映画

“死”とは何か? “現実”とは何か? 鬼才アルベール・セラ監督に渋谷慶一郎が問う。

BRUTUSCOPE

No. 873(2018.07.02発行)
福岡の正解
フィクションの作品なのに、画面からは拭いようのないリアリティが匂い立つ。映画『ルイ14世の死』の舞台裏。
ヴェルサイユ宮殿の豪華な建物の中で、きらびやかな衣装に包まれ優雅な生活を送っている人にも、“死”は等しく訪れる。映画『ルイ14世の死』は、現代にも通ずる死の問題を、壮大なフィクションで描き出す。「いろいろな意味ですごい映画!」と称賛をした音楽家の渋谷慶一郎さんが、アルベール・セラ監督の映画作りと思想を直撃した。

渋谷慶一郎 監督のことは予備知識がまったくなく映画観賞後に最初に思ったのは、ストローブ=ユイレ(編註:ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレ。共同で挑発的な映画を撮り続けた映画作家)直系の映画作家だということ。僕は彼らの作る映画がすごく好きだし、この映画にも同じ匂いを感じました。
アルベール・セラ ストローブ=ユイレのことはとても尊敬しているし、多大な影響を受けている。でも、彼らの作品を実際に観たのは、映画製作をするようになってから。私が心を打たれるのは「宗教画のような硬直した感じ」「ノンプロの俳優を使っていること」「固定画面で俳優がカメラに向かって正面を向いていること」そして「自然との融合」です。彼らの作品を評するときに、政治性を挙げる方もいますが、そこには同意しません。ただ、彼らの美意識には影響を受けている。
渋谷 ストローブ=ユイレは「目の前の現実を固定するのが映画である」というコンセプトなので、同時録音(以下、同録)が重要なファクターです。この映画も同様ですよね?
セラ 私も完全に同録。同録中心主義です。たまに大きなエラーがあったときだけ、後でポスプロの際にアフレコで対応をします。
渋谷 なるほど。じゃあ脚本はどのくらい厳密に書かれているのでしょうか?
セラ 90%は決まっています、すなわちアクションの部分はすべて。ただ、1ヵ所だけ台詞で決まっていた箇所があって。それはルイ14世が曽孫に言う台詞なんですが、歴史的な言葉なので変えるわけにはいかなかった。でも残りの台詞はすべて現場で作り出したものです。今回参照した資料には、当時の宮廷での人々の動きが仔細に描かれているので、現場で台詞をつけていったのです。
渋谷 撮影方法はどのように?
セラ 常に3台のカメラで長回しで撮影しています。そこで、俳優にある状況を与える。ワンシーンワンカットで、同じことは2度させません。脚本で固定した部分とその場で俳優から自発的に生み出される台詞によって微妙で軽やかな部分が出てくる。いかさま医師との対立、医学に対するアイロニカルな視点があって、そしてテーマである死の凡庸さ、陳腐さを強調している。もう一つ撮影現場で私がやっている仕掛けがあります。それは、シーンに登場する俳優の中の1人だけにこっそりと動きの指示を出すこと。ほかの俳優はその人が指示されていることを知らない。指示を与えた俳優は自分だけが指示されていることを知らない。俳優が指示通り動くと周りの人は彼が即興で演技をし始めたのだと思って、それに合わせて反応をする。彼らの動きは自発的なもの。そして、現場ではすべて予想不可能なことばかりが起きる。
渋谷 この映画の重要なテーマは現実とは何かと、死とは何か。編集段階で現実を作り上げていく手法はいまの映画の主流だけど、撮影の段階で“もう一つの現実”を作り上げるっていうのはブレヒトの演劇にも通じて逆に新鮮です。
セラ 私は撮影をパフォーマンスだと考えているので、ショットを準備するようなことはしません。だから、撮影して出来上がってくるラッシュはとても異質なものが入っている。そこに編集で一貫性を持たせています。俳優に情報を与えすぎると混乱を招くでしょう? 渋谷さんが賢いなと思うのは、人間の俳優を使わないことですね。
渋谷 僕は人間にあまり興味がないんです。
セラ それはいい。時間の節約になるね。
渋谷 コンピューターの歌手は文句を言わないです
から(笑)。でも現実を描くには撮影現場を編集の素材作りとしないで、そこで起きる現実を最小のシステムで半ば強引に作り出す、つまり仮想ではない現実にこだわるというのは現代では逆に面白い。この映画では、死という誰もが共有している現実とその過程を、引き伸ばしたり重ねたり拡大したりすることで、濃密なのか空虚なのかわからない幻覚的な時間が延々と続いていく。しかし逆に生とはそういうものかもしれないなと思ったり
もしました。

ルイ14世の死』
監督:アルベール・セラ/出演:ジャン=ピエール・レオ、パトリック・ダスマサオ、マルク・スジーニほか/太陽王と呼ばれたルイ14世が病床に伏して亡くなるまでの数週間を描く。俳優たちの佇まいはもちろん、荘厳なセットや重厚な衣装も見どころ。全国順次公開中。
©CAPRICCI FILMS, ROSA FILMES, ANDERCRAUN FILMS, BOBI LUX 2016

photo/
Katsumi Omori
text/
Keiko Kamijo

本記事は雑誌BRUTUS873号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は873号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.873
福岡の正解(2018.07.02発行)

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