもよらない悲しみが生じえます。この小説にはほかにも、老人、老犬、有色人種など虐げられる描写の多い立場が登場します。明らかな社会的少数派ではない自分の目線について、改めて深く考えさせられる重要な作品でした。

ほしの・がいねん/精神科医。音楽活動もさまざまに行う。いとうせいこうとの共著『ラブという薬』が発売中。

edit/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS880号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は880号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.880
洋菓子好き。(2018.10.15発行)

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