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亡き後も新刊、続々。安西水丸の色褪せぬ魅力盟友・南伸坊

BRUTUSCOPE

No. 876(2018.08.16発行)
GOOD GROOMING GUIDE
南 伸坊

そして、安西が生前に語った"イラストレーション・ミュージアム構想"とは?

イラストレーター安西水丸がこの世を去ってから4年が過ぎた。だが、その存在は日に日に大きくなっているように感じる。今年8月には、生前に執筆していたエッセイ『鳥取が好きだ。』が発売。回顧展『イラストレーター 安西水丸』は京都、宮城、愛知を経て、福島を巡回中。3万人以上を動員している。「こんなに愛されるイラストレーターは後にも先にもいないかもしれないね」と語る盟友・南伸坊と安西水丸のイラストレーションの魅力を考えてみた。


水丸さんの絵の魅力はナイーブアートに繋がっている」と開口一番、話し始めた南。ナイーブアートとは、正式な美術教育を受けずに、独学で絵を描いた画家たちの作品。パリの税関職員だったアンリ・ルソーなどに代表されるアートだ。

ロシアのニコ・ピロスマニなどもそう。19世紀から20世紀初頭に西洋で生まれた言葉だけど、稚拙な表現の中に美を見出す目は、もともと日本人には備わっていたもの。江戸時代には素人に金屏風に絵を描かせたりしていたし、それを見て"味がある"とたたえるセンスがあった。明治以降、そういう気風が弱まってしまうのだけど、水丸さんはナイーブアートが人の心に響くということをとても大事に思っていた。自分の絵の中にもフォークアートや民芸品といった、アノニマスなものを取り入れているし、それらの豊かさ、大らかさで自分の世界を作っている。実は水丸さんとは、面と向かってイラストレーションの話をしたことがないんだけど、ナイーブアートについてはもっとちゃんと聞いておくべきだったなぁ」
 
1970年代にデビューした安西は、日本のイラストレーションの第一世代。先輩陣には和田誠、灘本唯人、宇野亜喜良、山下勇三。それに続いて、山口はるみや湯村輝彦、原田治……。個性豊かなイラストレーターが次々と誕生した時代だった。
「あの頃は才能あるイラストレーターが世に出る機会を、優秀なアートディレクターが作っていた。面白い、面白くないと言える、目の肥えたプロがちゃんといたんです。今はちょっと、イラストレーションの評価が素人っぽくなっている。SNSのいいねやフォロワーの数が影響力を持って、イラストレーションのセンスの後退を招いている気がしますね」
 
その一方で希望があるとすれば、安西水丸ファンが若い層にも広がっていることだろう。ならばなおさら、日本のイラストレーション第一世代の築き上げたものを、文化として残していくべきではないか。安西本の出版ラッシュの背景には、アトリエに残されていた数千点の原画の存在がある。そこから再編集されて新たな著書が生まれ、大規模な回顧展も開かれたが、今後それらをどう保管し継承するかは決まっていない。それは私たちに委ねられているのだ。
 
安西は生前、イラストレーションのミュージアムを作りたいと様々な人に語っていたそうだ。頭にあったのは、ニューヨークのアッパーイーストサイドにある、ソサエティ・オブ・イラストレーターズのビル。そこは協会の拠点となっているだけでなく、アメリカのイラストレーション史を遡るアーカイブスペースや展示コーナーが設けられている。ニューヨークにあるなら、日本にも。場所は東京の中心地である日比谷公園がいい。アーカイブだけでなく、気鋭の新人が展示をできるギャラリースペースも作ろう。そんな話をした編集者クライアント、行きつけの店のオーナーが大勢いる。
「僕は直接その話は聞かなかったけれど、それは仲間内で話していてもしょうがないから。それだけ本気だったんでしょう」と南。「水丸さんは第一世代の中では若手だったけれど逝ってしまった。紫綬褒章を受章した灘本唯人さんも残念だった。イラストレーションという言葉が日本語になったのは60年代。その時の動きはどうにか残しておくべき。写真の美術館を東京都が持っているなら、イラストレーションの美術館を都が持ったって、何らおかしくない」
 
安西が種をまいたイラストレーション・ミュージアム構想は、今こそ話し合う時なのかもしれない。
「イラストレーションが世代を超えて人を惹きつけることは、水丸さんがもう証明しているんだからね」

2014年の急逝から4年─。安西さんの本は次々と出版されています。

鳥取が好きだ。水丸鳥取民芸案内』

民芸好きで知られた安西が特に愛した鳥取の手仕事。銀座民藝店〈たくみ〉で若い頃から民芸に触れ、たびたび鳥取を訪れていたという。生前に遺した未発表のエッセイと、本人がコレクションした民芸品の写真などで綴る鳥取民芸案内。河出書房新社/1,600円。

『ON THE TABLE』

1987〜91年にかけて、個展のために制作した30点のシルクスクリーン作品を収録したアートブック。その9割が初めて書籍化された。デザインは『POPEYE』のアートディレクターを務める前田晃伸。美しい印刷で静かに作品世界を味わえる。Baci/4,200円。

『d design travel 千葉

安西水丸の著書ではないが、代表作を大胆なレイアウトで表紙に使用。安西が幼少期を千葉の千倉で過ごしたことから起用された。安西のイラストレーションの唯一無二性を明らかにした意味で、印象的だった出版物。D&DEPARTMENT PROJECT/1,900円。

南 伸坊

みなみ・しんぼう/1947年東京都生まれ。漫画雑誌『ガロ』の編集長を務めた後フリーのイラストレーター、エッセイストに。赤瀬川原平らと路上観察学会を結成するなど多岐に活動。近著に『オレって老人?』など。現在、東京イラストレーターズ・ソサエティ理事長を務める。

photo/
Ayumi Yamamoto
text/
Yuka Uchida

本記事は雑誌BRUTUS876号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は876号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.876
GOOD GROOMING GUIDE(2018.08.16発行)

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