アート

リアルとは曖昧なもの? 幻と現実を行き来し、思考する美術展。

BRUTUSCOPE

No. 875(2018.08.01発行)
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編
「粧」 ジクレープリント (7点組) 2018年 ©Mami Kosemura 17世紀のオランダの作家、ヤン・ダヴィス・デ・ヘームの静物画を参照した作品。セットを作る過程から、花が枯れた後まで撮影を続けた7枚の連作。花は針金によって固定され、自然とはかけ離れた美しさを演出する。
「Drop Off」 ビデオインスタレーション (4Kビデオ、12分、白黒、音声なし) 2015年 ©Mami Kosemura 映し出されたテーブルの上の風景は色彩もなく、とても静かな絵画のように見える。そこで起こる4秒間の出来事を12分に引き延ばした映像作品。静けさを感じるのか動きを感じるのか、鑑賞者によって感じ方が異なる。
「Objects ‐New York III ‐」 ジクレープリント 2016年 ©Mami Kosemura スペインの画家、スルバランの静物画を参照して作られた写真作品。絵画のような質感を持つ作品をまじまじと見ると、そこに並べられているのは不思議な物体だと気づく。
「黴」 ビデオインスタレーション (9.25分、カラー、音声付き) 2003年 ©Mami Kosemura キャリア最初期の作品。こちらもスルバランの静物画を基にしている。作品のなかに2つのタイムラインが混在するビデオインスタレーション。
「餐」 ジクレープリント 2018年 ©Mami Kosemura セットの制作過程と変化を4ヵ月にわたって撮影し、一枚の写真にまとめた。基になったのはコルネリス・デ・ヘームの作品。過剰な演出から美しさを追求する欲が見て取れる。

リアルとは曖昧なもの? 幻と現実を行き来し、思考する美術展。

鑑賞者に考える余地を与える作品を発表し続ける小瀬村真美。これまでのキャリアを振り返る個展が原美術館で開催中。

 展示室には、写実的な静物画が並んでいるように見える。しかし、よく見ると写真をつなぎ合わせたアニメーションや、映像作品だ。小瀬村真美が2003年から取り組んでいる、古典的なモチーフを使い、映像や写真で再現するという試み。これらは彼女の疑問から始まっている。 「動機はすごく素朴なものです。当時、静物画を描いた人が何を考えていたのか、ものをどうやって見ていたのか、昔の人の考えを知れるはずはないですが、謎解きというか、知るきっかけになればと思って」。実際に作品に取り組んでいくと、思いもよらなかった数々の発見があったという。「絵画の構図をセットしようとすると、なかなか難しいことに気づきました。テーブルを設置して、その上に静物を置けばセットを組めるかと思いきや、実際に置いてみると全然同じにならないんです。オレンジを重ねてもピラミッド状の綺麗な重なりで積み上がらないから接着剤を使う、葉っぱが元の絵のように綺麗に広がらないから針金を仕込むなど、表現したい美しさを作るためには加工が必要でした」。写実的な絵とは、見た通りにリアルに描くものという思い込みが覆された瞬間だった。「一見、現実のように見えるものも、ちょっと考えてみるとおかしい、ありえないというものがたくさんあることに気づいたんです。果物や花を描いた作品でも、四季のものが一つの絵画のなかに同居している。一つ一つの描く対象物は、作家が見て描いたものかもしれませんが、作品としては、今でいう合成や、美しさを追求するための過剰な演出が行われていたのかもしれません。作ってみて改めて興味が湧き、どれくらい現実と違うのかを追求するのが楽しくなってきました」  今回の個展では、普段は見ることのできない、絵のモチーフに使われた花やフルーツの現在の姿も見ることができる。「表側からは見えない裏の世界を見てもらった方が、より私の意図が伝わるかと思い、使い終わった汚れた石板や、作品に使って枯れきった花など、そのままセットを切り取って公開しています。面白い作品とは、表面的なものだけではなく、その裏側にある背景まで含めて考えていくと、より理解も深まるし、世界も広がると思います」。小瀬村の作品の特徴の一つに、鑑賞者の感想が人によってまったく違うということも挙げられるという。「作品のなかに、観る人が考える余地があることがとても大事だと思っています。私自身も考えることが好きだから、疑問を持ち、作品に取り組みながら自分なりの答えを出しつつ、まだ謎が読み解けないからもう一回考える。私の作品にもそういう余地がたくさんあってほしいと思います」。美しさを追求した絵画がどのように作られているか、完璧だと思われる物体の、その先の姿など、普段は想像しない世界に思いを馳せることができる展覧会になっている。

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photo/
Saki Miyahara

本記事は雑誌BRUTUS875号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は875号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.875
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編(2018.08.01発行)

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