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世界に冠たる、知的ホビーの街へ。【神保町】

細野晴臣 × 中沢新一「東京天国」

No. 874(2018.07.17発行)
LIFE IS PARK!
駿河台の太田姫稲荷神社。室町時代中期に太田道灌が娘の疱ほう瘡そうの治癒を京都の一口稲荷神社に祈願し、回復したことから創建されたいわれを持つ。
細野さん行きつけ、昭和28(1953)年創業のタンゴ喫茶店〈ミロンガ・ヌオーバ〉横の植木たち。
創業100年を超える老舗、神保町を代表する名門〈一誠堂書店〉。昭和6(1931)年竣工の店舗は風格が漂う。
裏通りの古書店街を散歩。古書市で横尾忠則装丁本のコーナーを発見し、立ち止まる細野さん。
〈ミロンガ・ヌオーバ〉で休憩。
古書店の多くはメインストリートである靖国通りの南側に並び、北側を向いている。これは直射日光による本の劣化を防ぐためといわれる。
明治17(1884)年創業、淡路町の蕎麦屋〈神田まつや〉は作家・池波正太郎も愛した名店。

音楽家と人類学者の時空を超えたぶらり旅。御茶ノ水に続いて今回は神保町方面へ。古書店と楽器店、スポーツ用品店が並ぶホビー街を歩けば、中国人留学生から文化人まで多くの人々が集い、作り上げた歴史の薫りが漂ってきた。

世界的な一大古書店街、神保町。世界に冠たる、知的ホビーの街へ。学生と文化人の歴史を残す神保町で「男子的街歩き」。

中沢新一 
湯島聖堂から聖橋ひじりばしを渡って、神田駿河台の鎮守、太田姫稲荷神社へ。この周辺は職場(明治大学)の近くなんで、僕にとっては勝手知ったる庭みたいな場所ですけど、そもそも神保町には学生時代からずっと通ってますね。靖国通り沿いの老舗〈一誠堂書店〉なんかは、先代の頃から随分お世話になりました。
細野晴臣 
そうなんだ。僕は本屋は全然。学者とミュージシャンの違いだな。中学生の頃は淡路町の模型屋さんにはよく行ってたけど。プラモデルじゃなくて、木の模型ね。戦車や戦艦が好きだったから。
中沢 
淡路町は渋かったよね。
細野 
そう。当時、貸本の問屋があったんだよ。その頃、白土三平『忍者武芸帳』の単行本が家の近所で売ってなくて、わざわざ買いに行った。
中沢 
それで、さらに秋葉原まで降りていくと、鉄道の線路沿いに「バッタ屋」がいっぱいあってね。
細野 
あったあった、パーツ屋だ。
中沢 
僕、子供の頃から科学好きで、ラジオを組み立てるのにハマってたんで。模型ファンだった従兄弟に連れていってもらいましたよ。
細野 
あの頃、みんな半田ごて持ってたよね。鉱石ラジオのブームがあったし。(鈴木)茂なんかは大得意だったみたい。実家が工場だから、部品や道具が揃ってるんだ。
中沢 
僕はFMが聴ける「5球スーパーラジオ」。1970年代には初期のコンピューターも自作してました。
細野 
僕もプログラミングしてた、BASICで。いい時代だなあ。
中沢 
ですねえ。秋葉原は電子工作。神保町は本、楽器、スポーツ。男子に人気のホビーの街ですね。今回は少女的街歩きじゃなくて(笑)。
細野 
あと神保町では喫茶店。もうずいぶんなくなっちゃったけど。この10年くらいは〈ミロンガ・ヌオーバ〉ばかりだな。蕎麦屋にもよく行くよ。〈神田まつや〉がいいね。
中沢 
実は神保町中華料理屋も多いんですよ。明治大学近くに今もある〈漢陽楼〉はかつて周恩来らが通った店。湯島聖堂をはじめ、学校が集積していたこの地区には漢学の文化があって、明治時代中国人留学生が集まっていました。中国革命はまさにここで生まれたんです。
細野 
学のある人がたくさん集まってたんだろうな。本物の文化人が。
中沢 
そういえば昔、この神保町や本郷の古書店街でよく植草甚一さんを見かけました。推理小説のペーパーバックが並んでいるような店の中で、赤とオレンジのチェックのコートを着て立っていて。「あっ、植草さんだ! かっこいいなあ〜」とそっと横に並んでみたり(笑)。あと武満徹さんもよく見かけた。
細野 
そういう人たちが通った、歴史を持っている街が今も残ってる。それがすごいんだよ。
中沢 
商業の都じゃなくて、インテリジェンスの街ですもんね。実際、パリのカルチェ・ラタンにだってこんなに書店はありません。世界に冠たる街。威張るわけじゃないけど、ちょっと誇りたいですよ。
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HARUOMI HOSONO
1947年東京都生まれ。音楽家。69年にエイプリル・フールでデビュー後、はっぴいえんど、ソロ、ティン・パン・アレー、YMOなどで活動。2017年、2枚組アルバム『Vu Jà Dé (ヴジャデ)』発表。

SHINICHI NAKAZAWA
1950年山梨県生まれ。人類学者。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治大学野生の科学研究所所長。『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)ほか著書多数。近著に『アースダイバー 東京の聖地』(講談社)。

photo/
Yurie Nagashima
text/
Kosuke Ide
edit/
Naoko Yoshida

本記事は雑誌BRUTUS874号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は874号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.874
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