エンターテインメント

安易な共感や参加者を省いたSuchmosのすごみ。

西寺郷太のポップ警察〜名曲・珍曲・捜査録〜

No. 874(2018.07.17発行)
LIFE IS PARK!
漂うリズム譲れぬイズム。発売中のミニアルバム『THE ASHTRAY』収録。ボーカルYONCEはプレミアリーグのリヴァプールの大ファン。アディダスのW杯記念映像にも出演。

「VOLT-AGE」Suchmos

今、小学3年生の息子がサッカーに没頭しています。息子の試合を応援するうちに自分も改めてサッカーにどハマりしてしまいました。ちなみに僕はサッカー部出身。強豪チームに所属し、補欠ですが中学2年生の時には全国大会も経験、その頃からデータ分析が好きで。今回の「W杯」も全試合ノートを記録しながら観続けました。繰り返し聴いたのがNHKテーマ曲、Suchmosの「VOLT−age」。正直、最初は日本のテレビ・タイアップのスポーツ応援曲の中では異色な、ゆったりとしたテンポとコール・アンド・レスポンスを拒絶した構造に「え?」と、思ったんです。やはり視聴者のエネルギーの高揚を音楽が煽り、番組の温度を意図的に高める過剰な作りをクライアントが希望することが多いので。僕も音楽業界で生きるうちに変に慣らされてしまったのかもしれません。実際、民放では「オー! オー!」などの観客参加を前提とした化学調味料バリバリテーマ曲が採用されていました。しばらく聴くうちに僕はSuchmosが「安易な共感、参加を意図的に省いた」そのすごみに素直に感動し始めたんです。旧態依然として超速い縦ノリのテンポか、逆に理詰めのコード進行で数学的な感動をもたらすバラードしか理解できない人が多い日本を、彼らは本気で変えようとしている、と。歌詞担当のYONCEさん自身がサッカーマニアで、ギタリストのTAIKINGさんが、元日本代表の戸塚哲也さんを父に持つ、という環境もあるのかもしれません。サッカー自体がもたらす感動や興奮、熱狂を彼らは信じている気がするんですよね。無粋な化粧はいらない、と。人は完全に集中した時、時間がゆっくりと流れるような気分に陥るもの。90年代のドラムンベース的にテンポの解釈が速くなり、またサビで遅くなるアレンジはその「集中」の領域を上手く表現してますし、「弾む星の音」というフレーズも素晴らしい。世界中から勝ち残り集まった「国」「選手」、どこに弾むかわからない「ボール」の存在をそれぞれ「星(スター)」になぞらえる詩の描き過ぎない美しさ。(今更だけど)Suchmos最高!

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

にしでら・ごうた/音楽プロデューサー、ノーナ・リーヴスのシンガー&ソングライター。YouTubeチャンネル「GOTOWN TV」を開設!

edit/
辛島いづみ

本記事は雑誌BRUTUS874号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は874号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.874
LIFE IS PARK!(2018.07.17発行)

関連記事