映画書籍・読書

思わず吠えたくなる、ワンワン映画を数本。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 879(2018.10.01発行)
心を開放する旅、本、音楽。

 本誌前号で紹介されていた、マイラ・カルマン『たいせつなきみ 犬が教えてくれたこと』(吉田実香+D・インバー訳/創元社)は、犬好きが飛びつきたくなる本で売れ行き好調とのこと。それに乗じて本コラムでは、余計なお世話だろうが、犬になにかしら教えられたような気になった、思わず画面にワンと叫びたくなった、ここ1、2年の映画を何本かあげてみることにする。ワン。
 いやあ、驚いた、作品の出来が予想をはるかに超えていた作品がジェレミー・ソルニエ監督の『グリーンルーム』だった。アメリカ深い森の片田舎、ネオ・ナチ・カルト経営のロードハウスの控室で、運悪くブッキングされたパンク・バンドが女性の死体を発見、死体とともに閉じ込められる。いかにサバイバルしうるのか? これに関しては殺された女の子の友人女性の逆襲力が半端ない。襲ってくるのはネオ・ナチばかりではなく飼育された殺人犬も来襲。この犬が超音波ノイズに戦意喪失、飼い主のところへトコトコ戻っていく場面に、非常なユーモアがあって最高。犬に飼い主の立場は問えない。
 仏頂面でにこりともしない。しかしハートは笑顔というシャイネスが、フィンランドの異才アキ・カウリスマキ映画の登場人物だ。新作『希望のかなた』でも捨て犬に対しても、移民局から逃亡した難民青年にも温かく仏頂面対応。この捨て犬がキュート。
 キアヌ・リーヴス主演の新シリーズに『ジョン・ウィック』があり、これは犬好きにはたまらないだろう。目下の楽しみは、第二弾『チャプター2』のラストを、すでに撮影終了の新作『パラベラム』はどう引き継いでいるのか、ということである。殺し屋世界から追放されたジョン・ウィック以上に、同行するヨタヨタ犬の運命が気になってしかたがない。
 まさに人間的な対応というか、前足を、大丈夫ですかというように主人の膝に置き、息子の戦死(誤報とあとでわかる)で落ち込むのを元気づけようとするけなげな犬を見たければ、サミュエル・マオズ監督の『運命は踊る』だ。苛立った主人に蹴飛ばされてしまい、可哀想なことこの上ない。ワン。あ、ワン(一)行足りず。

たきもと・まこと/東京藝術大学卒業後、編集者に。近著に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS879号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は879号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.879
心を開放する旅、本、音楽。(2018.10.01発行)

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