Detoroit Reborn

No. 875(2018.08.01発行)
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編
フォードがミシガン中央駅の駅舎購入と10億ドル規模の改装計画を発表した日、長らく鉄条網が張り巡らされていた駅の内部に入ることができた。閉鎖直後から不法侵入者が後を絶たず、前のオーナーが階段を撤去した場所に「階段」とグラフィティが描かれていた。
ミシガン・アベニューにいち早くレストランをオープンしたフィリップ・クーレイが、差し押さえ物件になった元印刷工場を2011年に15万ドルで購入しオープンした非営利の共同スペース。女性・マイノリティの起業家や社会事業を厳選し、1平米を約6.5ドルという破格の家賃でスペースを貸し出すことでデトロイトの町おこしに貢献してきた。ここから中西部で製造する家具のブランド〈フロイド〉や、シュラフに早変わりするホームレス用コート〈エンパワーメント・プラン〉などのブランドが生まれた。「フォードが本気ならデトロイトは変わるかもしれない」とフィル。
アメリカで時計を作るという野望を持って2013年に立ち上げられた〈シャイノラ〉。クリエイティブ・ディレクターのダニエル・カウディルが初めてデトロイトを訪れたのは廃墟化した元倉庫の物件を見に来た時。「アイコニックなアメリカのブランドを作る目標を持ってやってきた。35年放置されていた倉庫はボロボロだったけれど天窓から入る光が美しくて、ポテンシャルがあると感じたんだ」。現在は、時計、音響機器、レザーグッズを扱う店舗、カフェ、花屋からなる複合ショップ。「デトロイトはアメリカの製造業を象徴する場所。再生の物語を目撃できてうれしい」
デトロイトでホワイト・ストライプスを始めたジャック・ホワイトが、デトロイト回帰の望みを具現化したレコードショップ兼プレス工場は、ヴァイナル回帰ブームと工場の不足で大忙し。イベントを開催すれば、ライブ録音をプレスできるとあって音楽業界からの評判も良く、急速に人員を増やして生産枚数の倍増を目指す。ジャックの右腕ロウ・ピーターハンズ(写真左)は生粋のデトロイター。「子供の頃から廃墟だった中央駅が取り壊されずに改装されるのは歓迎すべき出来事。これからデトロイトにとって必要なのは、人口の増加。開発だって人がやってこなければ意味がない」
世界を旅しながらコーヒーショップで経験を積んできたミシガン出身のダイスケ・ヒューズがデトロイトに戻ってきたのは「この町で何かをやりたい」という夢を忘れられなかったから。雇われた店が潰れ、自分の店を開けようとポニーライドのフィルが安価で購入した駅前のスペースを借りた。資金はなかったからレストランで働きながら仲間の手を借りて3年かけて店を作った。「廃墟だらけだったから資材には困らなかった。みんなが成功を夢見て手伝ってくれた」。店は成功したがコストの上昇という新たな現実がやってきた。「でもデトロイトに希望が戻るなら文句はないよ」
7世代目のデトロイター姉弟エミリー&アンディ・リンがデトロイト・メイドのグッズを売る店を開けたのは2009年。フルタイムの仕事をしながら週末のマーケットで自作のクラフトを売るうちに、仲間のメーカーたちに出会った。「デトロイトには資本がなかったから、住民たちはいつも副業を生活の足しにしていた」。リテール業がほぼ存在しない街だからこそ店をやろうと決めた。自動車工場の跡地が廃墟化していたこの地域を選んだのは、都市計画を専攻したアンディが、幅の狭い道を見て「歩いて買い物できる場所になる」と思ったから。4年後にシャイノラがやってきた。
デトロイト市のバスが麻痺したのを見て、古いスクールバスを使う民間のバス会社を始めたアンディ・ディドロシィ。究極のDIY方式から社会企業に成長、15台のバスを運営するに至った。今はサービスの料金の一部が、デトロイトの貧困地域の子供の通学に使われる半チャリティ的システムで、観光客や大企業にバスのサービスを提供する。「デトロイトが底辺に達した時、アーティストとクリエイティブ層がやってきた。そのあと大企業がやってきた。フロンティア時代はもう終わったんだ」。フォードの発表を受けて家主に長期契約を拒まれた。今、市内で新天地を探している。

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photo/
Naoko Maeda
text/
Yumiko Sakuma

本記事は雑誌BRUTUS875号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は875号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.875
みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編(2018.08.01発行)

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