私たちには共通点がある─日仏を代表する監督が東京で共鳴。

BRUTUSCOPE

No. 875(2018.08.01発行)
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編
新作『2重螺旋の恋人』が公開になるフランソワ・オゾン監督と黒沢清監督が初の対面。
双子の精神分析医の間で揺れ動く女の欲望を描き、鮮烈な映像で観る人を幻惑するサスペンス『2重螺旋の恋人』。優れた作品をコンスタントに発表し、フランスの映画界を牽引してきたフランソワ・オゾン監督が「ぜひ会いたい」と熱望した、黒沢清監督との顔合わせが実現した。

フランソワ・オゾン 黒沢さん、今日はお会いできてうれしいです。
黒沢清 こちらこそ光栄です。前から思っていたことですが、『2重螺旋の恋人』を拝見して確信しました。オゾンさんは現役の映画監督の中でも数少ない天才的な一人である、と。なぜそう言えるかというと、ジャーナリストはよくジャンルの映画か、作家主義の映画かと分類しますね。あるいは娯楽か、芸術かという分け方もあるでしょう。ただ多くの監督たちは、いやそうじゃない、すべて一緒にしたいのだと考えているはずなんです。
オゾン ええ、その通りですね。
黒沢 ところが外的な要因なのか、才能のなさなのか、それらを一本の作品で一緒にすることはなかなかできない。そんな中、ジャンルも作家主義も、娯楽も芸術も、同じ作品に共存できるということを示してくれているのがオゾンさんです。この作品では強烈にそう感じました。
オゾン それは黒沢さんの映画にも言えることです。私と黒沢さんには多くの共通点がありますね。まず2人とも幽霊が好き(笑)。
黒沢 いきなりそういった話をされるのなら……僕の映画を観たフランス人がよく「フランスではこんなふうにまともに幽霊が出てくる映画などない」と言うので、そんな時は「フランスには『まぼろし』があるじゃないか」という話をするんです。あれは本当に素晴らしい幽霊映画でした。
オゾン ありがとうございます。それから私たちは多作ですね。たくさん撮って、リスクを冒しながら、毎回違うことをやる。ときどき成功、ときどき失敗みたいな(笑)。私たち以上に多作だったライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが面白いことを言っています。彼いわく、「私は家を建てているので、一つ一つの映画はその一部屋でしかない」と。つまり自分のキャリアの最後に、観客は完成した家を見るだろうと言っているんですが、私たちも今、一つの家を建てている最中なのかもしれません。
黒沢 それはとても勇気づけられる言葉です(笑)。まあ、僕のことはさておき、今回の作品では双子とか、鏡とか銃とか、ジャンル映画の典型的な要素を用いながら、例えば主人公を演じたマリーヌ・ヴァクトにしても、正気か狂気かというようなわかりやすい演じ分けをしていません。人間本来の曖昧さを俳優から引き出している。俳優とどういったコミュニケーションを取れば、こんなことが可能になるんでしょうか?
オゾン マリーヌとは『17歳』でも一緒に仕事をしていたので、信頼関係がありました。私はケース・バイ・ケースで演技指導を変えていくことが大事だと思っているんですね。一つのメソッドがあらゆる人に有効なわけではなく、役者は一人一人異なるものを必要としている。そう学んだのは『8人の女たち』で8人の女優たちを相手にした時です。カトリーヌ・ドヌーヴにイザベル・ユペールと、それぞれの女優が違うタイプなので、私も違う接し方をしなければなりませんでした。あまりに大変で、ちょっとした悪夢のようでしたが(笑)。
黒沢 主人公が妊娠していて、精神が不安定になっていくという設定から、映画『ローズマリーの赤ちゃん』をつい想起しました。本作の冒頭でマリーヌ・ヴァクトは髪をショートカットにしますが、『ローズマリーの赤ちゃん』のミア・ファローもショートカットなので、どこか似ているように見えてきます。それはシネフィルだけの幻想でしょうか?(笑)
オゾン いえ、正しいと思います(笑)。あのショートカットは確かに『ローズマリーの赤ちゃん』へのオマージュでした。
黒沢 これもまたシネフィル的な質問かもしれませんが、この作品のために参考にした、あるいは影響されているかもしれないと思う映画は何かありますか?
オゾン マックス・オフュルスやダグラス・サークの映画です。彼らは美術を非常に大事にしていて、美術によってストーリーを語ることのできる監督ですね。今回の作品はアイデンティティをめぐる話なので、私も美術、特に鏡がさまざまなものをシンボライズできるのではと思って使いました。主人公は鏡の中の自分を見ることで、アイデンティティを確認しているんです。まだまだお話ししたいことがたくさんありますが、黒沢さん、今後のご予定は?
黒沢 今、次作の編集中です。
オゾン そうですか? 私も一緒です。
黒沢 それでは今後どちらが数多く撮れるか、競争しましょう(笑)。

『2重螺旋の恋人』
監督:フランソワ・オゾン/出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ/性格の異なる双子の兄弟に、異なる欲望と幻想を追い求めるクロエは、やがて  。怪しく謎めいて官能的な心理サスペンス。8月4日、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。
©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE ‌2‌ CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

photo/
Kaori Ouchi
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS875号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は875号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.875
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編(2018.08.01発行)

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