エンターテインメント

評伝と一緒になった、リンチの自伝が発売

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 875(2018.08.01発行)
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編
できるだけ妄想の世界に浸れるよう布団に潜り込んで妄想を行うそう。

 他人(クリスティン・マッケンナ)の書いた自分の〈評伝〉と、自分自身が書いた〈自伝〉を交互に組み合わせた、いってみれば隣接ジャンルのカップリングという、知る限りでは初めての試みがイギリスのキャノンゲイトから刊行された。デイヴィッド・リンチ『RooM to DReaM(大文字小文字は表記のまま)』である。分身テーマ好きなリンチのひとつの分身ごっこと捉えていいかもしれない。
 自伝部分には、自伝しか語れないであろうシークレットな箇所が当然多い。たとえば、伝説の美女にして、ハリウッド結婚歴最多?の女優エリザベス・テイラーからくちびるにキスされた体験も書かれている。このとき彼女はこう言ったのである、『ブルーベルベット』大好きよ と。アカデミー賞監督賞のプレゼンターが彼女だったのだ。受賞すれば、彼女のハグと頬へのキスが栄誉として受けられる。リンチの名前が呼ばれることはなかったが、楽屋裏でリンチはひそかにこの彼女の栄誉をうけたのだった。テイラーも、受賞者オリバー・ストーン(『プラトーン』)
の汗まみれの頬よりも若きリンチのくちびるのほうが嬉しいだろう。
 伝説の画廊主レオ・キャステリのところで1988年に個展が決定したのは、やはり当時付き合っていたイザベラ・ロッセリーニの推挙あってのことだった。そうでなければありえない僥倖であろう。まだまだ(いまも)ジャンルを跨ぐ行為は余技とみなされ本気にしてもらえないのがアート村の実情だ。
 これまた憧れ、信奉する映画監督フェデリコ・フェリーニとの出会いもまたイザベラがつないだものだった。リンチは『道』をかつてブルータス誌の映画特集でベスト作上位にあげていたものだ。
ツイン・ピークス』新シリーズに関してどうかというと、今回トルーマン保安官(兄)というかたちで登場したロバート・フォスターは実は、30年前、最初に保安官を演じるはずであった。今回、ようやくリンチ/フォスター双方の思いがかなったわけだ。律儀なことよ。当然だが、掲載写真のほとんどは、これまで表に出なかったものであり、ファンにはこたえられない。

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たきもと・まこと/東京藝術大学卒業後、編集者に。近著に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS875号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は875号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.875
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編(2018.08.01発行)

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