エンターテインメント

世界中で個展を開催、さらに新作まで発表する蓮沼執太の多忙な一年。

BRUTUSCOPE

No. 875(2018.08.01発行)
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編
NYで『Walking Score』を制作している様子。「『 〜 ing』の時は、東京でも行いました」(蓮沼)。
NYの『Compositions』で盟友 U−Zhaanとのセッション。
『 ~ ing』での、ボトルを使ったインスタレーション作品。
楽器の廃材を使った資生堂ギャラリーでのインスタレーション作品。
東京・青山スパイラルホールのセンターステージでのライブ。

北京やブルックリン、銀座で開催した個展での経験が、音楽制作にも反映されたのか。

 蓮沼執太フィルハーモニック・オーケストラ(以下蓮沼フィル)が、4年ぶりの新作『ANTHROPOCENE』を発表。前作から約4年間経っているが、蓮沼自身はこの年始に『windandwindows』を発表したほか、さまざまなジャンルへ楽曲提供も行いつつ、音楽を中心とした個展『Compositions』を北京NYで、東京では『 ~ ing』を開催。超多忙なこの一年を少し振り返ってもらった。
「これまで 『Compositions』という個展を、東京青森で開催してきました。タイトルは、音楽でいえば作曲、絵画なら構図という意味。僕の展示のテーマは、音楽や彫刻、映像を用いて空間自体をコンポジションしていくというもの。全部の要素が混ざり合って一つのインスタレーションになるという構成です。2017年に、文化庁から、東アジア文化交流使に指名されたんです。まずは北京で『Compositions』開催のオファーをいただき、17年に北京、今年の2月にはNYブルックリンにあるアートスペースでも開催しました」
 作品の中でも、自らフィールドレコーディングする姿の映像が印象に残った。
「『Walking Score』という映像作品のために環境音を録音しました。展示会会場の周辺を、マイクを引きずりながら歩き、アスファルトにこすれる音を集音しています。街によって、アスファルトの材質が違うので、音が違うのも面白かった。まず、周辺を散策することで、そこがどんな街かを知る。これが個展の第一歩になります。北京は建設工事が多く、まだ発展の途中という感じ。今年初頭に再度北京へ行ったんですが、会場近辺の風景が変わっていましたね。それからNYの会場は、ブルックリンの端っこにあるので、少し治安が悪く、道路もきれいとはいえません。そうした街の環境や人々の動き、建築などを考現学的に収めていく作品です」
 例えば、インスタレーションの場合、主役は主催するアーティストであり、観客でもある。その場合、突然のハプニングも起こり得る。そんな偶然を取り込むことは、作曲においても同じだという。
蓮沼フィルの原型は、僕が作曲した楽曲をライブで演奏するために結成したアンサンブルです。ただ、興味のある音楽が多岐にわたるため、管弦楽器やラップなど、さまざまなミュージシャンに参加してもらい、現在では総勢16人編成になりました。だから、各自が主に活動しているジャンルでは絶対に出会わない音楽家と演奏することになるので、最初から音楽的な決まりがなく、予定調和になることがないんです。僕は自分自身が奏でる音だけではなく、演奏の外に存在する音もすごく重要だと考えていて。作曲して、譜面を書き、録音もしますが、いざフィルと演奏すると想像をはるかに超えることがよくあります。結成当初はコンセプトを重視していたため、違和感がありましたが、今では作曲の時点で、演奏時の個性を尊重するように、少し余白を残すことにしていて。それは個展で発表される作品と近い感覚かもしれません」
 9月の大阪・味園ユニバースのライブでは、会場のセンターにステージを配置。観客が演者を取り囲むという。
「オーディエンスがライブを観る位置によっては、目の前に演奏者が来ることがあります。その場合、視覚情報が強いため、楽器を弾く演奏者の動きを見て、ついそのパートの音を中心に、演奏を聴いてしまうそうなんです。音楽の聞こえ方が位置によって変わってくると思います。蓮沼フィルを8年間やってきましたが、メンバー各自もさまざまな活動を経験した結果、出す音が変わってきています。今回のライブがどうなるのか。僕自身が一番楽しみにしているのかもしれません」

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

『ANTHROPOCENE』
蓮沼フィルのセカンド。8月18日に総勢26人での『フルフォニー』を東京・すみだトリフォニーホールで、9月16日が名古屋・デザインセンター、26日には『アントロポセン−360°大阪全方位型』を大阪・味園ユニバースで開催。

蓮沼執太
はすぬま・しゅうた/音楽家。2006年の大学在学中にアメリカのレーベルよりデビュー。蓮沼執太フィルを組織する。作品発表や楽曲提供、ライブのほか、音楽を中心にした個展なども開催。現在はNYと東京を拠点に活動している。

text/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS875号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は875号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.875
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編(2018.08.01発行)

関連記事