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少年時代の瑞々しい夏が蘇る。アニメーション映画『ペンギン・ハイウェイ』。

BRUTUSCOPE

No. 876(2018.08.16発行)
GOOD GROOMING GUIDE
石田祐康(左)、蒼井 優(右)
本作で初めてタッグを組んだ、新進気鋭の石田祐康監督と、実力派女優の蒼井優がおおいに語り合う。
子供の頃に経験した夏っぽいイメージは、いつまでも脳裏に焼き付き、何かの瞬間にものすごい速さで蘇ったりする。まさにそんな夏のまぶしさをギュッと詰め込んだのが、アニメーション映画『ペンギン・ハイウェイ』だ。29歳という若さで本作に挑んだ石田祐康監督は、疾走感のある独自のアニメーション作品を高校時代から発表してきた注目の存在。女優の蒼井優が、物語のキーパーソンとなる“お姉さん”の声を務め、作品の魅力を深めた。

石田祐康 この映画に登場する“お姉さん”のイメージは、いわゆるアニメっぽい白いワンピース姿で高原に佇むお姉さんではなく、家の前に住む、家族同士も付き合いがあるような距離感の女性。ナチュラルで飾らないお姉さん像を求めていたので、蒼井さんの声がぴったりでした。
蒼井優 ちょうど舞台に立っていた時期とアフレコのタイミングが重なったんですよね。声がかれて、高い声を出したくてもまるで出なくて。
石田 しかも壮絶なストーリーの舞台だったんですよね。
蒼井 毎日、国王に背いて、死刑台に立たされていました(笑)。
石田 そんな中、パッと気持ちを切り替えてくれて。そもそも女優さんにとって、声だけで演じるアニメーションと実写の演技の違いって、どんなところにあるのでしょう。
蒼井 普段は、ミリ単位で表情筋を利用するというのか。眉毛や耳裏の筋肉までどう動かすかってことをザックリ、感覚でやっているんです。アニメーションは表情筋を使えないぶん、そういうことを喉に集中させて、声帯の開け方で調整しています。
石田 キャラクターの耳裏まで意識したことは一度もありません……。どんなに努力しても、表情においては実写に勝らないわけです。
蒼井 でも、ペンギンに乗るなんて楽しい体験は実写ではできませんよ。
石田 そんなふうに言っていただけるのは、描き手として本望です。
蒼井 これが実写だったら、緑のシートの前で送風機の猛烈な風を受けながら、何もないのに、さもペンギンがいるかのように演技しないといけないので。それはもう、恥ずかしさから逃げたい一心です(笑)。
石田 女優さんはすごい!
蒼井 アニメーションの中では性別や年齢も超えられる。目の前に素晴らしい映像が広がっていて、すぐにその世界に連れていってくれる。演じる側からして、とても素敵な状態。でも、そのぶん怖さもあるんです。
石田 それは一体⁉
蒼井 自分が声を入れるまでに、映像を手がけるチームが積み重ねてきた膨大な時間のことを考えると、やっぱり怖くなります。皆がきれいに層を重ねてきた中で、自分がちゃんとその一部になれるのかと……。
石田 蒼井さんと話していて作り手、描き手として、もっと精進しなければと思いました。将来は耳の裏の筋肉まで細やかに動くような、キャラクターが描けるようにならないと!
蒼井 あはは(笑)。でも、この映画の魅力は、何よりも監督の思い入れの強さによるものだと思いますよ。
石田 アニメーションは妄想の産物です。こんな場所に行ってみたいな、コイツ可愛いなと思う気持ちを、机の上で毎日絵にぶつけてきました。キャラクターたちへの愛情も、夏の風景や日常の描写も、世界の果ても、レイアウトや色など様々な要素を駆使し、色々な方の力を借りて、できる限り再現しました。そんな妄想の結晶を観てもらえたら嬉しいです。
蒼井 この映画で描かれている風景は、私が育った街の景色とは全然違うのに、原風景のように感じるのはやはり絵の力だと思います。あったかい気持ちになるんだけど、ノスタルジックなだけじゃない。映画を観終わって、ヨシッと前向きな気持ちになれるのは、他人同士のお姉さんとアオヤマ君が深く信頼し合っていたから。そこに希望がありました。
石田 おおおっ。
蒼井 すでにモノクロになっていた自分の後ろ側にある過去の時間に色がついたことで、パッと背中を押してもらえた気がします。
石田 美しいコメント。人間力の違いが如実に出ました(笑)。
蒼井 監督の妄想トークは使わずに、こちらを採用してください(笑)。

『ペンギン・ハイウェイ』
世界について学んだことをノートに記録する小学4年生の“アオヤマ君”。歯科医院の“お姉さん”と街に突如現れたペンギンたちへの興味は深い。ある日、お姉さんが投げたコーラの缶がペンギンに変身するのを目撃したアオヤマ君は、その謎を解くべく夏休みの時間と全力を注ぐ。8月17日、全国公開。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

photo/
Norio Kidera
text/
Naoko Yoshida

本記事は雑誌BRUTUS876号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は876号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.876
GOOD GROOMING GUIDE(2018.08.16発行)

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